プロローグ 勇者パーティ、全滅
剣と魔法のファンタジーな世界に勇者パーティという魔王討伐を目標とした非常に強力なパーティがいた。
そんな勇者パーティは今、魔王軍の奇襲により四人のうち二人は死亡、もう二人は満身創痍。その上勇者パーティが滞在していた町の住民を皆殺しにされ、建物をほとんどが破壊され、最大のピンチに陥っていた。
「大丈夫?クロムさん。ヒール」
サラサラな緑髪で、修道服に身を包んだ細身の女性が、建物のガレキに背中を預けている黒髪の青年の傷口に手を当てると淡い光が傷口を照らす。すると、傷口がほんの少しだけ塞がった。かと思いきや、また広がってしまった。
「やっぱり、魔力不足のせいで回復できなかった。ごめんなさい」
「いや、ありがたい限りだよ。こんな僕のために。でも、魔力不足なら僕を回復しないで自分の回復をしなよ」
「いえ、私はみんなを救うって志したのに沢山の人を犠牲にしてしまった。だから、助けられる命は助けたいの」
「その優しさはうれしいけど、魔力が切れてはしょうがないよ。ベティは十分頑張ってるんだから。自分の命も大切にしてくれよ」
クロムは今にも泣きそうなベティを励ます。そして、こんな提案をする。
「ベティ、僕の転移魔法で少し遠くに逃げないか?」
「え?逃げる?でも、私たちにの使命が…」
「別に使命を投げ出す訳じゃない。態勢を整えたら再度、魔王討伐に出発するんだよ」
「それなら…いいかもしれないけど」
歯切れの悪い返答をするベティの手をクロムが握る。その瞬間。
「キュルルルルルッ!」
いつの間にか二人の背後に骨格だけの馬が、耳が痛くなるような鳴き声をあげながら立っていた。
「クソッ!」
骨格だけの馬が体当たりを仕掛けてくる。クロムは剣で防ごうとしたが、疲労が溜まってるうえ、不意をつかれたことによって力が入らなかったのかあっさりと押し負けてしまう。
「クロムさんどいて!アイスランスッ!」
ベティは床に置いていた先端にダイヤモンドのような宝石がついている魔法の杖を手に取り、クロムに近づいてゆく骨格だけの馬に氷魔法をぶつける。本来「アイスランス」は、四本の氷の刃を生み出し相手を貫くような魔法であるのだが、さっき放った魔法は小石程度の氷の礫が一つだけ生成されて終わってしまった。
「魔力が無さすぎて話にならないわ!」
何の足止めにもならず、骨格だけの馬は進み続ける。
「ベティ!魔力を分けてくれ!すぐに転移するよ」
勝てないことを察したクロムはベティの手をつなぐ。
「キュウウウウウウ!」
「危ない!」
逃がすまいと、骨格だけの馬が口からエネルギービームを吐き出す。エネルギービームはベティをかばったクロムの腹部を貫く。
「クロムさん!クロムさん!」
ベティがどんなに叫んでもクロムからの返事はこない。心臓はまだ動いている。
「なんで?なんで!みんなを救うために勇者パーティに入ったのに・・・目の前でみんな死んでいって…あなたは私から全てを奪って!」
ベティがクロムの手を握りながら、言葉が通じるかわからない骨格だけの馬に怒鳴る。
「お願い。クロムさんだけでもいいから。遠くに転移させて!」
火事場の馬鹿力というものなのか、さっきまで魔力不足だったベティの体から大量の魔力が放出される。
「お願い。テレポート!」
魔法とは魔力を込めれば込めるほど強くなるものである。少しの魔力で遠くに転移できる魔法を「テレポート」という。そんな魔法に、大量の魔力を込めたことにより魔法が暴走してしまったのである。それにより空間が歪み、ベティたちは消えてしまった。
「ヒュゥゥゥゥゥゥゥ?」
骨格だけの馬はさっきまでいた二匹の獲物たちが突然消えたことに驚いたようで、あたりをキョロキョロと見回す。