第1話 生き残れた幸運者
(なんだろう。なんか、色々な音がする。変な匂いもする)
意識を失っていたベティはそこら中から聞こえる叫び声、硝煙の匂いによって目を覚ました。
「どこよ…ここ」
さっきまでは崩壊したレンガ造りの建物が並んでいたのだが、目の前は薄暗い路地裏が続いていた。
「私が知ってる場所じゃない…本当に何が起きたの?」
ベティは光がさす方向へと歩いてゆく。
「何よ…これ。何が起こってるの?」
路地裏を出たベティの目の前には数百メートルの高層ビルが無数に並んでいる。空にはドローンや車が当たり前のように飛び交っている。世界のほとんどが未開拓地で、馬車が最速だったような世界を生きてきたベティでさえ一目見て技術力が高さを理解した。
「嘘…すごい…げど、空気が悪いわ。町中なのに戦場のような緊張感で張り詰めている。戦時中って感じじゃないし」
数々の修羅場をくぐり抜けてきたはずのベティは一瞬だけ身震いをする。
「私はどうすればいいんだろう」
キョロキョロとあたりを見渡しながら歩く。そして、少し開けた道に出た瞬間、車がベティの顔スレスレを通る。
「ワッ!危ない。新種のモンスター?いやでも、人が乗っていたけど」
ブツブツと独り言をつぶやきながら歩いていく。そして、一つの建物が目に入った。黄金でギラギラの外見にネオンライトで「ジャックポットランド」と書かれていた。
(すごいキンピカ。お金も、情報も何も無い。住み込みで稼ぎながら、情報を集めれたりしないかな)
ベティは少し大きめな扉を開ける。扉の先には黄金の装飾がされた内装に、トランプを切る者や、チップを台に乗せる者、そして人々の喜怒哀楽の声が室内に響く。
「ギラギラしすぎでしょ。目が痛くなる」
ベティ目を細めながら部屋の奥へと進む。奥へと進むたびに周りからの視線を受ける。周りからしたらドレスやスーツに身を包んでいる人々の中で、血まみれの修道服によくわからない杖を持ったあまりにも場違いすぎる女性が入ってきたのだ。多少は好奇の目で見られるだろう。
「チクショ!なんでテメェばっかりなんだよ!」
一際大きな声をあげる男がいた。ベティに視線を向けていた者たちもその男へと視線を移す。
周りと比べて体の大きな男が台の上に積まれたチップの山を崩す。その隣に座っていた眼鏡をかけた男がやれやれといった感じで煽る。
「あらあら、運が悪いですね。まだやりますか?」
「うるせぇ!このイカサマ野郎!」
大柄の男は座っていた椅子を持ち上げて台に向かって叩きつける。台には大きな穴ができる。
「八つ当たりですか。だから負けるんですよ」
大柄の男は眼鏡の男の胸倉をつかむ。
「なんですか?自分の運を恨んでください」
そういいながら眼鏡の男は右手で大柄な男の顔を殴りつける。そして、殴りつけられた瞬間、大柄の男の顔に小さな爆発が起きる。
(嘘!そんなことで爆破魔法を使うことある!?)
「イッテェ!てめぇこんなところで「ボマー」を使いやがって…」
大柄の男の顔から血が垂れる。
「は~い。ストップスイップ。ここカジノでーすよ。やめてくださいね~」
ディーラーの女性が二人の間に割って入った。
「まず、そっちのデカブツくん。器物損害ね。んで、眼鏡くんはインプラント「ボマー」の使用。あれ?どっちも禁止事項じゃないですか~」
ディーラーはリボルバーに弾を込め、二人の腹部に向かって放つ。両者は小さくうめき声をあげる。
「やるなら外でお願いしますよ」
「うるせぇっ!こいつがイカサマしたんだよ!」
「いやしかし、証拠がないじゃないですか」
「はいはい。うるさい、うるさぁい。気に入らないなら運に委ねましょう。ここはカジノですよ」
ディーラーがリボルバーに弾を一発だけ込める。
「生きるか死ぬかを賭けた最高のフェアゲーム。ロシアンルーレットの始まり~」
ディーラーは室内全体に聞こえるように叫ぶ。その言葉に周りが人間が沸き上がる。
(なんでみんな興奮しているんだろう?)
ベティはいきなり沸く人々に驚きながらも、二人の様子を見守る。
「んじゃ、どちらから始めますかぁ?」
「俺からでいいぜ」
ディーラーが大柄の男の眉間に銃口を突き付ける。
「ルーレットォスタート!」
ディーラーがシリンダーを回す。回し始めた瞬間、騒いでいた野次馬たちも黙り込んだ。
「止めろ!」
ディーラーが回す手を止め、引き金を引く。一瞬の沈黙の後、大柄な男がガッツポーズをすると、野次馬達が騒ぎ出す。
(あれ?何か起きた?何を止めたの?)
「はぁ。一発程度で騒がれても」
ディーラーはリボルバーを眼鏡の男に向け、シリンダーを回し始める。
「ストップです」
ディーラーがリボルバーの引き金を引く。そして、ダンッという銃声が轟く。眼鏡の男の眉間から血がどくどくと溢れる。
(嘘!?死んだ!?)
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
眼鏡の男がその場に倒れると、大柄の男の雄叫びをあげる。それに釣られて野次馬達も騒ぎ出す。
(なんでここの人たちは動じないの!?どうして楽しそうに笑えるの!?)
前の世界ではたくさんの死体を見てきたベティだが、人殺しの現場には動揺するらしい。
(おかしい!世界はどうなっちゃったのよ!?)
周りが盛り上がっている中、ベティ一人が建物から抜け出す。
「もうっ!何が起きたのよ。死体自体は見慣れてた…けどなんで恐怖してるの?」
さっきの出来事にショックを受けたのか、そう自身に問いかけながらその場に力なくへたり込む。
「なんか疲れてきたわ」
ベティは壁にもたれながらつぶやくと、横から声をかけられる。
「大丈夫かい?」