第30話 水上戦
「舐めんなよ。クソ野郎!」
ビリーはバイクと衝突すると同時に、ルールーの顔面にパンチを食らわせる。殴られた勢いで吹っ飛びそうになるルールーは、左手でハンドルを掴んで持ちこたえ、右の手でビリーに殴りかかる。顔面にめり込むくらいの拳を受けたビリーは空中を吹き飛ぶ。
「舐めた覚えはありません。どんな相手でも私は本気で殺しにいきますよ」
ルールーは互いの距離が遠ざかった瞬間に急接近し、前輪を思いっきりでビリーを叩きつけた。ドローンと共に水面に叩き落されたビリーが顔を出したと同時にルールーの追撃が飛んできた。
「あ!?」
バイクと衝突したビリーは湖の奥深くまで沈められていった。
「ゴボッ!ガバッ!」
沈められたビリーの肺の中に水が入ってしまい、ものすごい圧迫感が肺を襲いかかって来る。
早く水面に出ようという考えと、水面に出てもまた押し返されるのではという考えがビリーの頭に走ったが、水が口の中に入った今ではそんなことを気にしていられる暇はない。
息がもたなくなったビリーは必死で水面に向かって浮上していく。
「ぶはっ!」
水面から顔を出して思いっきり息を吸い込もうとした瞬間、空中で待機していたルールーがバイクで突進してきて、再度水中に戻されてしまった。
「貴方が出てくれば押し返すだけです。息を吸う暇など与えません」
ルールーは水面から少し離れた位置まで移動して、再度ビリーが出てくるのを待機した。
「ごぼぼぼぼ…」
ほんの少しだけ息を吸うことができたが、本当に少しでもって二分程度だ。さっきよりも勢いよく叩きつけられたビリーは湖の底にぶつかった。底といっても先人たちが捨てていったであろうゴミや死体が積もり出来た人工の底である。
(様々なものが沈んで…おや?これは使えそうでは…)
ビリーが廃棄物の山から取り出したのはナイフだった。だいぶ錆びているが、他のものに比べたら上等であった。
(このナイフ…使えそう…)
ビリーはドローンとナイフを交互に見ながら、その両方に向かって手を伸ばす。
「…あと五分、いえ十分待機しても浮かんでこなけらば計画に戻りましょうか」
ビリーが水中でなにやらやっている間、ルールーは水面から浮かんでくるであろうビリーを待機していた。
(皆さんのもとに早く行かなければ…計画の始動に遅れてしまいます)
ルールーは時間を気にしながらビリーが出てくるの待っていた。
「…来ましたね」
水面の向こうからビリーの影が見えてくる。ビリーが水上に上がって来る前にもう一度水中に沈めようとバイクを水面の近くに寄せる。
「もう貴方に助かる手立てはありません。私のためにも早めに死んでください」
バイクを縦に大回転させてビリーの頭をタイヤで思いっきり叩きつける。その勢いは凄まじく、ビリーの体は水切りのように水面を跳ねてから沈んでいく。
「貴方がどんな策を講じようと勝てることはありません。それにさっきのでだいぶ大きなダメージになったでしょう?楽に死ぬなら今ですよ、目を閉じて、眠ってください」
そんなことを言いながらビリーが沈む様子を見ていた。汚れた水であるが、ビリーはそんな事構わず口を動かし何かを喋る。
(…何か、言っていた。口を開けば水が入るというのに… なぜ?)
ビリーが何をしたのか考察するためにビリーの唇の動きを思い出す。
(突き進め…。どういう…)
ビリーの口の動きを思い出すと同時にビリーの顔、その中でも目の動きが鮮明に浮かんできた。
「あの男、どこを見ていて…?」
ルールーを見ていたと思われていたビリーの視線の先はルールーの真上にあった。
(上に、何かある!)
ルールーは勢いよく頭上を見上げる。
「ドローン…!」
そこにあったのはビリーが持っていたドローンでアームには錆びたナイフが握られていた。ドローンはすぐそこまで来ており躱すことはできない。
「ッ!避ける、必要などありません!」
ルールーはバイクの上で大勢を低くし、ドローンのアームを蹴りで破壊する。ナイフはルールーの顔を切りつけるが、浅く頬を切った程度で致命傷にはならなかった。
バラバラにされたドローンはそのままナイフを離して湖の中に消えていった。
「少し驚かされましたが、結局私には敵いません」
「ドローンを壊されることは予想済みなんだよ」
ルールーがほっと息をついた瞬間、水面から男の声が聞こえてくる。
ドローンと入れ替わりでビリーが水上に上がってきた。ハンドルから手を離していたルールーはバイクを動かすのに僅かな時間が必要だった。
「視線を上に誘導したんだよ。オレが一番信頼してんのは結局オレの力なんだよ!」
ビリーは腕をチェンソーに変形させてルールーを斬りつける。不安定な体勢で乗っていたルールーはバイクから転げ落ちてしまった。
「ッ!まだ、挽回は可能です」
湖に落ちそうになったルールーはバイクを自分に引き寄せる。
「てめぇのバイク、水中走れねぇだろ?潜水可能のバイクなら沈んだオレを潜って殺しに来るからな。つまり…」
ビリーはバイクを思いっきり蹴り飛ばす。元々ルールーが引き寄せてたバイクにビリーの蹴りの勢いが加わった。バイクはルールーを巻き込んで水中に沈んでいく。
「もう一丁!」
ビリーはルールーの首元にナイフを突き刺して、バイクをさらに蹴り飛ばす。
「お前は水中だと何もできないだろ?」
「ゴボッ!カホッ!」
バイクの下敷きになったルールーは暴れるが、バイクが動く様子はない。おまけに首にはナイフが刺さってある。抜け出さないと死んでしまう。しかし大型二輪のバイクを退かせるほどの力はルールーにはない。
もがいているルールーの首からの出血はどんどん酷くなり、水も口の中に入っていき呼吸が苦しくなっていく。
「ぷはっ!ケホケホッ!後は勝手に死んでくれるだろ」
水面に浮上したビリーは、見えなくなったルールーのことを見ながら言った。




