第20話 近接特化の狙撃手
「でも、今のアンタは数的不利をとってる。一人での戦闘には限界があるんだよ」
その言葉を聞いたベティとビリーはハッとした様子でクウコの隣へと向かう。
「そうだね。これはタイマンじゃない。三人がかりでやるよ」
「あぁ、礼儀正しくやってるほどオレらも優しかねぇよ」
ゴドが三人に向かって引き金を引く。しかし、ベティは左、ビリーは右、クウコがジャンプして弾丸を避け、真上から攻める。
弾丸を避けられたゴドはまずクウコを狙う。
「やっぱりアタシから狙う。知ってたさ!」
クウコは足のジェットを吹き出し、さらに真上へと浮かび上がる。ゴドがクウコに向かって放った銃弾はクウコの真下を通り過ぎていく。
「避けた。けど、大丈夫」
横から向かってくるベティとビリーのことには見向きもせずにゴドは追撃の銃弾を発砲する。
クウコは至近距離で放たれた銃弾に反応できたものの、頭をわずかに掠める。避けるために体勢を反らしたため、攻撃をすることは出来なかった。
そして、前方のクウコが停止していることを確認したゴドは左右から攻めてくるベティを銃床で叩きつけ、ビリーを蹴り飛ばす。
「捕まえたっ!」
ベティは攻撃を受けつつも分銅鎖を足に巻き付け、自分のもとに引き寄せる。そして、あいている方の手で拳を固め、ゴドに向かって放つ。しかし、ゴドはその拳を足の裏で受けとめる。
(こいつ、三人相手なのに隙を見せない。明らかに他の奴らとは違う強さを持っている…)
「惜しい」
ゴドがベティに銃口を向け、引き金に手をかけようとしたが、背後から聞こえるチェンソーの唸り声に意識を向ける。そこには腕をチェンソーに変形させたビリーが大振りの攻撃を仕掛けてきていた。
(まずはこっち)
ゴドは足でベティの拳を止めたままの状態で体を百八十度回し、ビリーに向かって銃弾を放つ。
「ッ!?クソが!」
ビリーは顔面に向かって飛んでくる銃弾をチェンソーでガードする。チェンソーの側面に当たった銃弾はゴドに向かって跳ね返る。
ゴドはそれを見て焦ることなく銃弾に向かって発砲する。銃弾と銃弾がぶつかり、砕け地面に落ちた。
「とんでもねぇ反応速度じゃねぇか」
「当たり前。君たちに負けるほど弱くない」
ゴドが無表情のまま淡々と銃を構える。そのタイミングとか重ねるようにベティが魔法を放つ。
「アイスランス!」
自身に向かって飛んでくる氷の刃に驚き、引き金から手を離してしまった。だからといって簡単に当たる訳でもなく、壁を蹴って真上に飛び上がり、空中で魔法をやり過ごした。
「…?っ!?」
氷の刃を避けれたものの、見たことも無い攻撃を受け、ゴドの顔からは驚愕が表情が浮かんでいた。
「へぇ。アンタってそんな顔も出来たの」
その様子を見たクウコが愉快そうに笑みを浮かべる。
「何を…した?」
「なんだろうね」
ベティは驚きを隠せないでいるゴドに、いたずらっぽく答えをはぐらかす。そして、膝をついて固まっているゴドに向かって人差し指を向ける。
「アイスランス!」
「…!!」
ゴドは先ほどと違い銃を構え、向かってくる四本の氷の刃に向かって弾丸を放つ。氷の刃の先頭の側面に弾丸がヒットする。側面に当たったことにより氷の刃の軌道は僅か逸れる。
そして、それは弾丸も同じで、軌道が変わった弾丸は続く氷の刃全ての側面を順に跳ね返る。側面に弾丸が当たったことにより魔法の軌道が横に逸れ、氷の刃はゴドの真横を通り過ぎていく。
「…なんて力。どこからその氷を出してる?」
「こっちのセリフよ!弾一つで私のアイスランスを防ぐなんて」
お互いがお互いの力に驚きながらも、次の攻撃の準備をする。
(この女、未知数。クウコより警戒すべき)
さっきまではほとんどの警戒をクウコに向けていたゴドは目の前のベティに集中を注ぐ。クウコのことなど考えている余裕はなかった。
(まずはこの不安要素を消す)
しかし、横やりを入れてくるクウコやビリーに邪魔をされてしまう。打ち合わせをしてないにしては妙に息のあった連携である。
「クッ!?」
そして、ゴドの防御を破った。破ったのはベティで分銅鎖で、二人に意識が向いているうちにゴドの足に巻きつける。そして、アイスランスが確実に当たる間合いまで引き寄せる。
(ッ!マズいっ!)
死の危機を感じたゴドは必死で足をバタバタとさせるがもう遅かった。ゴドはベティに叩きつけられる。
「アイスランス!」
地面に寝ころんだゴドを跨いだ状態で魔法を放つ。
「う、そ…」
顔前に氷の刃が猛スピードで向かってくる。その光景を見れば足掻くことすら諦めるだろう。
しかし、ゴドは違った。
ゴドは銃から手を離し、氷の刃に手を伸ばす。氷の刃がゴドの腕を貫く。腕の筋肉が裂け、骨が砕ける。とんでもない痛みが襲いかかる。
(けど、顔を切り裂かれるよりはマシ)
腕に命中したことにより魔法のスピードは落ち、ゴドの顔に到達する前に四本の刃は止まった。
ゴドの指が二本ほど手から離れ、血や砕け散った骨の欠片が腕の中から零れ落ちる。
「余計なことしないほうが楽だったんじゃ…」
攻撃をした本人ですら驚きそんなことをつぶやく。
皆が驚き固まっている中、一人だけは動き続けていた。ゴドが生き残っていたほうの腕でスナイパーライフルを垂直に立て、引き金を引く。
(…は?普通、その状態から攻撃を仕掛けてくる!?)
驚きつつもなんとか体を反らせることで弾丸を避ける。弾丸はベティの顎を掠らせたものの、そのまま真上へと飛んでいった。
「…ふ、危なかった」
危機一髪で避けれたベティが安堵していると、ゴドが小さくつぶやいた。
「…まだだ」




