第14話 歓迎会
「おぉ、すげぇな。キレイになってやがる」
ビリーの修理を終えたナタは少し離れた機械の上に置いてある不安定な椅子に座って煙草を咥える。
「お疲れさん。ナタのは荒治療だけど、即効性が高いだろ?」
「荒治療が過ぎるよ」
ベティがぼやき、横にいたビリーも軽く頷くが、ナタは二人に耳を傾けることなく煙草を吹かす。そして、ベティたちの事など無視し、クウコにしか聞こえないくらいの声で問いかける。
「コイツら、なんだ?貴様はただの部下相手にこんな事はしない」
「そうだねえ。ビリーは未知数だけど、ベティには一度殺されたからね。ま、アタシがちょっと油断してたってのもあるけどね」
(そうは見えないが…)
ナタは怪訝そうな表情でビリーと雑談を交わすベティを見つめる。
「そうは見えない。って思ったろう?そのうち分かるさ」
クウコは詳しいことを語ることなく、ベティに近づき肩を叩く。
「そうだ!ベティ、ビリー。今夜歓迎会をしようじゃない。酒がうまい所を知ってんのさ。飲んで、殴って、騒ごうじゃないの!」
「唐突過ぎない?まぁ、私は別にいいけど…」
ベティの答えに満足そうに頷くと、そのまま二人をガレージの外へと押し出していく。
「ナタァ!アンタも来るだろ?いつもの場所だよ!」
「…指の手入れをしたら行く」
クウコはナタが来ると確信しているのか、返事を聞く前にその場を去っていた。
「てか、歓迎会つっても、今からじゃ人集まらないんじゃねぇのか?」
「そこは安心しな。絶対来てくれる暇人が二人いるからね」
クウコは外に出た瞬間、何もない方向に向かって話し始める。
「…あー。もしもし、ミース。アンタ暇だろ?ビア・パンチに来なよ。面白い子を連れていってやるからさ…ホントホント。んー、もちろんそいつも連れてきてくれよ。今すぐ」
クウコは少しの間ぶつぶつと何かを喋った後、ベティに向き直る。
「おっけ。二人来るとさ。部隊内でもかなり信頼できるやつだよ」
「ふーん。そう。ちょっと楽しみね」
ベティはクウコの言う人に少しの興味を示しながら目的地へと向かう。
◇◇◇
「よっと、着いたぞ」
クウコが「ビア・パンチ」と、書かれた看板の店の扉を開ける。中からは飲んだくれたちの耳を劈くような叫び声と、アルコールの臭いがベティたちを刺激する。
「ん?あれは何?」
店の中に入ってまず目に留まったのは店内の中央にある円形のステージだった。そのステージを囲むようにテーブル席が設置されており、客のほとんどがステージ近くの席を陣取っている。中には離れたところに空いている席があるにも関わらず、ステージ近くの地べたで酒をあおる者もいる。
ステージの上では二人の男がお互いの顔面に拳をぶつけあっており、周りの客たちはそれを肴に酒を飲んでいた。
「あぁ、ここは喧嘩呑みの店でさ」
喧嘩呑みとは、喧嘩をして、呑んで、死にかけながら楽しむ。ただそれだけのものであり、この世界ではポピュラーな娯楽である。
そう言いながらクウコは空いている席に腰をかける。クウコが呼んだ他のメンバーはまだ来ていないようだ。
「アイツらもまだ来ないだろうし、先に飲もうじゃない。アタシの奢りだよ」
クウコは通りかかった店員に素早く料理を注文する。
「ここの名物をとりあえず頼んどいたよ」
「そ。ありがとね。にしても手際良いわね」
「まあこの店はよく来るから。うまいもんは一通り分かるのさ…お!来た」
異常な速さで提供されてきた料理がズラリと机の上に並べられる。
「多いな…」
「すごいだろ?アタシも最初は驚いたさ。んじゃ、カンパーイ」
クウコたちはビールが並々と注がれたジョッキを飲み始める。
「あ、そうだ。二人はちょっとキープしな。後であそこに行ってもらうから」
クウコは中央にあるステージを力強く指さす。
「あれって自由参加なの?」
「そうさ。あ、それとアンタは知らなそうだから軽くルールでも教えてあげようか」
「ん?殴り合うだけじゃないの?見てれば分かるよ」
「大まかには合ってる。まず、基本殺しちゃいけない。それと、武器の使用は禁止。体術だけでやらないといけないのさ。はい終了」
「短っ!話聞いても結局殴り合うだけだったし…」
真剣に聞こうとしていたベティは少し戸惑いながらビールを飲む。
「よーっす。楽しんでるねぇ」
ベティたちが軽く談笑してると、一人の女性が現れて、クウコのビールをイッキ飲みする。
「ああ、来たよ。コイツはミース・ココラさ」
ミースと紹介された女性は、短い紫髪で、右手の指先には小さなが穴があいている。そして、頬には三体の頭蓋骨のタトゥーが入れられている。
ミースは、不敵な笑みを浮かべながら鋭い目でベティとビリーを観察した後、空いている席にドカッと座り、手づかみでつまみを頬張る。
「面白そうな子たちじゃ~ん!」




