第6話 切断者
ベティに背中を押されたビリーは建物の中へと入って行った。
「痛ッ。危うく転ぶところでし…たなぁ」
ビリーはこの場に居ないベティに向かって悪態をつくと部屋を見渡す。
「電気はついてねぇ。敵さんは下の階にいるのか?」
床には衣類が散らかっていたり、机の上には食べ終わった料理が放置されている。
「戦闘とかはせずに情報だけ貰えたらいいんだけどなぁ」
ビリーが部屋に盗まれた情報がないかを探る。
「あ~、つってもオレ。どんなものかも知らねぇんだよな」
ビリーに課された仕事はクードゥの始末。盗まれた情報については何一つ聞かされていなかった。
「オレら捨て駒には見せれないのかねぇ」
ビリーはそんなことをつぶやきながら、棚の中を物色していると、背後から物音が聞こえてくる。
「ッ!?」
誰もいないと思って安心していたビリーはバッと振り返る。音のした方向を見ると、ソファの上にある布団がモゾモゾと動き出す。
「…だ~れぇ?さっきから、うるさいんだけど~」
布団の中から、スラッとした女性が現れる。
「ん~?君、本当にだれぇ?窓割って入ってくるなんて非常識だよ~」
女性は頭をガシガシと掻きながらビリーの顔を凝視する。
「なーにしに来たの?」
「オレはキングリーパーの情報の返してもらいに来たんだ」
「そぉじゃあ、この私、キャナ・ベグテンツのぉ、敵ってことだねぇ」
キャナはソファに立てかけてあるバールを握り、ビリーの顔面に叩きつける。
「いっきなりかよ!」
攻撃を受け止めたビリーは蹴りをキャナに放つ。
「うわぁ」
ビリーの蹴りをモロに食らったはずのキャナにダメージがあるようには見えなかった。
「うっりゃ!」
ビリーに近づきバールを勢いよく刺突する。ビリーはバールを両手で掴んで止めようとするが、勢いをわずかに抑えただけで、そのままみぞおちへと入っていく。
「うぐぅ」
情けない声をあげ、思わず膝をついてしまった。キャナはそのチャンスを逃さず、追撃を浴びせる。
「バカスカ殴りやがって…」
何発もの攻撃を受けたビリーは痛みに耐えながら反撃の機会を伺う。
「おっらぁぁ!」
ビリーはキャナがバールを振り上げたところに、重いパンチがキャナの顔面に直撃する。
「よし!キマった!」
そりなりの手ごたえを感じていた。しかし、キャナの様子は至って普通であった。
「やっとまともな一撃を食らわせれたと思ったんだがな」
キャナは立ち上がると、バールをフルスイングする。
「さっきのは~、痛かったよぉ!」
「残念だけどよぉ、その攻撃は当たれねぇぜ!」
キャナの攻撃を受け流したビリーはそのまま顎を蹴り上げる。まだ防御の姿勢に入っていなかったキャナは攻撃をモロにうけ、フラフラと倒れていく。
「おーし、やっと倒れやがったぜ」
ビリーはキャナにトドメを刺すために拳銃を構えて近づく。
「え~いっ!」
ビリーが引き金に指をかけた瞬間、キャナはバールで体を押して、跳び上がった。
「くっ。狸寝入りだったのかよ!」
銃弾はキャナの体に当たることはなく、そのまま床にめり込む。
「さっきのは、だーいぶヤバかったよ」
キャナはビリーの背後に回り込んで、バールを叩きつける。
ビリーは振り返り、拳銃を乱射する。しかし、キャナはそれを全弾弾き、カウンターの一撃を放つ。
「キレが…増した!?」
さっきまでとは別人のように機敏に動き、ビリーに攻撃を命中させる。
「どーしたの~?普通、最初から本気でやるわけないじゃーん」
キャナはニヤニヤと笑いながら、ビリーの顔に渾身の一撃をぶつける。そして、それを受け止めたビリーは口角を上げ、キャナの頭を鷲掴みにする。
「そう…だよな。お互い、こっから本気だよな」
ビリーは空いているほうの腕からガションガションと音が聞こえる。
「わーお、えぐーい…」
腕が真っ二つに割れ、中から大きなチェンソーが姿を見せる。
「ぶった切ってやるよ!」
その言葉と同時にチェンソーの刃が勢いよく動き出す。
「うやっ!?」
さすがにヤバいと思ったキャナはもの凄いスピードでビリーの手から外れていく。
「おいおい、逃げてちゃ勝てねぇぞ」
ビリーはチェンソーを前に突き出しながらジリジリと歩み寄っていく。
「おらっ!百倍返しだよ!」
ビリーはチェンソーを振り回しながら、走り出す。
「おわっと!」
的確に首を狙ってきたビリーの攻撃をかがんで避ける。
「逃げ場なんてねぇぞ!」
そのまま真下に振り下ろす。キャナは避け切れず、バールでガードする。
「武器の差がありすぎんだよ!」
チェンソーが鉄でできたバールを火花を散らしながら徐々に削っていく。
(わわわっ!?ヤラれる)
バールでは対処できないことを悟ったキャナはバールを床に捨て、転がってビリーから離れる。
「さぁさぁ、お終いよぉ!」
少々興奮してきたビリーは勝利を確信して、唸るチェンソーを振りかざす。




