93話 勇者
ヘラレスという謎の男が攻め込んで来てから2ヶ月……シャンデラ王国やゼールリアン聖王国、もしくは他の傀儡国から攻撃を仕掛けられるのではと警戒していたが……。
「クイックが作った雲龍部隊も問題なしとしか報告しないし。その他同盟国からの連絡もなしもちろん攻め込んでくる気配もなし……」
諦めたのか……それとも嵐の前の静けさ、準備をしているって可能性もある。でもクイックの部下が探りを入れてるのに気付かないってのも考えずらいし。
「悩んでても仕方ないよなぁ……まぁやることないし街を回るとするか」
立ち上がり外に出ても問題ないような服装に着替える。面倒な着替えも終わり扉を開いて外に出ようとした時だった。
目の前の空間に謎の穴が現れ中から真っ黒な鳥が現れたのだ。
「鳥? ……足になにかついてる」
俺は鳥を傷つけないように足に着いている紙を取り外した。
……緊急会議? ゼクス・ハーレスを開くので全員集まれ……これは強制である。
なんかフランクな感じは残しつつちょっとやばいよ! ……みたいな感じだな。
「まぁ強制って言われたら仕方ないよな。テグ! 少し出るからみんなによろしく」
「お供する者はどうしますか?」
「緊急みたいだから1人で行ってくるよ」
「……かしこまりました」
ちょっと不安そうだったけど納得してくれたみたいだ。
えっと……リーベさんから教わったやり方だと。
「おっ! できた」
まぁ感覚で覚えろって言われたし……これを忘れないようにしないとな。
「それではご主人様……行ってらっしゃいませ」
「うん。行ってくる」
俺は見送ってくれるテグを背に黒い空間へと足を進めた。
「早いな……お前が一番乗りだぞノーチェ」
ゼロ……いつものふざけた雰囲気はあんまり感じないな。
「まぁな……緊急ってことだから早めに来てやった」
「そうか」
ちょっと強めに出たが……いじってこないあたり深刻な問題なのか……まぁ今聞いても教えてくれないだろうし、もっと機嫌悪くなられるのもだるいしな。黙ってよう。
少しだけ赤みがかった黒い空間が口を開ける中からは不機嫌そうなセナが現れた。
「……」
セナはドカドカとわざとらしい足音を建てたがら椅子に座った。
うわぁめっちゃイライラしてる……。前はもっと無邪気で元気いっぱいだったのに。
「……」
「……」
「……」
……帰りたい。空気が重い! 誰か助けてくれ……。
「あら……今日は早いのぉセナや」
「……」
ニコニコのリーベさんとめちゃくちゃ機嫌悪そうなセナ……火に油注がないでください! リーベさん。
「遅れた」
ハクゼツ……さんかじゃあ今回来てないのはレリアとかいうダークエルフか。
「よし。話を始めようか」
「……?」
レリアが来てないが……まぁなんとなくわかった気がする。
「全員察しているだろうがレリアは今ここに来ることは出来ない」
今? てことはまだ生きてはいるのか。
「今回の会議はそのレリアが戦っている相手についてだ」
魔王と戦っている……六王か? もしくは。
「レリアが戦っている相手は勇者……人間の国で見つかったらしい」
勇者だったか……。まぁこっちから介入するつもりはないし国の防衛をあげとくか。
「勇者か……まぁレリアの奴が負けるとも思えんがな」
レリアってそんなに強いのか。
「僕が殺しに行く……いいだろ? ゼロ」
セナの雰囲気が随分と違うな……勇者に対して思うところでもあるのか?
「それで? その勇者……名前はわかっておるのかえ?」
「名前はわかっていない。見た目は14か15位の女の子らしいぞ」
女勇者か……まぁレリアって奴が負けるかどうかでこの流れも変わってくるだろう。
「今回の話は以上だ……勇者に関しては各自で対処してくれ」
「はーい」
「わかったわ」
「うむ」
「わかった」
話はこれだけか……緊急って程でもなかったと思うが。いや勇者っていうのはそのレベルなのか?
「そして解散したいところなのだが……一つだけ言っておく。レリアのいる森は深い霧が立ち込めて侵入者を迷わせるので有名だ。そんな森に勇者が単体で入れるだろうか」
空気が変わる……いつもニコニコしているリーベさんですら真面目な顔をしている……。
「誰かが裏で手を引いている……レリアの森に入る方法を知っているのは限られた者だけだ、魔王の中ではノーチェを除き全員が知っている。もし裏切り者が居るのであればその首……必ず俺が切り落とす!」
ゼロはそこまで言うと自分の椅子を剣で切りつけた。
綺麗な切り口……強いのは知っていたが剣術もなかなか。
「それではまたな」
ゼロはそのまま深く暗い闇に呑まれていった。
「じゃあ僕は勇者殺しの為に動くからバイバイ!」
元気に恐ろしいこと言うなぁ……。
「ワシも自分の国に戻るとするか」
「俺も帰る」
3人とも黒い闇の中へ消えていった。
静かになった部屋で俺は大きなため息をつく。
「シャンデラ国やゼールリアン聖王国が静かだったのはこのためか?」
どちらにせよ国の戦闘力をあげないとな。
ノーチェの苦悩は尽きることなくそのまま黒い空間へと向かっていった。
「おかえりなさいませ」
「あぁ……ただいまテグ。何か変わったことはあったかい?」
「いえ特段ありません」
ならよし……けど勇者の存在はみんなに伝えないとな。てかこんなこと言っても仕方ないけど俺勇者と敵対する側なのかぁ……なんか悲しいなぁ。
コンコン
「ん? どうぞ〜」
ガチャリ
「あれ……なんか疲れてる?」
書類を持って心配そうに俺を見るクイック……顔に出てたかな。
「ううん大丈夫。それでどうしたの?」
「人間の国で勇者が誕生したみたい……今は魔王領の一つであるガゼット大森林が攻められているみたい」
ちょっと報告が遅かったかな……けど初めての仕事にしてはよくやったと褒めるべきか……。
「ありがとうクイック」
「……? もしかして知ってた?」
「えっ!? いやそんなことないよ!」
なぜバレた!
「気を使わなくてもいいよ……これからはもっと早く情報を渡せるように気をつけるから」
しょぼんとした様子でクイックが部屋から出ていってしまった。
「あっ……」
いや……その本当に。
……ゼロの野郎! うちのクイックが落ち込んじゃったじゃないか! (ただの八つ当たりである。)
「ご主人様……これをどうぞ」
テグが1杯の……紅茶? を渡してくれた。
「紅茶なんて……どこで取れたの?」
「最近は産業に余裕が出来てこのような嗜好品も開発可能となったのです。紅茶は高級品ですから……これを売ればフィデース信栄帝国はさらに発展していきます」
「そうだね……これからももっと国は大きくなっていくさ」
俺はそう言ってテグがいれてくれた紅茶を1口飲んだ。
いい紅茶なんて飲んだことないけど……おいしい? のかなこれは。まぁ全然飲めるしきっと美味しいんだろう!
「これ美味しいね」
「……それは良かったです」
うーん……可愛い。テグの表情を増やしたガンドは天才だな。