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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
序章 『転生』
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第6話 エース

 老人はそのまま一歩、また一歩とメリーに歩み寄る。

(…えげつない腕してるんだけど~)

 メリーの目の前にいるのは、少し猫背気味で、真っ白な髪をした、どこにでもいそうな老人だが、左腕は右腕よりも二回りくらい大きく、指の一本一本がナイフのように鋭利に作られている。

「なぁ~に突っ立っておる。逃げるのか反撃するかをさっさと決めろ」

 老人はゆっくりとメリーに近づき、目にもとまらぬ速さで手刀を放つ。

「嘘でしょ!」

 メリーは残った腕で攻撃を受けようとするが、手刀はメリーの腕を簡単に貫く。そして、老人はそのままメリーを押し倒し、頭を鷲掴みにする。

「ヒィ!」

 メリーは圧倒的な力を前に反撃も逃げることもできなかった。

 恐怖で硬直しているメリーを老人はなんの躊躇もなく、そのまま握りつぶした。そして、涼しげな顔で立ち上がりながら、指にくっついた肉片を取る。

 ベティはゆっくりと歩いてくる老人に向かってアイスランスを放つ。

「あぁ、安心しぃ。お前さんを殺す気は無いからな」

 老人は飛んでくる氷の刃をはじき返すとベティの手を掴み、立ち上がらせる。

「俺はメイブン・ジャッタリーだ。とりあえずよろしく」

「え?えっと、私はベティ…です」

 てっきり殺されると思っていたベティは困惑しながら自己紹介をする。

「まぁ、とりあえず家にあがってけ。お前さんの仲間もいるぞ」

 メイブンはビルの扉を開け、ベティを中へと招き入れる。

(信用していいのかな…いや、でも助けてくれたし、危険そうだったら逃げればいいか)

 ベティは警戒心MAXでビルの中へと入っていく。

「あら、ベティ。遅かったじゃない」

 ビルの中ではコーヒーを飲んでいるバースとミアナがいた。

「…二人ともあんなことがあってよく寛げますね」

 ゆるい雰囲気に包まれている空間に入ったベティは自然と警戒心が薄れていった。

「お前さんも飲むか?」

 メイブンは慣れた手つきでコーヒーを淹れるとベティに渡す。ベティは毒や薬などの警戒はせず口に運ぶ。

「ありがとうございます…にっが!」

「あぁ?なんだ。コーヒーが無理なのかよ。おい。オルス」

 メイブンがそう叫ぶと部屋の奥からガタイのいい青年がやってくる。

「あいあい。なんですか?」

「オルス。コーヒーやるぞ」

「えぇ…」

 メイブンはコーヒーをオルスに押し付けると、ベティたちと対面するように座る。

「俺はエースっつう組織のボスをやってる。で、こいつが雑用のオルス・ガーガル」

 コーヒーを飲んでいるオルスを指さす。

「まぁ、んなこたぁどうでもいい。お前さんたちは行く当てもないんだろう?こっちは労働力が欲しくてな。色々優遇もしてやるよ」

「いや、私たちは見ず知らずの組織に入る気は無いわよ。それに名前くらい名乗ったらどうよ?」

「え?この人、メイブン・ジャッタリーさんって言ってましたよ」

「あら。ベティには自己紹介してたのね。ん?メイブン…ジャッタリー?」

 ミアナは数秒間の沈黙の後、何かに気が付いたようで、顔をガバッとあげる。

「メイブン・ジャッタリー!?」

 ミアナは驚きの声をあげる。驚きのあまり勢いよく席を立ち、飲んでいたコーヒーをこぼしてしまった。

「知り合いですか?」

「違う!有名人よ!英雄よ!この人、メイブン・ジャッタリーは「狂爪のメイブン」の異名を持つ超実力者で、七大国家のアサルトエンジェルで大将として活躍してきた人よ!この左腕の爪で数多の人も、戦車も、戦闘機も!貫いてきたといわれてるのよ!でも、ンダラ地区掃討戦で死んでいるはずなのに…」

 早口で熱弁しだす。ちなみにベティはミアナの説明でいまいちメイブンの強さが分からなかった。

「それは本当なのか?じいさん」

「あぁ、多少尾ひれがついてるがな。しかし、お前さんはよくそんな知ってるな。俺が死んだことになったのは30年前だぞ。まだ、生まれてないだろ。割と隠し通せておったんだけどな」

「あんたの話は結構有名よ。死んでることになってる上、年取ってるからバレてないだけよ。それに、ここがアサルトエンジェル領の外だからってのもあるでしょうけどね」

 まだ熱が残ってるようで少し大きめな声を出しながら机をドンと叩く。

「おい、俺の話はどうでもいいんだ。入るのか?」

「入るわよ!」

 さっきまではそんな素振りを見せてなかったミアナがベティたちの声も聞かずに元気よくOKした。

「えげつねぇ手のひら返しだな。ま、俺はどっちでもいいけどな」

 バースは苦笑いしながらそうつぶやく。組織に入ること自体は別に嫌とは思ってないようだ。

「そうか。それとお前さん…ベティだったな。こっち来い」

 メイブンは手招きすると、扉の向こうへと姿を消す。ベティはなんだろうと思いつつ扉を開く。

「わ。ハロー」

 そこには大小様々な機械が中央にある手術台を囲むように設置されており、作業服を着た女性がベティに向かって小さく手を振る。

「こいつはリンシャ・マヤラだ。技師をやっておる。ベティ、横になれ。腕を付けてやってくれ」

「はーい」

 メイブンは手術台をポンポンと叩く。素直に手術台の上で寝転ぶベティにリンシャは何個か義手を持ってくる。

「どれがいい?多分ベティちゃんの腕に合うのは…あ、これだけじゃん。じゃ、これ付けるね」

「ちょ、ちょっと待ってください。それってどうやってつけるんですか?」

「普通にベティちゃんの神経をこの義手に連結させるだけだよ。はーい、チックとねぇ」

「え、ちょっと待ってください!まだ私それをつけるとは言ってませんけど!」

「そうだね。腕が無いと不便だもんね。だぁから、私に任せてね」

(話が通じないんだけど!?)

 戸惑ってる内にリンシャは慣れて手つきでベティの腕を固定すると、麻酔入りの注射器を刺す。即効性が高いようでベティの意識はすぐさま薄れていく。

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