表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

魔王城で初めての……友達


「♪〜 ♪〜」


 今日も掃除の仕事。この仕事も大分慣れて苦になくこなしてゆく。


「さて、掃除はここまで。我ながら良い仕事をしたな!」


 今回は城の広間の掃除、慣れたおかげで仕事の効率とスピードも上がった。良い感じに掃除を済ませて一息つく。けれど、今日は掃除以外にも色々と仕事があるから。

 僕は掃除道具を片付けて、別の仕事場へと。次は──




 ────



 魔王城出入り口の大門近くにある、番兵の詰め所にて。今度はそこに置いてある装備の整理作業だ。

 装備の置き場に置かれている、各番兵それぞれのスペースに置かれている鎧と武器を確認していく。台帳を見ながら、ちゃんと物が正しい場所にあるかどうか確認して行くんだ。


(これは……ビスケさんみたいなコボルト用の鎧かな。こっちは体格的にドワーフとかの物かも、傍にある武器も重そうな大斧だったりするし。他には……)


 何しろここには色々な種族がいるから、それに合わせて武器や鎧もぴったりの物を用意されている。少し興味を持ちながら置き場の装備を見ていくと、一際大きい鎧が立てかけたれているのが視界に入った。一般の人魔族である僕の何倍もある巨大な鎧で。まさか……これって。



 そう思っていると、大きな振動と足音が響いて来た。ドシン! ドシン! 思わず僕の身体ごと飛び上がってしまうくらいに、大きな。しかも……段々とこっちに近づいて来て、すぐ傍にまで。


「お前……噂のトルテか。仕事、頑張っている、偉い」


 大きく響く、やや片言な喋り方をする声。 

 振り向いて、後ろにいたのは僕の背丈の七、八倍もの巨体の、岩のような頑丈な身体の一つ目の巨人──トロールだった。

 その種族はみんな身体は大きくて、力持ちで、それでいて頑丈なんだ。


(トロール。存在は知っていたけれど、実際見ると迫力が……全然違う)


「どうした? もしかして、トロール、見たことないか?」


「えっ……と、うん」


 こう言われてつい、正直に答えてしまう僕。相手はふむふむと言うように頷いてから。


「そうか! でも俺も、驚かれる……久しぶり

 魔王城のみんな、トロール、見慣れている。だから……そうだ!」


 突然、トロールは僕に向かってその大きな手を伸ばす。


「えっ! ……ちょっ!」


 それから有無を言わさずに、指を襟首を器用につまみ上げ、僕ごと持ち上げる。


「何!? どう言う事っ!」


「せっかくだから、トルテ、みんなに紹介したい。みんなも喜ぶ、トルテも沢山、もてなす」


「困るよ! まだ仕事中なのに──っ!」


 けれどトロールの方は意に介さずに、上機嫌のままに僕をつまんだまま何処かに連れて行ってしまった。





 ────


 ……それからお昼。僕は魔王城の大食堂に、昼休憩に来たわけだけれど。


「……げぷっ」


「どうしたのかい? 昼飯前からお腹一杯そうで、頼んだのも小さいプリンだけじゃないか」


「プリンは僕の……大好物、だから。それだけは……うぷぷっ」


 隣に座る、小柄で茶色い毛玉のような先輩、ブラウニーのクラッカさん。それともう一人、僕の向かい側に座るクラッカさんの同僚の……短髪でバンダナを巻いた、逞しい人魔族の青年──チップさん。力仕事が得意で、彼ともよく話したりもするんだ。


「つーかよ! くくくっ! 何だよその膨らんだトルテの腹!!

