98話 友として
会議も終わり俺は自室へと向かっていた。
フィーの奴……本当に立派になったなぁ。最近では頭も使うようになったし……これで国も安泰だ。
タッタッタッタッタッ!
足音? ケルロスか?
俺はその姿を確認するため足音のする方向に目を向けた……。
「蛇さん!」
元気よく叫んで飛びつく女の子……。
「シャル!」
俺は飛び込んでくる女の子を受け止める。
「姿が変わっても分かるよ……蛇さん。ううんノーチェ・ミルキーウェイ」
俺の胸に顔を埋めて涙を流すシャル。
「思い出してくれて嬉しいよ……本当に……本当に」
安心と嬉しさが入り交じりって涙が少しだけこぼれる。
「あぁ……よく頑張ったねシャル」
胸の中で小刻みに震えるシャルを強く抱きしめ頭を撫でる。
「うん……うん!」
「感動の再開中にすみませ〜ん……一応奴隷紋は解除しました……でも解除の連絡は恐らく主人の方にも伝わっていると思います……この奴隷紋は相当強力で無理やり剥がせなかったので苦労しましたよ」
やれやれと言った様子で説明をする兎人。
「世話になった。そういえば名前を聞いてなかったな」
「そうですねぇ〜私の名前はリーです。これから色々お世話になるんでよろしくお願いしますわ〜」
軽いノリだが……奴隷紋をあの時間で解除するあたり実力はあるんだろう。
「あぁ……これからよろしく頼むよ」
「ノーチェ……」
「あっはいはい……よしよし」
「お邪魔みたいですからまた今度ゆっくりお話しましょうか」
空気を読んでくれたのか……今度しっかりと礼をしないとな。
「バール、ケルロスとクイックに報告を」
「了解致しました」
ずっと廊下で抱きしめてる訳にもいかないしな……。
「とりあえずお部屋行こうか」
「うん!」
「ほら、これあげる」
「? うん! ありがとう」
奴隷紋が解除された影響か精神年齢が若干下がっている気がする。
「美味しい! これなに?」
「それはココアだよ……ほらお菓子もあるから食べなさい」
「うん!」
……歳が下がってるからなんだ、こんなボロボロな手で頑張ってきたんだから。
「「シャル!」」
めちゃくちゃ息切れしてる……2人とも心配だったんだな。
「ケルちゃんにモグラさん」
「あぁ……」
「俺はモグラなのね……」
肩を落とすクイックをケルロスが励ます。
「あっクイックちゃんだったね」
「ちゃん付け……」
「仕方ないよクイック……シャルのことだから多めに見てあげてよ」
「わかってるよ」
でだ……。
「ケルロスはいつまでシャルを撫で回してんだ!」
「あっいや……つい」
返事をしてからケルロスの奴はシャルの頭を延々とわっしゃわしゃしまくっている。
「ケルちゃん大きくなった!」
「そうだぞ〜あの頃とは比べ物にならないくらい大きくなったぞ」
なにあの空間……沢山花が舞ってるよ。
「ほらケルちゃんシャルが困り始めてるから」
「すまん」
少し悲しそうな様子を見せてケルちゃんがシャルから離れる。
「今日のご飯は力入れないとな」
「じゃあ俺も手伝うよ」
「「いやそれはいい」」
「なんで!?」
2人とも息ぴったりで止めるやん!
