第16話 狂い爪
「お前さんがナイトキラーの頭か?」
メイブンは余裕の表情で立っている男に向かって拳銃を向ける。
「いかにも。この俺がナイトキラーのボス、ボンドリー・オワララだ」
ボンドリーは豪快に腕を広げる。ボンドリーが動くたびに身に着けているアクセサリーがジャラジャラと音が鳴る。
「そうか、お前さんらはあの頭以外とやってくれ。あいつは俺が…潰す」
メイブンは力強く宣言すると走り出す。メイブンは雑兵たちの横を猛スピードで通り過ぎ、ボンドリーの目の前で立ち止まる。
「え?はや…」
メイブンの手刀を食らったボンドリー血を流しながらも、受け身をとる。
「ボ、ボス!」
「うへぇ、アディ隊とクリィ隊はボンドリーの援護行ったってや!」
エーリの隣に立っている、ゴツイ義手をした女性が指示を出す。
「了解です」
雑兵の一部がメイブンたちのもとへ向かう。
「面倒なのを寄越してきやがって」
メイブンは大きめの舌打ちをしてから全方位に向かって銃を発砲する。しかし、銃弾のほとんどが当たらず、当たったとしても死には至らなかった。
「ビビるな、そこのジジイの射撃能力は高くないぞ!」
驚いて足を止めていた雑兵たちを奮い立たせる。
「数が多いだけの雑魚を集めてくるんじゃねぇよ」
メイブンは動き始めた雑兵たちを一人一人殺していく。
「くそ、お前らは近づくな!俺がやる」
ボンドリーは右腕を伸ばす。右腕にある無数の穴から刃が飛び出す。そして、その右腕は回転し、徐々にスピードを上げる。
「どうだ俺の腕は矛にも盾にもなるんだ」
回転する腕をメイブンに向かって振り下げる。メイブンも一瞬しり込みしそうになるが、回り込んでボンドリーの脇腹に強烈なパンチを放つ。
「チッ、老いぼれのくせに」
「老いぼれ?違うな。数多の戦争から生きて帰ってきた戦士だぞ」
追撃の蹴りがボンドリーの頭部に直撃する。
「くっそ、なんでそんな強ぇんだよ!」
ボンドリーは悪態をつきながら回転する腕をメイブンに近づける。
「あぁ…それは困るんだよな」
困ったと言いつつ、余裕の表情でボンドリーとの距離を取る。
「くそ!くそ!くそ!」
メイブンとは対照に余裕がなくなってきたボンドリーは腕をぐるぐると回しだす。無思慮の攻撃ではあるものの全方位に腕を回しているため、隙があまりない。
「何も考えずに腕を振り回しおって」
ボンドリーの懐に入ろうとするが、回転する腕に弾き飛ばされてしまう。
「想像以上に面倒だな」
傷が浅いもののボンドリーの刃がどんどんとメイブンの体を傷つけていく。メイブンは飛んでくる拳から身を守りながら隙を探す。
「ど、どうだ!このまま死ねよ!」
少しの余裕を取り戻したボンドリーは笑みを浮かべると、メイブンの顔面に向かってパンチを放つ。
(ここだな)
メイブンは相打ち覚悟で回転攻撃を止め、ボンドリーの心臓を捉える。どんな刃よりも鋭利な爪はボンドリーの胸の中へと消えていった。
「あぁぁ!あぁ!?」
ボンドリーは情けない叫び声をあげながら大きく後退する。胸からは出血多量で死ぬのではと思うほどの量の血が流れる。
「随分と無様な声を出すんだな」
メイブンは不敵な笑みを浮かべながら一歩近づく。ボンドリーは胸を手で押えながら素早く後退りする。
「はぁはぁ!来るな!」
回転する腕を前に突き出しながら叫ぶ。
「それはもう、慣れた」
メイブンは回転する刃を一本掴んで折ると、ボンドリーの額に向かって投げ飛ばす。
「あぁぁ、あぅ」
胸からも頭からも血を流すボンドリーは近くに立っている雑兵に寄りかかる。
「くそ、くそぉ!おい、アレだ!ロイヤルフライを起動しろ!」
ボンドリーの言葉に雑兵たちの顔がこわばる。
「何をしている!さっさとロイヤルフライを持ってこい!」
ボンドリーの剣幕に驚きつつも雑兵の一人はトランシーバーに向かって何かを叫ぶ。黙って見ていたメイブンが口を開く。
「何をしようと俺の勝ちは揺るがないぞ」
「それは慢心が過ぎるぜ。ロイヤルフライは…お前の思っている以上の力を持っているぞ」
「そうか、お前さんはその切り札を使う前に死ぬってのにか?」
「へ?」
一瞬で距離を詰めたメイブンはボンドリーの首に掻っ切る。体から離れた首が宙を舞う。