 まるでオークみたいにプックラ膨らんでるじゃんよ! すげー笑えるぜ!」


 思いっきり腹を抱えて、大笑い。けれど……。


「……ブヒッ?」


 たまたま通りかかった、太ましい身体を持つ、大きな鼻と耳の生えた種族……オーク。さっきのチップさんの言葉が聞こえたのか、彼の背中を不機嫌にこっちを見てくる。

 その視線に僕達ははっとする。


「……おっと! すまねぇ、決してオークの事を馬鹿にした訳じゃねぇんだ。許してくれ!」


 慌ててチップは謝る。オークはふんと鼻を鳴らして、その場を去った。少し呆れ気味にクラッカは彼に呟く。


「口は災いのもとだな、チップ」


「……はぁ、悪かったぜ。だが……そんなにお腹一杯そうで、どーしたんだよ?」


 腹がまだ一杯で苦しいまま、僕はこう話す。


「さっき仕事の最中、トロールに捕まって、もてなされたんだよ。

 みんな気の良い人達なんだけど、用意するご馳走が……多すぎで。それから残りの仕事を終わらせたけれど、おかげでお腹いっぱいさ」


「そりゃあ災難だったな! トロールのメシは俺らよりずっと大盛りだし、そーなるのは分かるぜ」


「まだお腹が……苦しいよ。この感じだと、晩ごはんも要らないかも。

 …………あれ?」




 お腹一杯の僕だったけれど、僕達の席のいくらか向こう……食堂の入り口辺りに見覚えのある相手がいるのに気がついた。

 多分、今から食事しに来たみたいの、僕と同い年の緑髪の少女。確か彼女は──。


「ほう? シフォンさまがここに来るだなんて、珍しいものだ」


「けれど、あの奔放なプリンセスなら珍しくねーぜ。ほんと、自由気ままなんだものな」


 クラッカさん、チップさんも彼女の事に気づいたように呟く。


「確かにシフォンさんってそんな人みたいだね。一緒に話した時も底抜けに明るくて、何だか──自由な子って感じで」


 シフォン……僕も一度会って話した事だってある。魔王さまの娘であるけれど、そんな感じの人だと思った。

 もう一度、ちらりと彼女の方に視線を向ける。向こうは僕に気づいていないみたいで、食堂で頼んだハンバーグランチを手にして上機嫌に席につく。


(でも、少し気になる人でもある。出来ればもう一度くらい、話とかしてみたい……かも)




 ────


『今日もお疲れ様、頑張ったね』


 今日も仕事が終わり自室に戻った僕は、遠識の手鏡を使って遠く故郷のココア村にいる幼なじみ、ムースと会話をする。

 ここ、魔王城で下働きをし始めてそれなりに経った。──掃除だったり、食堂の皿洗い、外の雑草むしりとか、ちょっとした道具の運び入れとか……色々と仕事を覚えたりもした。


「ありがとう、ムース。大変だけれど……どうにかやれているよ」


『ふふっ、それは良かった! トルテが元気でいるのが、私には一番嬉しいから』

 

 鏡に映るムースは、嬉し気ににこっと可愛い笑顔ではにかんで応えてくれる。僕もこれにはつい、表情が緩んでしまう。


「みんな優しくしてくれるおかげだよ。クリーシュさんやクラッカさんに、それからビスケさん。……あとあと、居住寮の寮母さんも優しいんだ!

 この前も美味しいカレーの差し入れを貰ったしさ」


 ついつい自分でも、話していて楽しい気持ちになる程で。ムースもそんな僕を見て安心するような顔を見せた。


『本当に、良かった。……だって少し心配していたから。魔王城で元気にやれているかなって』


「ムース」


『でも、トルテも相変わらず元気そうで。だから──私も。

 村から出て行って、離れ離れで寂しいけど、トルテが頑張っているなら私も負けていられないもん!』


 元気いっぱいと言う感じで、そう彼女は伝えた。僕も同じ気持ちで返事を返す。


「僕達、今は離れ離れだけれど、でも一緒に頑張って行こう!」


『そうだね、トルテ。……ところでだけど』


 するとムースは気になったように、ある事を僕に尋ねる。


『魔王城に来てから誰かお友達は出来たりした?

