第5話 氷と血の交錯
「私はあなたたちの思うように動くつもりは無いわ。だからといって殺すほど野蛮でも無いわ。帰りなさい」
ベティは魔法を解除して自分たちが歩いてきた道を指さす。
「…メリー帰るぞ」
「え?えぇ、分かったよ」
ベティは去っていく二人に背を向け、ミアナたちのもとへと駆け寄る。
「ありがと。助かったわ。相変わらず殺しはしないようだけど」
「えぇ、私はそう教わってきましたから」
「そ、あなたなりの信念があるならそれを貫けばいいと思うわ。ただ、早死にするとだけは言っとくわ」
そう言うとミアナはその場に座り込んだ。
「ていうか、ブリザード~とかアイスウォール~とかって私にも使えるものなの?」
「さぁ、どうでしょう。ミアナさんの体に魔力がめぐっていて、適正があれば魔法が使えると思いますよ」
「へぇ。その適正ってどうやれば分かるんだ?」
「専用の道具が無いと分からないんですけど…あ、氷魔法と治癒魔法の適正があるかどうかは分かりますよ」
ベティはミアナの手を握り、数秒目を閉じた後、バースの手を握る。
「うーん。お二人はどちらの適正はありませんが、魔法自体は使える構造になっていますね」
「ん?どういうことだ。つまり、魔法を使えるってことか?」
「いえ、魔力が通ってないので、魔法は使えません。しかし、外部から魔力を流せば使えようになると思いますよ」
ベティは再度ミアナの手を握り、自身の魔力を流し込む。
「はい。できました」
「え、終わり?なんの変化もない気がするんだけど」
「それはまだ魔力がめぐりきっていないだけです」
「じゃあ時間が経てば俺らも魔法が使えるってことか。ベティ、俺にもやってくれ」
「はい。了解です」
ベティがバースの手を握るために、ほんの少し前のめりになる。その直後、ベティの後頚部をヒュンと銃弾がかすめる。
「え?」
ベティは弾の飛んできた方向に視線を向けるが、誰もいなかった。
(アレ?確実にこっちから何かが来たハズ…)
ベティが困惑していると、頭に強い衝撃が走る。振り返るとそこには、バールを持ったメリーが立っていた。
「どこから現れたのよ!?」
メリーはベティの問いかけを無視して攻撃を浴びせる。
「ブッ殺タ~イム」
ベティは咄嗟にバールを掴んで押し返そうとするが、片腕だけのベティが全体重をかけてくるメリーに敵うわけもなくあっさりと押し負けてしまった。
「ベティ!大丈夫か!?」
バースがベティの助けに入ろうとしたが、唐突に表れたカルラに手首を掴まれてしまった。
「おいおい。メリーはちょっと負傷気味なんだから、二対一は可哀想だろ。私が相手してやるよ」
そう言うと、バースを地面にたたきつけ、蹴り飛ばす。そして、背後から襲いかかってくるミアナに向かって銃弾を放つ。
「うわっ!」
ミアナは体を反らして避けたが、がら空きになった腹部を殴りつける。
(二人とも押されてる…さっさと終わらせなきゃ)
「ヒール」
ベティの頭から流れていた血が止まる。
「そういうのするのやめてよ。殺すって決めたのに欲しくなっちゃうじゃん」
メリーはバールをベティの体に叩きつける。ベティは攻撃を避けて、魔法を詠唱する。
「アイスランス!」
二本の氷の刃がメリーの手からバールを引きはがし、もう二つの氷の刃がメリーの足を貫く。
「やっぱり足を狙う。いいもの持ってるのになんでそんなことしてるの~?」
メリーは氷の刃の刺さった足でベティを蹴りつけ、そのまま体に突き刺す。ベティは慌てて魔法を解除しながら後退する。
(迂闊にアイスランスを出せないわね)
魔法を使っていたベティは殴り殴られの肉弾戦に移行する。
「ほらほら。あの氷柱攻撃をしてくれないの?このまま私が殺しちゃうよ」
ベティは矢継ぎ早に繰り出される攻撃に押されていく。
(このままじゃ押し切られてしまう。この魔法なら反応できないでしょ)
ベティは攻撃を受け流しポンッと腹を押す。
「少し強めでいくから。フロスタ」
「ウッ!イッタいわね。あんたどんだけ引き出しあんのよ!」
メリーはほんの少し怒気を帯びた声をあげながら拳を握り、殴りかかる。
「見切った!これで終わりよ」
ベティはメリーの攻撃を受け流し、顔面を思いっきり蹴り飛ばす。綺麗にカウンターを食らったメリーはそのまま倒れていく。
「終わるのはそっちなんだよ」
ギリギリのところで持ちこたえたメリーはポケットから何かをベティの顔に向かって飛ばす。
「アッ!視界が…」
ベティの左目に小さめのナイフが突き刺さっていた。慌ててナイフを抜き、ヒールを唱える。
(痛みが引いていったけど、視界が回復しない)
「痛そうだね」
ベティが顔を上げた瞬間、メリーのつま先が顔面に食い込む。相当なダメージだったのか、ゴロゴロと転がり、立ち上がる気配がない。
「あぁ、いったぁ~い。きっつ~い。カルラー。こっち終わったよ」
メリーが振り返っても、そこにカルラの姿は無かった。
「アッレェ~?カルラ~どこ~」
メリーが叫ぶと物陰から丸い何かが、赤い液体を飛ばしながら足元まで転がってくる。
「…カルラの生首」
「あぁ、そうだ」
メリーがカルラの生首に気を取られている間に老人が近づいていた。
「おじいちゃん。これは~?」
「家の目の前でうるさくてな。ちょっと殺させてもらったぞ」
「へぇ~。じゃあ、もう一人うるさいのがいるから殺すよ?」
メリーが老人の首をガッと掴み力を込める。その瞬間、メリーの腕が吹き飛んだ。
「安心せい。今から駆除するんだよ」
老人は不敵な笑みをメリーに向けながら近づいていく。