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魔王の思案(side 魔王シュトレ)


 私は玉座に座り考え事をしていた。


「……ふむ」


 特に謁見の用事がある訳ではない。だが、考え事がある時の多くは、こうしてこの場所で座り考えにふけるのが長年の習慣である。考えてている内容は、少し以前から気になっていた、ある一つの事だ。


(トルテ……か。まさか彼をここに来させるとは……ガレットは何を考えている)


 魔王城で下働きとして──最も娘のシフォンに言われて仕方なくだが──雇い入れた人魔族の少年だ。仕事ぶりは悪くなく、娘は彼の事を気に入っている。今の所は問題はないのだが……。


(どうしたものか。トルテの事は彼に任せたはずなのだが、もし面倒な事になれば……)


 頭を悩ませる問題だ。そうしていると、部屋の端から執事服を来た、赤い翼と尻尾を生やし、長い角と牙を生やし頬に鱗を残した赤毛の青年が恭しく一礼して現れた。

 彼は竜と人魔族の中間の種族、竜人族の執事──カータードだ。


「失礼します、魔王様」


「どうかしたのか? カータード」


「遠識の大鏡に連絡が届きましたので、ご一報を。……魔王様の旧友であられるガレットさまより」


 噂をすればか。あの男が私に連絡を寄越すなんて、驚きだ。だが丁度良いタイミングだ。


「有難う。彼とは私が話そう、用意して貰えないだろうか?」


「仰せのままに」


 言うとカータードは指を鳴らし、傍に楕円形の大きな鏡を召喚した。物体を別の場所から瞬間移動させる転送魔術。いつ見ても手際の良いものだ。……魔王である私でさえああは行かない。


「助かるよ。では、私はガレットと話すことにする。すまないが一人にして欲しい」


「──かしこまりました」


 言うと彼は再び一礼した後、姿を消した。私はそれを確認した後、鏡に魔力を注ぎ入れて発動させる。すると……ある一人の『ドワーフ』の姿が現れた。


「……久しぶりだな、ガレット」


 私の言葉に鏡に写っている、髭におおわれたいかつい顔に、小柄なドワーフには珍しいほどに大柄な男。それが私の旧友であるガレットの姿だ。


『シュトレどのもお元気そうで、何よりですな』


 人の良い笑顔を浮かべて言うガレット。


「ああ。私も会えて嬉しい。最もガレット、君からこうして連絡をして来た事は驚きであったが」


『吾輩とて久々に会い、話したくなる時もある。何しろ一万年前……共に魔界の危機を救うべく戦った戦友なのだから』


「そうだなガレット。だが──」


 ああ、その通りだ。私とガレットは他の仲間達とともに、かつて魔界全体の驚異となる厄災と激闘を繰り広げた。

 戦いの後、仲間たちはそれぞれの道を歩み、魔王城に今なおいる者もいれば、彼のように別の場所で新たな生活を送る者もいる。ただ、別れた者と連絡を取る事は少なく、ガレットとも約一万年前……『とある理由』で直接会った以降は連絡を取っていなかったのだ。


(『あの事』は……ガレットに任せていたはずだ。何より彼がそうしたいと、言ったことではないのか? なのに──)


「──彼の面倒は、ガレットが見ると言う話だっただろう? 

 それなのに……下働きとして我が魔王城へと寄越して来るとは、何を考えている?」


 これは重要な事で、言及せずにはいられなかった。ガレットはそれに申し訳無さそうにしながらも、私に伝えた。


『吾輩もすまないとは思った。だが、トルテどのが強くそうしたいと望んでいたのだ。

 村は穏やかで平和ではあるが、狭い世界だ。だから吾輩は外の世界に行かせて見るのも良いと考えた。……きっとトルテどのにとっても良い成長になるはずだとも』


「そうか」


 ガレットの考えも分からなくはない。分からなくはないのだが……。


(……はぁ)


 内心ため息をつくが、こうなった以上は仕方ないのかもしれない。


『シュトレどのには迷惑をかけてしまったな、申し訳がない』


「頭が痛くなる問題ではあるが、もう過ぎた事だ。構いはしない。

 それに……だ、私に連絡を寄越したのも、トルテの近況が気がかりだったからだろう?」


『ははは、さすがだ。勘が鋭いものだ』


 ガレットはそう言うと、改めて私に尋ねた。


『魔王城で働いているそうだな。……どうだろうか? トルテどのは問題なくやれているだろうか?

 幼なじみのムースどのとも話はしたが、シュトレどのの話も聞きたいと思ったのだ』


「なるほど……」


 やはりそう言う事か。まぁ、問題ないだろう。


『私自身は最初会って以降はトルテ本人と話をしたわけではない。……だが、ある程度の事は他から聞いている。

 下働きとしての勤務状況は良好で、人付き合いも問題ない。普通の、善良な人魔族の少年だよ』


 ガレットに伝え、私自身も半ば独り言のように……呟くと。


「ああ……異常は何一つさえない、ただの少年だ」


 問題は何もないはずだ。あの下働きの少年、トルテは──普通の魔族にすぎないはずなのだから。


『シュトレどのがそう言うのなら、安心だ。吾輩の独断で貴殿には迷惑をかけてしまったな』


「構わないとも。これくらいなら、全然大した問題ではない。

 いや──待て」


 一つある事を思い出した。私はガレットにこう話す。


「言い忘れていた。トルテ自身は問題ないのだが……どうもな、娘のシフォンが彼を気に入ったらしい。

 今日も二人で一緒に遠出に出たらしく、色々と心配なのだ」


 これにはある意味で一番気になる問題だ。まさか私の娘が、関わり合いになるなど。ガレットはそんな私に面白いと言うような表情


『子煩悩と言うものだな。普通なら微笑ましいものではあるが、気持ちは分かるぞ。

 彼女はトルテどのの事を、知っているわけではないのだから』


 確かにそうだ。……だが。



「仕方あるまい。娘はあれでも強い子だ、信じるしかあるまい。

 ──トルテも、ただの魔王城の下働きだ。今はそれで十分だろう」

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