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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第18話 戦い終わりの一杯を

 ベティが叫ぶと、それに応えるようにして観客たちも騒がしい歓声をあげる。

「ふぅ、終わったよ」

 拳を掲げたままの状態で、客たちの間を抜けてクウコの隣にドカッと座り込む。

「あそこから勝てるとは…大したもんだね」

 負けると思っていたミースは口を大きく開け、生還してきたベティを見つめる。

「信じられねぇと思うがよ、こいつの中には特別な力が眠ってやがんだよ」

 ビリーがなぜか自慢げに胸を張って酒を飲み干す。

「特別な力?何言ってんだ?」

 ミースが疑問そうにつぶやくと、クウコはキョロキョロと辺りを見回し、人が寄ってきていないことを確認すると、ミースたちにしか聞こえないくらいの声量で話し始める。

「魔法さ、魔法。その魔法でフールをやっつけたんだろうよ」

「…あぁ?」

 何を口にするかと待ち構えていたミースは、バカを見るかのような目でクウコを睨む。

「はいはい。信じないでしょうね。けど、アタシが言ったことは事実なのよ」

「魔法だぁ〜?本気で何言ってんだ」

 ミースだけでなく、アティアやナタも怪訝そうな表情でクウコを見つめる。

「あーあ、実際フールを跳ねさせただろう。単なるフィジカルだけであれは不可能さ」

 クウコがどれだけ言おうが、三人は腑に落ちていない様子であった。

「見せようか?」

「いや、いいさ。あまり派手なことをすれば他の連中にも見られてしまうだろ?」

 手のひらを広げて魔法の準備をしたベティの提案を却下する。

「私も変に怪しまれるのは嫌なんだけど…派手じゃなかったらいい?」

「ぅう…まぁ、いいだろう。パッと終わらせてくれ」

 クウコは周りを気にしながら魔法を放つように促す。

「フロスタ」

 ベティはテーブルに人差し指をくっつけて魔法を詠唱する。そして、指をテーブルから離すと、触れていた部分に霜が出来ていた。

「え、え?どうなってるの?」

 店内は客たちの熱気ですごく、どんな間違いがあっても霜なんて降りない。だが、ベティは霜を作った。そんな事実を即座に理解することが出来ないでいた三人は驚愕の表情を浮かばせる。

「そっちの腕は、義手ではない…な」

 ベティの腕をナタがペタペタと触る。そして、何の変哲もない生身の腕であることを再確認する。

「何をしたんだ?どうしたらこうなるんだよ」

 ミースがテーブルの上に身を半分のりだして、もう溶けかかっている霜を指さす。

「何って言われても…魔法としか言いようがないのよ。私の世界では当たり前のように使ってたし、これが何かなんて考えたことはないのよね」

「…ん?私の世界って事は…え、どうゆうこと?次から次へと謎を出さないで~。一つ一つ説明してよ」

 頭がこんがらがってきたアティアが首を僅かに傾ける。

「いいけど、長いよ?」

「長くて構わない。お前らもいいだろ?な?」

 ミースがベティを囲んでいるアティアたちに、同意を促すように言う。皆、軽く頷き、落ち着きを取り戻して席に戻る。

「アタシも知らない話が出てきそうだね。話しなさい」

 たった数日でベティのことを知ったつもりでいたクウコも同意の言葉をつぶやく。

 ◇◇◇

「ふぅ、だいぶ…飲んだんじゃないのかい?」

 ベティの異世界での冒険の話や、この世界に来てからの話を肴にみんなで何時間も酒を楽しんでいた。

 丁度日にちを跨いだくらいの時間に、皆の中で解散の雰囲気が出始めていた。

「えぇ?まだまだのも~ぜぇ~」

 呂律が回っていないミースが膝を震わせながら、席を立つクウコたちの腕を掴む。

「くっそ。酔っ払いのくせに…どこからそんな力を出してんだい!」

 クウコが振りほどこうとするが、ミースはクウコの腕にしがみついたままで離れない。

「はいはい、ミース。ボクと飲み直そうねぇ」

 アティアがミースの体をギュッと掴んで、子供を諭すような口調で話しかける。

「んぁー。わかったぁ」

「それじゃあ、ボクたちはまだ飲むけど…みんなはどうする?」

「パスだ」

「アタシもそろそろ帰らせてもらうよ」

「分かったよ。バイバイ」

 ミースに肩を貸しながらのアティアは別れの言葉を残して去って行った。

「それじゃあ、アタシらも帰らせてもらおうじゃないか」

 ベティたちは外に出て、暗い夜道を眩しく照らす街中を歩いていく。

 そして、車を置いてきたキングリーパーの基地へと向かうクウコに話しかける。

「ところで、なんであなたたちはフールとの戦闘を避けてたの?確かにあいつは強かったけど、正直クウコが苦戦するような相手とは思えないな」

「そいつはオレも思ったぜ。なんでビビッてたんだ?」

 二人が疑問そうにしていると、クウコが少し困った様子で言う。

「まぁ、アタシが恐れてたのはアイツじゃなくて、アイツのチームだってだけさ」

「ん?アイツはギャングのボスだろ。ボスを殺せば自然とチームも崩壊していくんじゃねぇのか?」

「そうだね。あの組織は直に潰れるだろうね。ただ、フールの部下からの報復が来るだろうけどね」

「来たとしてもでしょ。ボスがあれだと部下の力量も大したことないんじゃないの?」

 ベティがそんなことを言うと、クウコがやれやれと言った様子でベティを軽く指さす。

「アンタは分かってないね。人の上に立つ力と、人を殺す力は全くの別物ってことよ」

 クウコはそう言うと、少しの間をあけてから続ける。

「フールなんてねぇ、やろうと思えば瞬殺だったのさ…フールだけならね。今夜はホントに運が良かっただけ。普段なら、常に連れている二人の側近に返り討ちにされてたよ」

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