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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第28話 接敵

 ベティたちは数日間経ってもドライブ旅行を続けていた。高層ビルが並んでいた窓の外の風景は知らぬ間に広大な畑とポツポツと建つ一軒家になっていた。

「おっ、国境越えたようね」

 クウコがポツリと言ったが、誰も興味を示さない。目的地が遠すぎたため既に何国か国境をまたいでおり、聞き飽きた言葉であった。

「あとどれくらい~?」

「フレベーナ農業区。あと一時間もすれば目的地だよ」

「ふーん。…うぇ!?」

 あまりにもスッと言いだしたため、一瞬聞き流しそうになったアティアがピョコンと飛び上がる。アティアに釣られて顔を上げたミースは体をグググッと伸ばして笑う。

「やーーっとかぁ。体が訛ってんだよな」

 ベティは読んでいた本を閉じて助手席の背中をドンドンと叩く。

「ビリー。起きて。着いたって」

「んぅ?ふぁーい」

 ビリーは気の抜けた欠伸をしながら外の様子を見る。

「要請がくるほど危険そうには見えねぇな。何か揉め事が起きれば周辺地域にも少なからず被害は出るだろ」

「どうだろうね。向こうに行かないと分からないし、水面下で動いてる可能性はあるだろうよ…ってコイツ、どんなところで止まってんだい」

 クウコは車を僅かにスピードを落として上昇させる。狭い一本道で一台のバイクが停車していた。バイクには一人の女性が乗っており、黒い髪を風になびかせていた。

「もっと端に寄りなよ」

 クウコは文句垂れながらバイクの頭上を通り過ぎていく。停まっているバイクとの距離がどんどんと広がっていく。

「…クウコ・リグレッツですか。確か…部隊長でしたか」

 バイクに跨っていた女性が青く冷たい目で車を運転していたクウコの名をつぶやく。

「キングリーパーに助けを求めたという情報は本当だったのですか。しかし、部隊長クラスであれば、軽微な誤差でしかありません」

 女性は脳内で複数の人間に向かって通信を繋げる。

「ベギーさん、サラズさん、カルトさん。フレーベナ農業区に現れました。はい、プラン通りに進めてください」

 ◇◇◇

「おぉ、見えてきたじゃない」

 クウコの言葉を聞いたベティは窓を開けて身を乗り出す。

 車が向かっている先には海なのか、湖なのか一面に薄汚れた水が広がっており、ベティはポカンと首を傾げながらクウコに問う。

「水、水、水!だよ。嘘ついた?」

「嘘をつく意味が無さすぎるでしょ。ゴールド・ラッシャーの本拠地はこの湖の真ん中にあるのさ。ここの湖は世界最大級でね、島に着くまで二十分はかかるよ」

 クウコは車を浮上させ、湖の上を渡っていく。

 その時ふとサイドミラーに映った三台の車が視界に入る。なんの変哲もないただの車であるが、謎の違和感を感じていた。その違和感とは、三人の運転手が全員がクウコをサイドミラー越しに見つめていた。

「ッ!敵襲だよ!」

 クウコは開けていた窓を慌てて閉じる。その数秒後サイドミラーに銃弾が飛んできて、反射した銃弾が閉じた窓にヒビを入れた。

 奇襲の失敗を知った三台の車のうち二台がスピードを上げてクウコの車に接近してくる。

「おいおい、コイツら直接車をぶつけに来てやがるぞ!」

 ミースがクウコの肩を揺らして教えているが、もうその時には二台の車が左右を塞ぐようにして接近していた。

「コイツ…!」

 左側の車が無遠慮にぶつかってきて、車が大きく揺れへこむ。そして、その直後に右側の車も同じようにぶつかりに来る。

「クッ!アンタたちだけで…事故っときな!」

 クウコは車を急浮上させて衝突を免れる。そしてクウコの想定では二台の車が衝突するハズだった。しかし、二台の車は紙一枚程度の距離で急ブレーキをかけて衝突することはなかった。

「あそこから止まれるのかい!」

「いや、まだだよ。アイスランスッ!」

 ベティは窓から体を乗り出して真下に向かって魔法を放つ。発生した四本の氷の刃がフロントガラスを突き破り二人の運転手の体を貫く。

「わぁ~、ナイスゥ!」

 操作する者がいなくなった二台の車はフラフラと不規則な軌道を描きながら湖に消えていった。

(い、一瞬で二人を…。あの箱乗りになっている女、ゴドの報告にあった奴か?氷を生み出す…まさか比喩なしの言葉通りだったとは)

 残った車に乗っている男は一つのボタンを叩き押す。車のトランクがバカリと開き、そこから四つの関節がある鉄の棒が飛び出す。棒の先端にはアサルトライフルが取り付けられている。男はクルリと車を反転させトランク前を見るようにする。

「ベティ!体引っ込めな!」

 車の銃から無数の弾丸が襲いかかってきており、車から体を出していたベティはギリギリで車に身を入れる。あと数コンマ遅れていれば体に無数の穴があいていただろう。

「窓を閉めて!この車自体は銃に耐えれるみたいだよ」

「なら、今度はこっちからぶつかりに行ってやろうじゃない!」

 クウコは男に向かって猛スピードで突進していく。男もそれは予想していたらしく銃弾は届くが、クウコたちは追いつけない絶妙な距離感を保ちながら逃げる。

「おいおい。最高速だってのに追いつけてないぜ」

 二台の車は距離をとったままグルグルと旋回している。クウコは追いつけず、男の銃では車に致命傷を与えられない。

(多分、そろそろしびれを切らすだろうね。そこを潰してあげるよ)

 クウコはシートベルトを締め、ハンドルを握り直す。その数秒後、目の前の車が急ブレーキをして突進してくる。

「来ると思ってたよっ!」

 クウコはハンドルを勢いよく回し、車を大きくスピンさせる。回転する車に巻き込まれた男は制御を失い、一直線に沈んでいった。

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