 親切な人が沢山いるのは分かったけど、同じくらいの年頃の子だとか、周りにいないのかなって?』


 意外な問いかけだった。友達が、出来たかどうかだなんて。


「そう言えば……友達か。あまり考えたりしたなかったな」


 思った事を正直そのまま彼女に答えた。


「だって、魔王城には働きに……僕自身が立派な大人になる為に来たから。友達を作るのは二の次でいいと思うし」


 やっぱり一番の目的はそれだから。遊びに来たわけじゃなくて、自分が成長するために……だから。


『ふーん! そっか! ごめんね、勝手な心配をしちゃったみたいで』


「いいよ。僕にはこうしてムースがいるし、今更新しい友達だとかは別に────」




 僕がムースと話していた途中……扉からノックの音と、誰かの声が向こうから聞こえてきた。


「トルテ! ちょっと二人でお話がしたいと思って……今大丈夫かしら?」


 明るい感じの女の子の声、前にも聞き覚えがあった。


『──今の声って? 誰か女の子みたいだけど、トルテの……知り合い?』


 手鏡越しのムースもそれに気づいたみたいで、どきっとした顔で尋ねて来る。僕はどう答えるか少し考えてから、一言


「まぁね。ちょっとだけ、知り合いなんだ」


『そう、なんだね』


「ごめんムース、だから今日ここまでにするよ。……また連絡するから、その時には沢山話そう」

 

 いくらか複雑な気持ちだったけれど、僕は遠識の手鏡を閉じて、それから部屋の扉を開けに行く。……そこにいたのは。


「ご機嫌いかがかしら? ゆっくり休んでいた時に、ごめんなさいね」


 そこにいたのはニコニコとした笑顔を僕に向ける、ショートカットの緑髪、紫リボンの女の子。

 魔王城に来たその日に、それからこの間、食堂で見かけた事がある彼女の事を……僕は知っていた。


「気にしなくていいよ。魔王さまの娘さんにまた会えて、僕も光栄だから。────シフォンって、そう呼んだ方がいいんだよね」


「うんうん! あまりかしこまらないで、気軽に呼んでくれた方が嬉しいから」


 明るくはにかむ、シフォン。


「分かったよ。……ところで、どうしてまた僕の所に来たんだい?」


 いきなり彼女がやって来たことに驚きもしたけれど、どうして僕に会いに来たのか気になりもした。それにシフォンはこう答えた。


「言ったでしょ? トルテとお話がしたかったって。だって魔王城には今まで、身近に年が近い子がいなかったから。──だからお友達になりたいの」


「僕とシフォンが……友達!?」


「ねっ、いいわよねっ! トルテだって私と同じで、魔王城に来てからそんな相手はいないと思うし、だからお互いにとっても良い事じゃないかしら?」


 そう言ってシフォンは俺の手をとって、ぎゅっと繋ぐ。伝わる彼女の手の感覚、ムース以外の女の子と手を繋ぐなんて初めてだ。

 ましてや相手は魔界の支配者である魔王さまの一人娘。手をつないで、それに……友達、だなんて。恐れ多くて僕は何て答えようか困ってしまう。


「えっと、その」


「ん? どうしたの、そんなに深刻そうな顔で。そんなに変なお願いだったかしら?」


 悩む僕の顔を、不思議そうに見つめるシフォン。変な空気感になって尚更緊張する僕……だけれど。


「本当に……この僕で良ければ。改めて宜しく、シフォンさ…………ううん、シフォン」


 せっかくああ言ってくれている。それに友達と言うことなら、全然構わないと思ったから。僕はシフォンに右手を差し出す。彼女も、その手をとってぎゅっと握手をしてくれた。 


「宜しくね、トルテ! 私の大切なお友達!」


 それからシフォンはこんな事を話してくれた。


「それでね、早速かもしれないけれど……トルテに会いに来たのはもう一つ、頼みたいお仕事があるからなの」


「仕事って、一体?」


「ふふっ、ちょっと……ね。けれどその前に──」


 今度は彼女は両手で握って、くるりと扉から部屋の方に周り込むと、笑顔で僕に話しかける。


「せっかく友達になれたんですもの。良かったら少し二人でお話がしたいなって! だってトルテの事を私、あまり知らないから。

 ここに来る前、あなたがどうしていたのか気になるの!」


 確かに時間はまだある。少し話をするくらいなら僕も大丈夫そうだから。


「オーケー、なら色々とお話しよう。代わりにシフォンの事も僕に教えてよね」


 シフォンはもちろんと、眩しいくらいの笑顔を向けて頷いてくれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