第32話 変幻自在
「クウコ!どうするの、これ!?」
ベティは明らかに会話が通じなさそうなティンクルを前にして困惑しながらクウコに問いかける。
「こうなったらしょうがないね。アイツをぶっ飛ばすよ。もちろん死なない程度にね」
今から仲良しこよしで協力しようとする組織の人間をそんな目を合わせていいのだろうかと考えながらクウコの目を見る。その目に気づいたクウコは言い聞かせるように言った。
「ベティ、知ってるかい?この世はねぇ…どんなに納得いく理屈を並べても、どんなに完璧な論理を吐いても弱ければ悪、負ければ悪なのさ」
クウコが喋っている最中だというのにティンクルは銃を発砲する。クウコはそれにしっかりと反応し、ベティの手首を掴んでミースたちの所まで投げ飛ばす。
「とはいえ、さすがに多対一は可哀そうだろう?アンタらはそこでアタシが勝つのを黙って見ていることさ」
「随分な自信…もう勝った気?」
「まぁ、アンタらが殺せないヤツを殺すために来たんだからね。アンタらより強くないと来た意味がないよ」
クウコは足の裏から炎を噴射させて加速する。
「初っ端から全開で行かせてもらうわよ!」
クウコはティンクルに突っ込んでいき、その隣を通り過ぎていく。それにつられて振り返ったティンクルの横をさらに通り過ぎていく。
「おちょくって…」
視線をあっちこっち動かしながら怒りと困惑の混じった声色でつぶやく。それを聞いたクウコはティンクルの耳元で囁くように言う。
「こんなにも翻弄されてくれるとこっちも助かるよ」
クウコのことを見失ったティンクルの背後からジェットの推進力がのった蹴りを食らわせる。
「こんなにも簡単に引っかかってくれるとこっちも助かる」
ティンクルはただ吹き飛ばされたのではなく、クウコの位置を確定させたのだ。吹き飛ばされると同時に両手に持った銃をクウコに向けて銃弾を放つ。
「くっ!?」
至近距離で放たれた銃弾だが、持ち前の俊敏性で即座に避けた。
(四、五発食らっちゃったようだね)
クウコは左肩をさする。しかし、顔は余裕そうな表情を崩さず強がっていた。
「どうだい?アンタの攻撃は全くの無力なのだけど。アタシのスピードの前じゃアンタは勝てない」
蹴り飛ばされたティンクルは壁に衝突していて、口から少量の血を垂らしていた。
「…この一回で勝った気でいるの?」
ティンクルは両手にある拳銃をスッと地面に落とした。武器を捨てたというのに、武器を持っていた時よりも自信に満ち溢れている。
(この女、奥の手を隠しているタイプかい。ま、それでも勝つのはアタシだけど)
そう思いながらも念のためを考え、確実に拳銃の射程距離外まで下がる。
(この距離ならアイツの攻撃は届かない。そしてアタシは一秒もあれば距離を詰めれる)
負けようがない。そう考えていた時、ティンクルはスカートを少したくし上げる。両足のガーターにホルスターが取り付けられており、そこからさっきのと似たような拳銃を取り出す。
「…それで、何が出来るのかな?」
「貴様を殺すことが出来る」
ティンクルは二丁の拳銃を上に向かって投げる。
「もう一つ。そこは射程内だ」
投げた拳銃は空中で自動分解され、ガチャガチャと部品たちが合わさっていき、ティンクルの両手に着地する。
拳銃を投げてキャッチするまで三秒。その間に拳銃は分解、再構築を終えて、二丁の拳銃は一つのライフルとなった。
「クウコ!体を右に傾けろ!!」
クウコはミースの叫びに反射的に反応してティンクルが発砲した銃弾を避ける。
「ッ!驚かされたけど…武器を強化してもとアンタは強化されてない。アタシを追えなければ意味ないだろう?」
クウコは猛スピードでティンクルの周りを回っていく。そして徐々に円を小さくしてティンクルに近づいていく。
「見えなくても…当てることはできる」
ティンクルはクウコが迫ってくる前にライフルをさらに変形させる。
クウコは変形した銃を見て、ティンクルへの接近を中断する。
「マ、マシンガン!?」
クウコが叫ぶと同時にティンクルはマシンガンに変形した銃を乱射する。弾はクウコを狙っているわけでは無く、何も考えず回転しながら弾を撃ち込む。
(避け切れない!!)
大量に放たれたどれだけ銃弾を避けても別の弾に被弾してしまう。
(アイツはアタシのこと見えてないっていうのに…いや、見えてないのか)
クウコはジェットの噴射を止め、ティンクルを見つめながら叫ぶ。
「こっち見な!」
ティンクルは声に反応し、マシンガンを立ち止まっているクウコに向ける。
「何を考えてるか知らないが、貴様の負け」
ティンクルはクウコに向かって大量の弾丸を浴びせかける。
「クウコ!避けて!」
ベティが大声をあげるが、クウコは動じず、向かってくる弾丸群を見つめていた。
「フフッ。アタシの、勝ちさ」




