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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第1話 死神のお膝元

「…チッ。眠らされてたのね」

 牢屋で目を覚ましたベティは、即座に状況を理解して舌打ちをしながら起き上がる。

「ここは…どこだ?知らない場所だけど」

 ベティは二畳半程度の質素で、カビ臭い部屋に押し込まれていた。

「お、起きたんか」

 ベティの向かいの牢屋にいた男が話しかけてくる。

「よう、おめぇクソ強ぇらしいじゃねぇか。運んできた奴がそんなこと言ってたぜ」

「あっそ。だからってあなたに何かある訳じゃないでしょ?」

 ベティは投獄されたことが不快だったようで、少しの苛立ちを見せ、素っ気なく返事を返す。

「オレはビリー・サンセットだ。おめぇの名前はなんだ?」

「私はベティ。…ジャッタリーよ」

 ベティは少し悲しそうに、それでいて誇らしそうに「ジャッタリー」の名を名乗る。

「そうか、ベティ。お向かいさんだから教えてやるよ。オレらは明日、ハジチ地区の戦争に駆り出されるらしいぜ」

 ビリーが牢の鉄格子を両手で握り、寄りかかりながらベティに話し続ける。

「敵はここの元幹部で情報を盗んだクードゥ・アティリアだってよ」

「ふーん。フロスタ」

 ベティは適当に聞き流すと、冷気を纏う自身の手のひらをゆっくりと顔に当てる。

(魔力は回復しているわね…この世界じゃ、魔法の警戒をする人はいない。脱獄はしようと思えばできるけど、明日になれば安全に外に出られるのなら…それまで待った方がいいね)

 ベティがそんなことを考えていると、鉄格子をコンコンと叩く音がする。

「…起きたんだね」

 ベティが顔を上げると、そこには自身を気絶させた三つ編みの女性が牢の向こうに立っていた。

「…あからさまに嫌そうな顔をするね」

「あんなことしておいて嫌われてないとでも思ってたの?」

 ベティは三つ編みの女性に恨みを込めて睨む。

「…いや、嫌われている自覚はあるけど…顔に出やすいんだね。…おもしろいよ」

 三つ編みの女性は少し小馬鹿にするような笑みを浮かべる。その様子を見てベティは再度に睨みつける。

「…怖いね。それと私、君の名前知らないの。教えてくれるかな?君についての情報が探しても全然無くて」

「…まずはあなたから名乗ったらどう?」

「…そうだね。アニナ・トーリィ。よろしくね」

「ベティ・ジャッタリー。あと、私はよろしくするつもりないんだけど」

 ベティは握手求めるアニナの手を払い、冷たく言い放つ。

「…ベティ。君の能力を評価しているんだ。さっきそこの子が言ってたように戦いにでてもらうよ。…最前線に立って、アティリアを潰してもらう」

「はぁ、もちろん報酬はあるのよね?」

「…ええ。アティリアを殺したらね。それなりの報酬は渡すよ」

「あのね…そんなあやふやな報酬を提示されても困るの。もっとハッキリさして」

「…君の頑張り次第だよ」

「だからそれが…」

 ベティが鉄格子の向こうに手を伸ばし、アニナの胸ぐらをつかむ。そして、アニナは面倒くさそうにして、拳銃を抜く。

「…私はあなたよりも上の立場にいるの。…話は黙って了承して」

 ベティの腹部を打ち抜き、静かに言つ。

「…あまり、出すぎたことをすると…すぐに打たれるよ」

 アニナは自身の服を掴むベティの手をはがすと、痛みに耐えるベティの頭をポンポンと叩く。

「…明日は期待してるよ」

 アニナはそんな言葉を残し、消えていく。

「…くそが」

 ベティは自身につけられた傷を治療すると、鉄格子をダンッと叩く。

「おぉ、ブチ切れじゃん」

 二人の会話を黙って聞いていたビリーが笑いながら言葉を発する。

「あぁ、ムカつくわ。いつか殺してやるよ」

 ベティは歯ぎしりをしながらつぶやく。どうやらもう、殺しを何とも思ってないようだ。

「殺すって…無理だろ。あいつの立場はでかすぎるぞ」

「たかが幹部でしょ。串刺しにして終わりよ」

「そんなことできる訳ねぇだろ。あいつの実力は折り紙付きだ」

「そんなになの?」

「あぁ。あいつはここ、()()()()()()()でも随一の実力者だ。ここの幹部はオレらみたいな雑魚が束になっても勝てっこないぜ」

 ビリーは諦めたような表情で話すが、ベティはどこ吹く風といった顔だ。

「ふーん。でも、私は強い。あなたがさっきそう言ったでしょ?」

 ベティは余裕といった表情で続ける。

「キングリーパーって七大国家だっけ?それがどれだけ強い組織だとしても、私にしか無い力があるの。歯向かう者は…皆殺しよ」

「おぉ、肝が据わってんねぇ。盗聴されてる可能性も大いにあるってのに」

 ベティの物怖じしない態度にビリーが静かに笑い声をあげる。

「おめぇは、伝説(レジェンド)になるかもな。素質はあるぞ、少なくともこんな牢に居ていいような人間じゃないぜ」

 ビリーの「伝説(レジェンド)」という言葉にベティが反応する。

「…伝説ねぇ。正直私は、くだらないって思ってたわ。なんとも曖昧で、本の主人公に憧れた子供のようなことをいい大人が口を揃えて言うんだもの…」

 ベティはニヤリと不敵な笑みを浮かべると手を広げ、言葉を続ける。

「でも、少し興味が湧いたかも、全人類が欲し、奪い合った、『伝説(レジェンド)』になってみたくなったわ」

 ベティはそう言うと、世界の頂点に立った自分の姿を思い浮かべて、大きな笑い声をあげる。

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