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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第29話 轟くエンジン音

「ク、クウコ。車揺らすなら言ってよ…」

 シートベルトしていなかったクウコ以外の者は車の中であらゆる荷物と共にごちゃ混ぜにされてしまっていた。

「そんな余裕はないね」

 戦いの終わりを確認したビリーは体を持ち上げて、気分悪そうに窓の外に顔を出す。

「しかし、最後の野郎は車をぶつけただけで本体にはダメージが入ってねぇんじゃないのか?」

「安心しな。この湖は深いうえ、濁ってる。車から脱出できたとしても湖の中を彷徨って溺死体だよ。どうだい?」

 ミースたちが喋っている間もビリーは外の風景を見て気分を紛らわそうとしていた。ビリーが一瞬目を閉じた時、真下から何かが猛スピードで近づいてきていた。

「ぐあぁ!?」

 ビリーの悲鳴が聞こえてみんながそちらに視線を向けるが、もうそこにビリーはいなかった。

「あっ?」

「えっ?」

「ビリー?」

「ちょ、ちょっと!何飛び出してるんだい!?」

 突然窓の外に引っ張り出されたビリーはバシャンと水面に叩きつけられてしまった。

 車の中に残っていた四人がビリーに気を取られていると、ドンッと車の上に何かが落下したような音がする。それも、車体がへこむくらいの大きさのものである。

「この、へこみ方…バイクか?」

「クウコ・リグレッツ、ベティ・ジャッタリー。情報以上の力を有しているようですね。貴方たちがいる限りは計画の進みが滞りそうですね」

 窓の外から女性の声が聞こえてくる。その直後にバイクのけたたましいエンジン音が轟く。

「即刻、排除させていただきます」

 バイクの一部がフロントガラスに一瞬だけ映ったと思えば、銃弾も防げていたガラスをバイクの後輪が突き破ってきた。

「ひゃっ!?」

 高速で回転する後輪がクウコの鼻に付くか付かないかくらいの距離で止まっており、つっかえてこれ以上進まなくなっているようだった。クウコが数ミリでも前傾姿勢だったら、きっと顔はえぐれていただろう。

 クウコは回転するタイヤに向かって拳銃を向けるが、回転の勢いが強すぎてパンクさせるどころか跳弾してくる。

「あっぶな!ヘタに手を出せないじゃない」

 バイクは車につっかかえたままの状態で空中に浮いていた。

「それよりも、ビリーはどうすんだ!?あいつ落っこちたままだぞ!」

 水面に浮かんでいるビリーとバイクを交互に見ながらミースが叫んだ。

「アイツを助けれる余裕なんて…うわぁ!?」

 バイクがこれ以上進まないことを理解したようで、バイクを少し後退させ、もう一度突進してくる。

「っな!?」

 腹部にクリーンヒットしたクウコは座席を巻き込んで車の後ろまで吹っ飛んだ。

「と、とりあえず、小型のドローンを湖に向かって投げろ!」

 ミースの声を聞いたアティアは地面に転がっている真っ白のドローンを湖に向かって投げ飛ばす。

 湖にポチャンとドローンが水に浸る。ビリーがそれを即座に掴んだ瞬間、ドローンがプロペラを勢いよく回して動き出した。

 真っ白な立方体に二枚のプロペラと、小さすぎるくらいのカメラがついており、ドローンの下がパカリと開いてそこから多少の大きさなら持ち運べるだろうアームが姿を現した。

『ビビ…起動しました。目標地を設定してください』

「あのバイクの女に接近してくれ!ずっとだ!」

 ビリーが叫ぶとドローンが勢いよく動き出す。アームに掴まれている腕とは逆の腕をチェンソーに変形させて、女に向かって振りかぶる。

「こっち向け!相手は、オレだぁ!」

 ビリーの接近に気づいた女はバイクを浮上させて攻撃を避ける。

「おい!こいつはオレがぶっ潰す!先に向かえ!」

「はぁ!?無茶だ、ビリー。お前のそのドローンとあのバイクじゃ機動力に差がありすぎる!」

「っるせぇ。やれるかもしれねぇだろ!ちっとはオレを信じろ!」

 ビリーはミースと会話しながら上空に浮かんでいる女に向かってチェンソーを振る。当たり前のように攻撃は躱されていく。

「…ビリーに任せようじゃないか。計画とやらが今も進んでるんだろう。とっとと止めないとまずいよ」

 運転席に戻ったクウコが割れた窓からビリーと女を見ながら言った。

「あぁ、そうだ。すぐこいつを潰して向かうぜ」

 ビリーはクウコに向かって親指を立てると、クウコはそれを受けとって車を動かす。

「まずいですね」

 女はビリーを無視してクウコたちを追いかけに向かう。

「少しゃあこっちを見ろやぁ!」

 ビリーはドローンから離れてなんとかバイクの出っ張った部品を掴む。ぶら下がったままの状態から乗っている女の腹部に蹴りを入れる。

「なっ!?」

 女はバイクから投げ出されてしまうが、バイクは自動で女に引き寄せられていく。勢いよく動き出したバイクに振りほどかれたビリーは再度ドローンを掴む。

「…なるほど。少し、甘く見てましたね」

 バイクに乗り直した女は髪をかき上げてビリーの全身を見つめる。驚いている様子はあるが、多少力を見誤っていた程度と考えているようでまだ余裕がありそうだ。

「てめぇ、さっきのやつらとは明らかに違うな。なにもんだ?」

「何者ですか。正直貴方に名乗って何になるのかは知りませんが…冥土の土産だと思って聞かせてあげましょう。キラードライブの幕僚、ルールー・ムベデリアと申します」

 ルールーはバイクのエンジンを吹かせ、勢い突進させる。

「以後、お見知りおきを。まあ、結局死ぬので知らなくて結構ですが」

 ルールーは衝突が確定したような距離でビリーに向かって言い放った。

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