プレゼント大作戦(前編)
「今日もムースと話が出来て良かった! ムースが励ましてくれると僕も……元気になれるから」
『良かった。トルテが元気でいれくれると、私とっても嬉しいの』
仕事終わりの夜、遠識の手鏡を使って、僕はココア村にいるムースと話す僕。彼女とは仲が良い幼馴染みで、こうして話すと嬉しくて幸せな気持ちになれるんだ。
そしてそれは、ムースも同じ気持ちで。
「こっちでも頑張るから。だから、これからも応援して欲しい」
『もちろんだよ。私も、離れ離れだけど心はいつも傍にいるから。
……だから……えっと』
「ムース?」
そう話す彼女の顔は、何だかどこか複雑そうな感じで。だから僕も心配になって。
『えっ、トルテ?』
「本当に大丈夫? 少し前からたまに様子が気になる所があるから……もし何かあるなら、言ってくれたら」
僕は気にかけて言った。けれど、彼女は一瞬はっとしたようにした後で、いつものような笑顔を投げかけると。
『ううん! なんでも、大したことじゃないから』
「えっ? でもやっぱり気になるし、一体どうして……」
だけどムースは頭を振って、僕に言う。
『平気だよ、私は。──それに今日はもう遅いから、もう切るわね。おやすみトルテ!』
「ちょっ! 待ってくれ──」
彼女は鏡に注ぐ魔力を止めて、通話を終わらせた。
(ムース……一体どうしたんだろう?)
心配だった。少し前から、丁度シフォンの魔獣退治に一緒に行ったあの時から、彼女の様子は変だった。
大体はいつものように僕に笑ってくれるけれど、たまにどこか複雑そうな……寂しそうな様子を少し見せる事がたまにあるんだ。どうしてなのか分からないけど、でも気がかりで。
部屋のベッドに身体を投げて、寝そべって。……でもどうしても気になって眠れなかった。
(どうしても心配なんだ。どうやったら……彼女の元気を取り戻せるんだろう)
ムースのあの様子、思い出すだけでも気になってしまう。だから、僕に出来る事はないか考える。
正直頭が良い方じゃないけれど、それでも自分に出来る事を。
「そうだ、何かプレゼントとかするのが良いかも」
贈り物、それが一番良いかもしれない。良いプレゼントをすればきっとムースも元気になってくれると思うし。
そうと決まれば考えないと。何を彼女にプレゼントしようか、まずはそこから。せっかくだから何か特別な物を送りたい……けど。
────
「女の子へのプレゼントだって?」
魔王城の門の近く、モフモフな毛皮で大柄ムキムキな、『コボルト』のビスケさんは目を丸くして僕を見た。僕が魔王城に来てから始めて会ったこともあるし、それに陽気な所もあって良い話し相手になっていた。
「……けど悪いな。俺はあんまりそうしたのには縁がないせいで、正直良いのが思いつかない。
俺なら肉だとか、食べ物が嬉しいんだがな」
「うーん……」
でもビスケさんには少し厳しいようで、別の人に聞いた方が良さそうかも。
そんな感じで他にも色々と、訊ける人には訊いて行ったけれど、なかなか良い答えは見つからないでいた。
今は城の使用人で僕の上司でもある人形族のクリーシュさんに話をしている所だけれど。
「うーン、ボクには分からないヨ。ゴメンね」
「……ううん。僕の方こそ、変な事を聞いて悪かったから」
僕もクリーシュさんに謝った。人形族で表情もよく分からないけれど、それでも穏やかな様子で応えてくれる。
「いいヨ、トルテくん。ただ……ボクは力になれないケど、そう言う事を知りたいのなら、いい人がいるヨ。
やっぱり女の子のコとなら、女性にキくのが良いからネ。だから────」
────
クリーシュさんに薦められて、僕はある人の部屋に来ていた。
僕を含めて魔王城で働く人たち居住寮の一番上の階のとある部屋、そこに居るのは……。
「あら? いらっしゃい、トルテちゃん」
部屋に入ると、一気にむせ返るような緑の香り。半分以上植物に覆われた部屋に、シックなテーブルの前に座って紅茶を口にしながら、僕に微笑みかけてくれる美しい女の人がいた。
白いローブに身を包んだ、透き通った肌で長い薄緑色の髪を伸ばした綺麗な人。右目は前髪に隠れて見えないけれど、深く濃い緑をした左の目が僕を見据えている。それに僕のような人魔族みたいな角に似た感じに頭から二本生えている木の枝。彼女は木精族のエクレさん。魔王城の居住寮、その責任者……つまり寮母さんなんだ。
「ちょっとお久しぶりだね。この前はケーキをご馳走してくれて、ありがとう」
「ふふふっ、トルテちゃんはいつもお仕事を頑張っていますもの。あの時のケーキ、気に入ってくれたかしら?」
「もちろん! 最高に美味しかったよ」
エクレさんとは僕も知り合いで、色々と親切にして貰ったことがある。前に会った時には彼女手作りのケーキをご馳走して貰ったりで、優しい人なんだ。
「なら良かったわ。……でも、こんなに若いのに魔王さまのお城で一生懸命働いているなんて、偉いですもの」
「それ程でもないさ。僕は僕で、理由があるら頑張っているだけだし」
「ふふふっ。だとしても立派よ、本当に。
──せっかく来てくれたんですもの、よければゆっくりして行きませんか? 美味しい紅茶も淹れてあげますから」
エクレさんに言われるまま、僕は部屋でお茶をご馳走になった。
「この紅茶、やっぱり美味しいよ! さすがエクレさん」
「私の特性ブレンドですのよ。味には自信はありますから」
エクレさんは僕にニコニコ微笑みかけてくれる。それから、こんな質問を。
「ところで、トルテちゃんがここに来た理由って、何かあるのかしら?
ただ会いに来てくれたと言うのでも、もちろん嬉しいのだけれど……ね」
……っと、そうだった。僕がここに来たのにはちゃんと理由があるんだった。
「実はさ、僕は故郷で暮らすある女の子にプレゼントを贈りたいと思っているんだ。
幼い頃からずっと一緒で、大切な幼なじみだから。その感謝の気持ちを伝えたいのと、最近落ち込んでいるみたいだから……元気づけたくて」
そう話す僕を、エクレさんは優しい眼差しで見つめて。それからこう話してくれた。
「大切な子へのプレゼント……素敵じゃない。ふふふっ」
微笑んだ顔を向けるエクレさん。
「だけどそうしたプレゼントはきっと、何をあげるかよりも、トルテちゃんの思いさえ伝えられれば良いと思うわよ。
気持ちを伝えるのが一番、その子も喜んでくれるはずよ」
「そう、かな? その考えは僕も分かるけど、やっぱり悩むよ。贈り物そのものを、何を送ればいいかって」
正直あれかもしれないけれど、そもそも何を送るかと言う所で、悩んでいる所もある。
エクレさんはおかしそうな表情を見せるけど……ある事を教えてくれた
「確かにね、プレゼントに送る物も悩むわよね。だけど──そう言うことなら、実は良いものがあるの。
良かったら見て行かないかしら、トルテちゃん?」
「……えっ?」
見て行くって、一体どう言う事だろう?