「ノーチェ……ご飯作れないの?」
「そんなこと」
俺がそこまで言おうとするとケルロスが俺の口を塞いでクイックが話し始めた。
「ノーチェはちょーっと料理が苦手なんだ……だからそれ以上はシーだよ」
シャルは何かを察したのか口を塞いで頷いた。
「むぅ! むううぅ!! (なんだお前ら! 揃いも揃って失礼だな!)」
「ノーチェ……シャルを殺す気?」
「むぐ!? むぐ!! むぅぅぅ!(え!? 何もそこまで言う!?」 )」
「じゃあご飯は俺が作ってくるから」
クイックはシャルから離れて台所へと向かっていった。
「ぷはぁ! 酷くね!? 何! そんな風に思ってたの!?」
「いや……まぁ今度練習しよ」
顔が引き攣ってるぞケルロス……シャルもそんな苦笑いしないで……心が痛い。
「そうだ……シャルに聞きたいことがあるんだ」
真面目な空気になったのが理解出来たのかシャルは少し服を整えで椅子に座る。
「……ゴーンはどうしてる」
「じぃじとは一緒に聖王国へ行ったんだ……でも途中で離れ離れにされちゃってね、じぃじと会いたかったら奴隷紋を付けろって言われて……」
……ゴーンは聖王国に居るのか、だがただ監禁されてるって言うならクイックの部隊が見つけててもおかしくないはずだ……。
俺は天井部分に目を向け合図する。
物音こそ聞こえなかったがバールが俺の合図に気付いて動いたのは確認した。
「ノーチェ……ケルちゃん……じぃじに会いたいよ」
育て親だもんな……全力で探すが今聖王国に向かうのはリスクが高い。今は雲龍部隊に任せるしか。
「大丈夫……ゴーンは絶対に見つけ出す。今は疲れた体をゆっくりと休めた方がいいよ」
「……わかった」
少しの不安はあるようだけど納得してくれたらしい。
その後も細かい質問や覚えていることを聞いたが気になる情報はあまり無かった……強いて言うならシャルですらゴーンと会う前の記憶が無いとのことだ。実年齢もわからないし……けど前会った姿からだいぶ大きくなってるしこれが本来の姿なんだろうな。
……。
俺はシャルの胸を見て自分の胸を確認した。
いや……俺の方が若干……いやでも……うーん。
「おーい! ご飯できたよ〜!」
「ん……ゆっくり話してしまった……。2人とも行こうか」
「そうだな」
「はい」
いや自然に手を繋ぐね2人とも……ゴーンの所に居た時から距離感は近かったけどケルロスは犬だったからなぁ……こう人の姿になるとお似合いというかなんというか……。
……。
「ノーチェ?」
「えっ!? あっ……いやちょっと考え事を」
なんだ今の感じ……なんかイラッとして。
……多分疲れてるんだな。
俺は心の中にモヤモヤとした感情を押し込めて2人の後を着いて行った。
「おまたせ……いつもより頑張ったから時間かかっちゃった」
確かに……クイックの張り切りようがよく分かる。もはや誕生日パーティーに出てくる料理と言っても疑わないレベルだ。
「食べ切れるかこれ?」
ケルロスも引き気味だ。
これじゃあシャルも……。
「わ〜……これモグラさ…….クイックちゃんが作ったの!?」
そんなこと無かったわ。
「? ケルちゃんもノーチェもどうしたの?」
「あっ……いや美味しそうだね……冷めないうちに食べちゃおう」
シャルを入れて4人の食事を楽しんたのだが……元々結構食べるケルロスとクイックは置いといて……シャルが凄い食べる……2人よりも多く食べてないかなこれ。
「ごちそーさま!」
手を合わせて元気に叫ぶシャル……前と比べればとっても良い状態だ。
「片付けはこっちでしちゃうからノーチェはシャルとお風呂入っといてよ」
「ん? ……あ〜わかった」
シャルはお風呂の使い方わかんないもんね……じゃあ仕方ない……か?
「いや待って! ちょ! なんで俺!?」
「え? だって俺達は片付けあるし何より男だから……シャルも結構成長した女の子って見た目だしさ」
すげぇ……グゥの音も出ない。
「じゃ、じゃあ! フィーとかエリーナとか呼んでさ!」
「フィーはプリオル連隊の指揮してるよ、エリーナだって今は家でゆっくりしてるでしょ?」
えーと……あー……どこかに良い手はないのか……。
「あっ! テグ! テグはどこ!?」
「テグ? テグなら今日は孤児院の管理だけど」
テグぅぅぅぅぅ!
「いいから早く入ってきなよ」
「う……うぅ」
「ノーチェはお風呂入らないの?」
いや違います……入るんですけど。
「ほら2人とも行くぞ〜」
痺れを切らしたのかケルロスが俺とシャルを両脇に抱えて風呂場まで移動する。
「離せケルロス! このままじゃお前の主人が犯罪者になっちゃうぞ!」
「何言ってるの……たまにノーチェは変なこと言うよね」
聞く耳持たず……。
「ケルちゃんすごい! 高いよこれ!」
シャルは呑気だし!
お願いします! テグさん帰ってきてください!
テグが帰ってくるはずもなく……俺は目を隠しながらシャルとお風呂に入るのであった。