第2話 仲間との出会い
青髪短髪でニコニコとした爽やかな笑顔を向けてくる細身の青年がベティの目の前に立つ。
「…だれですか?」
さっきの一件で自身と周りの人間との価値観が全く違うことを理解したベティは警戒心むき出しで立ち上がり、臨戦態勢に入る。
「あ、別に僕は君に何かするつもりはないから」
青年は敵意を無いことを示すため両手を挙げる。
「僕はエーリ・スミス。ナイトキラーのメンバーなんだ。君は?」
「私はベティです」
警戒しながらも名乗る。エーリはそんなことお構いなしでベティに近づく。
「すごぉい簡潔だね。ファミリーネームは?所属はどこ?」
「何ファミリーネームって?所属は…勇者パーティかしら」
ベティの言葉に一瞬戸惑うエーリは首を傾げる。
「おぉと、大分厨二チックなことを言うね。ファミリーネームがないってことは捨てられた?戦災孤児?まぁ、とにかく大変な目にあったんだろうね」
エーリはそうしゃべりながらベティの肩を掴む。
「どこにも所属してないんだよね?僕について来ない?」
エーリはベティに手を差し伸べる。ベティは迷いながらもエーリの手を取る。
「それでは、そこに連れて行ってください。そこから考えます」
「おっけ。着いてきてね」
エーリとベティは歩き出す。しかし、ベティはまだ警戒しているのか少し間を空けて歩く。
「てか、ベティちゃんはどこでそんな服買ったの?」
エーリはベティの着ている修道服を指さす。
「えっと、これは普通に売ってましたけど…」
「いやいや、普通は売ってないよ。少なくともリングトッコでは見たこと無いよ」
「そうで…ん?リングトッコってなんですか?」
「え?地名だけど。どうしたの?」
エーリはキョトンとしつつもで淡々と言う。
(知らない地名…世界中を旅したのにリングトッコなんてところは知らない。私はどこに転移したの?)
そんなことを考えていると、エーリに声をかけられる。
「ほら、着いたよ」
小さめの建物の前に立っていたエーリが手招きする。
「ここが、ナイトキラーの本部だよ」
「小さいですね」
「まぁ、弱小組織だからね」
エーリは笑いながら、ベティを建物に誘う。中に入ったベティはまず違和感を感じた。建物の中は家具一つない質素な部屋が広がっていたからだ。
「なんですか?ここは」
あまりにも生活感の無い部屋に戸惑いながらふり返る。背後でエーリは変わらず、ニコニコといした笑顔で立っていた。しかし、外で見た笑顔と同じはずなのに雰囲気がまるで違く、不気味に感じてしまう。
(ヤバい。この人もダメだ!)
ベティはエーリに何かを感じ、解きつつあった警戒心をむき出しにして杖を構える。
「おっと。何かを察知したの?まぁいいや、最終的には実力行使するつもりだったし」
すると、さっきまで誰もいなかったはずの場所から二人の男が現れる。
「オラッ!」
一人の男が金属パイプでベティに殴りつける。
(ッ!どこから来たのよ。でも、三対一でもやってやるわよ)
ベティは殴りつけてきた男の腹部を蹴りつけ、もう一人の男の頭部に杖を殴りつける。
「あぁ…想像の100倍くらい強いね。ちょっと見くびりすぎたかな」
エーリは倒れている二人を見ながらつぶやく。そして、右腕をベティに向ける。
「少し眠ってもらうからね」
鉄でできた義手の右腕についてるダイヤルを回す。すると、手の平から電流が走る。
(雷魔法…魔力は感じないけど。体に纏うタイプなのね)
ベティに近づいてくるエーリに向かって魔法を放つために杖を構える。しかし、もうすでに間合いに入っていたエーリはベティの持っていた杖を蹴り飛ばす。
「おっと、武器が無くなっちゃったね」
エーリはそのままベティの首を両手で掴む。
「グッ。確かに威力は下がるけど杖なしでも魔法自体は出せるのよ!フロスタ!」
ベティはエーリの手首を触れる。その瞬間、ベティの触れた部分が凍傷になる。急な痛みに襲われたエーリは思わず手を離してしまった。
「イッタァ…インプラント付けてないと思ったんだけどねぇ。僕の観察眼も悪くなったのかね」
エーリが右腕についてるダイヤルを回す。すると、右腕から出る電力が目に見えるほど上がった。
「ごめんね。あまり傷つけたくないんだけど、僕が返り討ちになりそうだし。フルパワーでやらせてもらうよ」
「アイスラ…」
ベティが魔法を唱えようとするが、それよりも、速く動いたエーリがベティの頭を右手で覆う。頭に強い電流が流れたことにより、ベティは気絶してしまった。
「よし。あっぶなぁ。とりあえず運ぶか。手伝って、起きてるでしょ」
エーリは電流を切ると倒れてる二人の男を軽く蹴って起こし、気絶してるベティを運ばせる。
◇◇◇
「あれ?私は…」
ベティが目を覚めるとそこには、鉄格子に囲まれた部屋が広がっていた。
「拉致られたよ」
ベティの目の前に質素の服を着た赤髪ロングの少女が座っていた。その後ろには金髪の体躯の大きな男性が寝ころんでいた。
「ここは?」
「第一収容所。お前もエーリに捕まったんだろ」
男性が笑いながら起き上がる。
「まぁ、俺らは運がいいほうだけどな」
「運がいいってどうゆうことですか?」
「第一と第二の収容所は優秀な人材が監禁されてる。第三、第四はなんらかの問題を持った人が集められてる」
「それってどうゆう意味?」
「私らは奴隷として売られる。あっちに行っちゃった人は残念だけどバラ売り。だから、俺らは一応生き残れるってこと」
「奴隷って…ここから逃げれないんですか?」
少女の言葉に不安を感じたベティは尋ねる。
「できたらやってんだよ。監視の目が厳しすぎて作戦会議すらできないぜ。しかも、俺やミアナ、多分お前もだろうけど、インプラントはぶっ壊されてる」
男は肩をすくめてため息をつく。
「そうなの。ミアナって…」
「ん?あぁ、自己紹介忘れてたな。こいつがミアナ・レイズで、俺がバース・オラル。お前は?」
「えっと、ベティです」
「ベティね。とりあえず売られるまでは仲良くしましょ」
ミアナはベティに手を握り、握手をする。一息ついたベティは牢屋を見渡す。そして、木造の扉が目に留まる。
「あの扉って…壊せそうじゃないですか?」
「無理無理。監視が見回りにくるから壊そうとしたら止められるわ。見回りの時間までに壊そうと思っても無理。そんなモロくなかったわよ。やめときな」
ミアナが諦めたように言う。しかし、ベティはそんな言葉を無視して扉に向かう。
「魔法を使えば壊せると思うんだけど…」
「ん?魔法?なにするつもり知んねぇけど無理だぜ」
ベティは手を扉にかざし、「アイスランス」と唱える。そして、一メートル程度の大きさの氷の刃を四本を生み出し、扉に向かってぶつける。
「「はぁ!?」」
ぼんやりとベティの様子を見つめていた二人はあまりの出来事に硬直してしまった。
「逃げますよ!」
ベティは驚きで固まっている二人の手を引いて壊れた扉の先に行く。