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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第19話 闇夜の弾丸

(報復、ねぇ)

 徐々に酒が抜けてきたベティたちはトボトボと繁華街から離れていく。

 そして、ベティは今後確実に訪れる衝について考えると、思わずため息をついてしまった。

「安心しろよ。フールを誰が殺したかを調べないといけねぇし、オレらを殺すための準備をしてくるだろ。そしたら、来るとしても最低で二日くらいかかるだろ」

 ため息だけで何を考えているかを見抜いたビリーが励ましの言葉をかける。

「そうだといいんだけどね」

 ベティがため息まじりに言うと、ビリーが思い出したかのように振り返ってクウコに話しかける。

「あ、そうだ。クウコ!てめぇの煙草を寄越してくれねぇか?」

「いいよ。この銘柄でいいならだけど」

「ああ、なんでもいい。とにかく吸いてぇんだよ。食後のおやつを忘れてたぜ」

 クウコが道の真ん中で煙草を取り出し、ビリーはクウコから煙草を一本受け取る。

「ベティ。アンタもいるかい?」

「いらない。それの何がいいの?…臭いし不味いし」

 ベティは煙が届かないところまでの避難すると、横にのびている路地裏に目が留まる。そこは明るい街中で唯一の暗闇であり、本来道を照らすはずの街灯は何故か破壊されていた。

 そして、何かしらの違和感を感じたベティは暗闇をジッと見つめた後、クウコのいる方向にクルリと体を転換する。

「ねぇ。さっきあなたが言ってた相手について教えてよ」

「え?あぁ、分かった」

 クウコは唐突にそんなことを言われて固まってしまっていたが、言われた通りに特徴を教える。

「一人はゴド・カリメって言う女さ。身長はベティと同じくらいで、体重は~…普通としか言えない。常に無表情で、顔には大きな火傷が広がっている。髪は短めで赤と紫が混ざり合っている。それとアイツは常にスナイパーを所持していて、遠距離はもちろん近距離戦も得意としてる。というか近距離戦のほうが得意まであるかもしれないね。敵と認識したヤツは執念深く追い回すようなヤツだよ。そんで、もう一人は…」

 クウコの長い説明の途中でベティは軽くうなづき、路地裏の方向へと向き直る。

「ありがと、もう大丈夫。それと、気を付けてね」

 その直後にベティはアイスランスを暗い路地裏へと向かって放つ。

「ッア!?何をしてんだい!?」

 クウコが咥えていた煙草を思わず地面に落としてしまったが、そんなこと忘れるほど驚いた様子で路地裏を覗き込む。

「暗くて見えないじゃないか。何に向かって魔法を放ったんだい?」

「あっ!危ない。顔出さないで!」

 ベティがそう叫んだと同時に、真っ暗な路地裏から弾丸がクウコ目掛けて飛んでくる。

「アイスウォール!」

 ベティはクウコに迫ってくる弾丸を氷の壁で受け止める。

「ッ!?おいおい。何事だぁ?」

 緊急事態であることを察知したビリーも煙草を捨てて二人に近づく。

「誰なんだい!?アタシらを狙ってるのは!」

 クウコが路地裏に向かって叫ぶが、返事が返って来ることはなかった。そして、その代わりと言わんばかりに銃弾が飛んでくる。

「ッブナイ!ベティ!アンタは敵が見えてるのかい!?」

 クウコは路地裏から自分たちが見えなくなる位置まで逃げると、暗闇の奥の様子をベティに尋ねる。

「さっき言ってたゴド・カリメってやつだろうね。何故か銃を構えてこっちを見てきてたから変だと思っってクウコに訊いたのよ。そしたらあそこの女とピッタリ合ってたの」

 その言葉にクウコは驚いたような表情を見せたが、瞬時に納得したような表情も見せる。

「まさか、もう!?…いや、可能性はある。アイツの索敵能力を侮っていた…おい!出てきたらどうだい?」

 クウコは路地裏の奥へと向かって叫ぶと、頭上から軽やかな足音が鳴り出す。

「…出てきてあげた」

 さっきクウコが言った特徴通りの女性が、大きなスナイパーライフルを構えながら建物の壁を駆けていた。そして、クウコたちの背後に着地して銃弾を放つ。

「おっと。ホントにゴドだったのかい。フールを殺してから数時間しか経っていないっていうのに、随分と特定が早いんじゃない?」

 何とか銃弾を避けたクウコは目の前で余裕そうに銃弾を装填するゴドを見つめる。

「当たり前。あそこの店のカメラをジャックした」

 恨みのこもった目でクウコを見るゴドに向かって、クウコはサッと拳銃を向ける。

「止め」

 ゴドは拳銃を握っているクウコの手の甲を撃ち抜く。

「ッチ!」

 撃ち抜かれた反動で手から拳銃が抜けていく。宙を飛ぶ拳銃を撃ち抜かれていない方の手でキャッチし、ゴドに銃口を向ける。

「遅い」

 ゴドとクウコの距離は数十メートル。普通であれば拳銃のほうが速いだろう。しかし、先に銃を撃ったのはスナイパーライフルを所持しているゴドであった。

「ウッ。相変わらずの強さ。敵になるとホントうざったいじゃない」

 飛んでくる弾丸を避けることに集中するしかなかったクウコは銃を撃てずに終わった。

「はぁ…銃撃戦は向かないね。特にアンタが相手となると、余計勝ち目がない」

 クウコは拳銃を投げ捨て、自身の履いていた靴のかかとを踏んで脱げやすいようにする。

「アンタの狙撃の腕はすごいと思っている。ただ、アタシのスピードのほうがもっとすごいよ?」

 クウコは履いていた靴を勢いよくゴドに向かって飛ばす。靴が当たっても大したダメージはない。しかし、それを反射的に避けてしまい、無意識の内に靴に集中がいっていた。そんなゴドにはもちろん、横から回り込んできているクウコの存在に気付くのに数秒だけ遅れてしまった。

「ほら!速いだろう!?」

 クウコはゴドの頬に思いっきり蹴りを入れる。蹴られたゴドは頬を真っ赤に腫らせ、勢いよく尻もちをついてしまった。そんな状態でも銃口はしっかりとクウコを狙っており、追撃は許されなかった。

「おっと、アンタ相手じゃ一筋縄ではいかないようね」

 足の裏から出るジェットを止め、ゴドから距離を取ったクウコがそんなことをつぶやいた。

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