第3話 速度VS魔法
(どうなってんだい。これ)
クウコはベティの魔法を食らったことにより、恐怖や驚き、困惑などのさまざまな感情が脳を支配する。
「…本気でいかないと死んじまうね」
クウコはズボンの裾をまくり、機械でできた両足を露出させる。
「アタシのスピードに…追い付けるかい?」
クウコがそう言い終えるころには十数メートルはあったベティとの距離は、一瞬で埋まった。
「は、はや…」
目で追うことがやっとだったベティは反撃も防御もすることができず、クウコの蹴りを受ける。
「終りだよ!」
クウコは床に倒れるベティに、跳び乗ろうとするが、ベティは転がってそれを避ける。
「アイスウォール」
ベティは魔法を唱えると、クウコの足元から氷の壁が勢いよくせりあがる。氷の壁の上に立っていたクウコは、頭を勢いよく天井にぶつける。
「何なんだい!?さっきから変なことをして…」
「あなたには分からないものよ。アイスランス!」
ベティはクウコの言葉を適当に流しつつ魔法を放つ。しかし、クウコは魔法を空中で避ける。
クウコは着地すると、態勢を整えて踏み込み、それと同時に足の裏からジェットが噴き出す。
「どうだい?速いだろ!」
クウコは高速で空中を飛行しながら、ベティの背後にまわる。
「さぁ、燃え上がりな!」
そのまま空中で態勢を変え、ベティに足を向ける。ジェットの炎を顔に浴びたベティは勢いよく後方に跳んで距離をとる。しかし、クウコは即座に間合いに入り、ジェットの推進力が加わった状態で回転蹴りを食らわす。
(チッ。速すぎるわ)
もの凄い威力の蹴りを受けたベティは宙を回転しながらも、受け身をとり、クウコに魔法を放つ。
「アイスランス!」
クウコは四本の氷の刃を容易く弾き飛ばし、ベティに向かって飛ぶ。
「それはもう見たんだよ」
クウコはベティの首に足を絡めて、ジェットを噴射させる。ベティは体を焼かれながらその両足をガッチリと掴む。
「フフッ、足なんて掴んじゃって。そんなに焼け死にたいのかい?」
クウコは自身の足を掴んだままのベティを見て、ジェットの火力を上げる。
「自慢の足を、凍らせてあげるのよ。フロスタ!」
ベティの手に触れていたクウコの足が恐ろしい速度で、凍結しだす。完全に凍結したクウコの足はジェットとして機能が失われていた。
「まだ仕掛けを残していたのかい!?」
自分の武器である足を失ったクウコは、追撃を恐れてベティから離れる。
「もうあなたなんて怖くないのよ!」
ベティはクウコの顎を蹴り上げる。そして、そのまま怯んだクウコに足払いをして転ばせる。
「黙って死んで」
ベティは近くに倒れていた椅子の足を持ち、クウコに向かって振り下ろす。何度も、何度も、何度も。 椅子の背もたれが真っ赤に染まるまでクウコの頭を殴りつける。
「ガッ…バカみたいに…殴ってくるんじゃ…ないのよ!」
クウコは蹴りを放つが、意識が朦朧としだしてるうえ態勢も悪く、ベティにはそこまでのダメージが入らなかった。
「力が入ってないわ…よ!」
ベティは椅子の足を両手で握り、目一杯の力でクウコを殴りつける。トドメの一撃を食らったクウコは、血を流しながら、力なくベティに寄りかかる。
ベティは寄りかかってくるクウコを払いのけ、椅子をクウコの上に投げ捨てる。
「…か、勝った?」
「…勝ちやがった!キングリーパーのヤツ相手にタイマンで勝ったぞ!」
二人の戦いを黙って見ていた客たちが一気に沸き立つ。そして、ベティのことをまるで英雄かのように称えだす。
「おいおい、すげぇな!」
「あの氷のやつはどうやって出してんだ!?」
「カッコよかったぞ。嬢ちゃん!」
ベティの周りに集まり、口々に感想を喋り出す。ベティはそんな人たちに軽く手を振ると、店を出る。
「ヒール…あぁ、食事中に体を動かすものじゃないわね」
ベティは焼け跡を消しながら腹をおさえる。
「私の位置は…バレてるらしいし、追手がまた来るのかしら」
下を向いて、少し憂鬱な気持ちになっていると誰かにぶつかる。
「あ、ごめんなさい」
ベティはぶつかってきたサングラスの男に軽く謝罪の言葉を言う。
「チッ…」
男は舌打ちだけすると、急ぎ足でその場を去っていく。
「…ん?アレって…」
ベティはサングラスの男に見覚えがあった。
「確か…クードゥ・アティリア。だったわね」
サングラスの男の背中を見ながらベティはつぶやく。




