第12話 圧倒的強者
アニナは起き上がると同時にベティの顎に強烈な一撃を食らわせる。
(その体勢から攻撃を!?)
視界が一瞬だけ揺れ、体がよろけそうになるが、なんとか持ちこたえる。その間にもアニナは立ち上がり態勢を完全に整える。
「…タイマンでの殴り合いで私に勝てると思わないでね」
ベティがアクションを起こそうとするが、それを防ぐように追い打ちをかけていく。
「…不意をつけたからって勝てると思ったのかな?…とても甘い。とっっても甘すぎるよ」
アニナがベティの髪を掴み、そのまま頭を壁に躊躇なく叩きつける。
「お、おい。アニナ!仲間内での殺し合いは禁止だろう!?ベティも安易にケンカを吹っ掛けるんじゃないよ!」
クウコが声をあげるが、二人にその声は聞こえていなかった。
「ぅ、離してよ?くっそ痛いんだけど」
ベティはアニナの腕を掴み、振り払おうとしたがアニナの腕は微動だにしない。
「…余裕そうだね。もっと痛めつけようか?」
アニナは髪を強く掴み直して体を大きく捻り一回転しながら手を離し、ベティを投げ飛ばす。宙を勢いよく飛んだベティは受け身をとることが出来ず、地面に体を強打する。
「ぅ!イッ!…」
地面に激突してからもしばらくは地面をゴロゴロと転がっていく。
(すっごい…飛んだ)
さっきに一撃でベティとアニナの間は十メートル以上開いていた。
ベティが膝をついて息を整えていると、アニナがベティに向かって歩いていき、ゆっくりと距離を詰めてくる。
(近接戦じゃ分が悪すぎる)
ベティは人差し指と親指を伸ばし、指で銃の形を作ってアニナに向ける。
ベティのその行動に何かを察したアニナは地を力強く蹴り、一気に距離を縮める。
「アイス…」
「…それをされたら困るんだよ」
ベティが魔法を唱えようとした時にはアニナはすぐそこまで迫ってきており、アニナの足の裏とベティの指先が接触する。
そして、ほんの数コンマだけアニナが速かった。アニナは足を思いっきり前に突き出す。
「…へし折ってしまっても問題ないよね」
アニナは足を押し込んでピンと伸びたベティの指を折る。人差し指の関節が全て別の方向に折れ曲がっており、ベティは苦痛の表情を必死に隠そうとする。
「~ッ!!」
顔をしかめながら折れた指を力任せであるが元に戻す。そして、指の骨を治すためにヒールを唱えようと口を開いたところで、アニナが思いっきり顔面を踏みつけてくる。
「…ごめんね。君が何か喋ると、ロクなことが起きないから、気絶するまで口閉じてもらうよ」
アニナは魔法を唱えようとするベティを何度も踏みつけて口を塞ぐ。アニナの足がベティの血でどんどんと染まっていく。
「お、おいおいっ!そろそろやめなっ!本気で死ぬよ!?」
ベティは手を持ち上げることもできず、口からは血を垂れ流し、項垂れるように倒れる。
さすがにヤバいと思い始めたクウコが慌てた様子でアニナをベティから引き離す。
「…そうだね。ちょっとやり過ぎたかも。…反省反省」
一旦冷静になったアニナはなんの反省の色も見えない謝罪を述べると踵を返しその場を去ろうとする。
「ッ、ちょっと!あなた…逃げるんじゃないよ」
「問題児。アンタ黙りな」
無理に体を起き上がらせてアニナに向かっていこうとするベティの頭を軽めに叩く。
ベティはムッとした表情をするが、一旦クウコの言う通り黙ることにする。
「…クウコ。ベティは今のところは君に譲るよ…今のうちはね。その狂犬をしっかりと、教育しておいてよ」
アニナはそう言いながら歩いていく。ベティはその背中に人差し指をゆっくりと向けるが、クウコがそっと下げさせる。
「やめときな。あいつには勝てっこない。さっき体験しただろ?」
「…はぁ、ヒール」
ベティはアニナへの攻撃を諦め、折れた指や血まみれの顔面を癒してクウコの肩を借りながら立ち上がる。
「魔法を撃てたら勝てたのに…」
「でも、あいつに接近されたなら終わりだよ。アニナはキングリーパーで最も体術に優れた人間さ。アタシが居なかったら死んでいたろうね」
「それならもっと早く助けてよ」
ベティは口の中に溜まった血を吐き出しながら愚痴る。
「アンタが一人で突っ走って行ったんだよ。ああなっちまった以上、基本はアタシらがなんか言うことはできないだよ」
「そーだぜ。ケンカを売ったおめぇがわりぃぜ」
廊下の端で静かに観戦していたビリーがベティに歩み寄る。
「あなた、そういえば居たね。存在感消し過ぎでしょ」
「まぁな。指、動かせるのか?てめぇの魔法は万能だな」
「人体の損傷はほぼ治せるよ。ただ…」
ベティは自身の義手を二人に見せる。腕はボロボロで装甲には刺し傷切り傷、銃創などがつけられている。
「無機物相手には効果がないわ」
「ホントじゃないの。よくこんな状態で保っているね」
クウコがベティの腕をまじまじと見る。よく見ると、一部の側が今にも剥がれて壊れそうになっている。
「これは、マズいんじゃねぇのか?」
「そうだねぇ…なら、丁度いい。ウチで腕を修理してやってやるよ」
クウコは手をポンっと叩くと、どこかに向かって歩き出す。




