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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第23話 放火魔

(くっそ。まずい、おされている。折角こいつらが酔っているところを狙ったのに、折角不意をついて確実に殺すはずだったのに)

 自分の力ではアティアたちに勝てる可能性が薄い。それを知っていたペッチは絶好のタイミングがくるまでボスの仇であるやつらの酒盛りを黙って見てきたのだ。

(だが、俺にはまだ、まだ奥の手がある!)

 ペッチは口元を覆っていた布を乱暴にはいで、地面に叩きつけた。そして、あらわになった口の周りは透明なガラスが張ってあり、肌の奥にある歯車や様々な回路が露出している。

「うっわ…なんかグロいなぁ」

 あからさまな機械仕掛けの口に警戒したアティアは後方に大きく飛んで身構える。

「逃がさないぞ!」

 ペッチが口を大きく開けると、喉の奥から大きな銃身が顔を出す。そして、大きな銃身から無数の弾丸が絶え間なく射出され、アティアを襲いかかる。

「や、やっばばばーい!」

 アティアは椅子や机を盾にしようとするが、容易く破壊されてしまう。遮蔽物も逃走路もなく、ペッチの周りをグルグルと回って弾丸を避ける。

(こいつ、体の中にどんだけの球を内蔵してるの!?でも、このペースで撃ってたらいつかは尽きる。その隙を…)

 無尽蔵に放たれる弾丸を見ながら弾切れを待つが一向に弾が止まることはなかった。

「俺は全身に詰め込めるだけの弾丸を詰め込めんでいる。これを全て使い切るのには一時間はかかる。時間稼ぎを考えてるなら諦めろ」

「うわー。わざわざありがたいね。てか、どっから声出してるの?」

 ペッチに考えを見透かされたアティアはぶっきらぼうに返しながら別の対策を考える。

(となると、これをどうやって突破しようか)

 アティアは脱出経路に目を向ける。アティアの現在地は店の二階。飛び降りようと思えばどうとでもなる高さであるが、外に出るための窓は小さい。普通の出口からも逃げようと考えたが、出た後は少し長い一本道でペッチの弾丸に殺されてしまうのは確実である。

(んー。これ、ペッチを殺さないとダメね)

 アティアは物を掴みやすくするために自身の爪を引っ込めて、机の上に置かれている空のボトル瓶を両手いっぱいに取る。

(幸い、他の客は早々に避難した、派手にやっても問題ないハズ…店にはキレられるかな)

 アティアはボトル瓶を一斉にペッチに向かって投げつける。ボトル瓶は大きなな放物線を描いてペッチに飛んでいく。しかし、ペッチはそれを両手で弾き返す。

「どうしたんだ?もしかして、俺が瓶を撃ち落そうとして、上を向いた隙に間合いに入り込もうとでもしたのか?残念だが、この程度なら素手で十分だ」

 アティアはそれでもペッチに向かってボトル瓶を投げつける。それも一回や二回などではない。数十回以上投げ、全てを叩き落されてしまっていた。

(オッケー。もうペッチの動きは分かった)

「何回やっても無駄なんだよ!苦し紛れでやってるなら止まって敗北を認めろ!」

 ペッチはさっきからずっと周りを回ってボトル瓶を投げてくるアティアに怒号を飛ばす。

「投げる酒だって、もう無い!その両手のヤツでラストだろ!諦めろ!お前の負けなんだよ!地獄でボスに詫び続けるしかないんだ!」

 店内のボトル瓶はアティアが投げて割れたり、ペッチの流れ弾で破壊されたりしてもう残っておらず、地面にガラスの破片とこぼれた酒が床を占領している。

 ペッチの言う通り、残ったのはアティアの両手にあるボトル瓶のみ。アティアは血で容器が染められたボトル瓶が無くなればアティアに勝ち目はない。

「諦める訳ないでしょ。だって、このボクの切り札で…キミが死ぬんだからね!!」

 アティアは最後の二本をペッチに投げつける。それは、さっきまでと同じ軌道、同じスピード、ボトル瓶自体に何かを仕掛ける時間はないうえ、それに警戒して観察していたペッチも細工がないことは分かっている。

「何が、切り札だ。さっきまでとまるっきり同じじゃないか!」

 ペッチはさっきと同じように素手でボトル瓶を叩き落とし、さっきと同じように二本のボトル瓶がペッチの頭上で割れる。ただ一つだけ、同じではないものがあった。

 それは、ボトル瓶の中身の有無だった。血で中が見えなくなっており、さっきまで通り空だと思っていたペッチは酒を頭から被ったまま、ただ訳が分からずにいた。

(この匂い、ウイスキー?こいつは…何で自信もってこれを切り札と言ってきたんだ?酒が入ってることで何が変わる?負けを確信したから最後に俺を不快な思いで終わらせようとしたのか?)

 しかし、アティアにはしっかりとした、ペッチを殺すための考えがあった。

 アティアはぐるぐると店内を駆け回りながら、ポケットの中の煙草を取り出して口に咥える。

「何を煙草を咥えている?カッコつけのつもりか!?」

「いーや?そういえば食後の一服をしてなかったな~って、それに…」

 アティアは出口の扉の前で立ち止まってライターを見えやすいように掲げる。

「ちょーど、火が欲しかったの」

 アティアは向かってくる弾丸をしゃがんで避けると同時に、火がついたままのライターを床に落とす。

「ッ!まさかっ!!」

 ペッチは度数の高いウイスキーを頭から被っている。そして二人が暴れたことにより、店内の床にはウイスキーと同等、それ以上の度数の酒もこぼれている。

 ライターの火は床に染み込んだアルコールに引火し、もの凄い勢いで炎が広がっていく。

「クソがぁあああああ!!」

 ペッチは炎に包まれ、悶え苦しむ。それにより照準が滅茶苦茶になり、弾丸の脅威がなくなったアティアは外に向かって駆け出していった。

「バイバーイ」

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