第9話 初めてのお仕事
エースに入隊してから一週間。ベティは血の匂いや、耳に響く銃声にも、時々転がっている死体にも見慣れてきてしまった。
そして、ベティは近所の市で手に入れた大きな箱を抱えながら道を歩いていく。
「重い、何入ってるのよ」
中には爆薬やら銃弾がいっぱいに敷き詰められている。
「わぁ、物騒なものが」
この一週間でそれなりの知識を付けたベティは自身が運んでるものがヤバいものであると理解した。
「これ使って何する気なの?どこを攻めるのよ」
箱の中身を確認しながら歩いていると、いつの間にか家に戻っていた。家の前には二人の男が立っていた。
(あれ?なんだろう、あの人たち。家の前で何やってるんだろ?)
男たちは近づいてくるベティに気づき、話しかける。
「…キミ。このあたりでこんな人見なかったか?ナイトキラーの幹部なんだ」
男が見せた写真の顔には見覚えがあった。
(メリーとカルラ。なんで、この人たちを探しているんだろう)
「…見ませんでしたね」
嫌な予感がしたベティは咄嗟に嘘をついてさっさと家に戻ろうとするが、男に扉を掴まれ阻止される。
「あのねぇ。俺らはさ、奴隷収容所の看守の捜索と抜け出した奴隷の処理を任されたんだよ。君の顔も知ってるんだよ」
「そうですか。なら尚更、私はその話に協力はできなさそうです…ね!」
ベティは箱を地面に落とすと、男の顔面に蹴りを入れ、気絶させる。もう一人の男はベティから距離を取る。
「こちらワール。リングトッコ東地区で処理対象を発見…いや、一人だ…了解、作業に移るぞ」
男は拳銃を抜き、発砲する。ベティはそれをかわしながら近づき、足払いをする。
「うお!」
男が尻もちをついたところへ追撃の蹴りを食らわせる。男はぐでぇと倒れ動かない。
「はぁ、どうしよう。このままにしたら、また襲いに来るだろうし」
ベティは震える手で男に銃口を向ける。しかし、一向に引き金を引こうとしない。
「うぅ。やっぱり無理…殺せない」
そして、パパンッと発砲が響く。男たちの額から血が流れ出す。
「まだ殺せないの?別にいいけど、すっごい足かせになるわよ」
ベティの隣を大荷物を持ったミアナが通る。
「すいません」
「いや、いいわよ。あんたが殺せないなら私たちが代わりに殺すだけよ」
ミアナは荷物を置くと、ポケットから煙草を取り出し一服する。
「あとこいつら何?あんたが喧嘩を売ることなんてまず無いし」
「なんか奴隷収容所の人が私たちやメリーたちを探してるようです。多分もう場所はバレてると思います」
「うわっ!嘘でしょ。てことはここを潰しに兵を送ってくるでしょうね。とっととメイブンに伝えないとね」
ミアナは荷物を持ち上げ、家へと入る。ベティは箱を持ち後を続く。
「ところでそれは、なんですか?すごく煙たいんですけど…」
「煙草。一本いる?あ、吸いすぎないでね」
ミアナはベティに煙草を咥えさせると、火をつける。
「え?あ、うぐぅ、はぁ!ゴホゴホッ!にがぁ!」
ベティはむせてしまい、煙草を捨ててせき込む。ミアナは煙草をグリグリと踏みながら苦笑する。
「私のは甘いほうなんだけど。なんかごめんね」
「いえ、大丈夫です…うぅ」
二人は部屋に入り、荷物を下ろしてメイブンに話しかける。
「メイブン。私たちの事がナイトキラーにバレたわ。ここも近いうちに襲われるわ」
「ふぅん、そうか。じゃあ…ナイトキラーを潰すか」
メイブンはベティたちが運んできた荷物の中身を確認しながら不敵に笑う。
「え?」
「なんだ、違うのか。じゃあなんのために報告しに来たんだ?」
「私は基地を移すように言おうと思ったんだけど…」
「俺は案外ここが気に入っておる。それに、脅威から逃げるよりも脅威を排除したほうがいいだろ」
「あんたがバカみたいに強いのは知ってるけど、さすがに人数差で押されるわよ。やめときな!」
ミアナが必死に説得するが、メイブンはどこ吹く風で火薬の入った袋を机の上に置く。
「んじゃ、爆弾で一掃しちまえばいいだろ。それだと、人数差は関係ないだろう。少量ならこの火薬を使っても、バレねぇだろ」
「そもそも、これは何に使うつもりだったのですか?」
「アサルトエンジェルのトップとはまだ交流があってな。そいつに渡してんだよ。爆弾はリンシャが数時間で作ってくれるだろう」
ソファでゴロゴロしてたリンシャがバッと顔をあげこちらを見つめてくる。
「明日には準備が整ってるはずだ。オルスたちにも伝えとくぞ」
なぜかメイブン一人でドンドンと話が進んでいく。もう、ナイトキラーに攻めることが確定しているようだ。
「本気で言ってる…死ぬんじゃないの?私たち」
絶望に満ちた声でつぶやくミアナにベティが声をかける。
「えっと、きっと大丈夫です。頑張りましょうよ!」




