90話 認められない
俺は昔から人と関わるのが得意ではなかった……だから小中高って友達は少なくて日陰を歩く部類の人間だった。
けどそれでも俺は良かったんだ気楽だったし。でも家族や少ない友達が俺に毎回言うんだよ……どうして自分を認めないの? どうして自分を追い込むの? って。俺はそんなにつもりないんだ……なのにみんなが俺に。
「認めない……?」
「うん……ノーチェは自分のことを全く認めてないよね」
いや……俺は認めてるよ。今まで頑張ってきたさ小さな村を国にまで発展させて……いやそれよりもあんな小さい蛇がここまで強くなって俺は凄いやつだって。
認めたくないんじゃないの? 自分って言う存在を。
声が響く……ケルロスでもクイックでもない声。でも知っている声。
自分がどれだけ頑張ったか〜とか自分がどれだけやってきたか〜なんて言う小さな事じゃなくてさ……自分っていうノーチェ・ミルキーウェイっていう……---っていう存在を認めたくないんだよ。
俺の存在自体を……。
だって……あんなことをしておいて自分はのうのうと生き延びてるとか……認めたくも無くなるよね。
あんなこと?
覚えてないの? ……君がやったんじゃないか。---を。
俺が一体……。
ははははははははは! まぁいいさ! どうせすぐに分かる……どうせすぐに理解する。なぜ君が選ばれたのか。どうして導く者なのか……全部がわかった時君はどうするのか楽しみにしているよ。
俺の意識はその言葉を最後に途切れてしまった。
ここは……どこだ。
燃える街……崩れる国……破滅する世界……。
夢? それにしては明確だ……はっきりとその場に居たような。
手がヌルヌルする……。
赤い……血? なんで……。
隣で寝ているのは女の子? ……なんだかどこかで見たような。
「魔王!」
後ろから声が聞こえる……魔王?誰のことだ。
「よくも勇者を!」
勇者……。
「世界を滅亡へと導いた罪! その首で償って貰うぞ!」
男の振った剣が俺の首をなぞる。
……ゼ…….?
「……!!!」
俺はわけも分からず布団から飛び起きる。枕には俺の汗が染み付いていて来ている服もベチャベチャだ。
「何か……怖い夢を見ていたような」
頭が少しだけ痛い……呼吸も上がってる。
夢の内容は思い出せない……いやそんなことよりもなんで俺は自分の布団の上にいるんだ。
外は……少しだけ明るい。夕日? まだ夕方か。
汗で濡れた服を脱いでエレナが(勝手に)用意してくれている服に着替える。
「なんか……ケルロスに言われてから記憶がない」
ヘラレスって言う奴を倒したのは覚えてる……その後は……えっと。
悩んでいても仕方ない。
「とりあえず何が起こったのか聞かないと」
俺は部屋から出て下の階に降りようとした……けれど会議室から光が漏れていることに気付いて物音を立てないように近付いた。
「そうね……それはそうした方が」
「隠蔽も兼ねて死体の方はこっちで」
「戦いの跡はテグ達が元に戻してくれるみたいよ」
「自動人形ってのは全く優秀だねぇ」
「私も! 私も頑張ったよ!」
「そうだなぁテレシア! 後で美味しいもの沢山食べさせてやるからな」
「わーい!」
みんな……俺が居ないのにしっかり動いてくれている。
俺は嬉しさと共に不甲斐なさを感じている……みんなが国のために動いてくれていること、俺があの場に居ない……気絶して迷惑をかけていること。
やっぱり向いてないんだろうな……俺が上に立つなんてさ。
「それで……ノーチェはどうなの?」
「……まだ寝てるよ。さっきも様子を見たけどすごく体調も悪そうだった」
俺の話題……みんなからどう思われてるとかわかるかな? ……いやけどボロクソ言われたら軽く泣く。
「俺があんなこと言ったから」
「まぁ関係ないとは言い切れないけどあれが全ての原因では無いと思うよ」
ナイスフォロークイック。ありがとう。
「ノーチェには昔から無理させてばっかりだ〜……私の時も」
「あの子は本当になんにも言わないからねぇ」
「そんなに頼りねぇかな私達は」
「主殿……なかなか……話してくれない」
「いつもは楽しく気丈に振舞っておられますが時折窓などを眺めて悲しそうに空を見ておりますな!」
「ノーチェ姉は優しくてとっても綺麗! だけどたまに辛そう」
「ノーチェは誰よりもみんなを信じてる……でもそれと同じくらいに自分のことを信じてないの」
エリーナの一言に周りが静かになる。
「ノーチェは私達のことを優秀だって……信頼できるっていつも言うわ……でもそんな時に言う言葉があるの……俺なんかよりもって」
……え? 俺そんなこと言ってたっけ。
「人にいくら認められても自分のことを認めない人はいずれ壊れてしまう」
自分を認める……。
「そんなこと言っても……」
「俺達じゃどうすることも」
俺の事でみんなを悩ませてしまっている……。
「申し訳ない、こんな俺の事なんかで……」
「多分その考え方が良くないんだと思います」
後ろからそっと声を掛かられ俺は驚き大声を出しそうになる。
咄嗟に口を塞がれ声は出なかったが。
サク!?
「少しお話しましょう」
俺はサクに連れられて居住区へと向かった。
「ケルロスさんの計らいでこの国に住むことになったんです」
俺が寝ている間にそんなことが。
「そっか……それは良かったね」
居住区の外れ……まだ家が建っていない所まで来てサクはようやく止まった。
「ノーチェさん……私は自分のことが大っ嫌いなんです」
自分のことが……。
「いつもぐだぐだと考えて……迷って悩んで……やっと決断できたと思った頃には全てが遅い、もしくは間違いばかり」
「私はそんな自分がね……本当に嫌いなんです」
「それは」
「でも! 自分の事は嫌いですけどそんな嫌いな私を好きになって欲しいって……こんな私を認めて欲しいって思える人ができたんです」
さっきまで暗かった目はキラキラと綺麗に輝く。
「私が私のことを認めていなくたって! 私のことを認めて欲しいって思える人ができたんです!」
輝く瞳はあんまりにも眩しくて……俺は目を逸らしてしまう。
「……ノーチェさんには居ないんですか? 自分のことを認められなくても……自分を信じられなくても……そんなこと関係ないと思えるくらいに認めて欲しい相手は」
認めて欲しい……相手。
「多分ですけど……それが本当にわかった時。やっと自分のことを好きになっていけるんじゃないかなって! 思い……ます」
認めて欲しい人のことがわかった時に……自分のことを?
「俺……は」
「言わなくてもいいですよ。その答えは自分の中で決めてください」
サクはそういうとニコリと微笑みその場から居なくなった。
「認めて欲しい人……」
そういえば……こんな俺でもクイックが認めてくれた時すごく嬉しかった。不甲斐ない自分でも受け止めてくれたから。
「そっかぁ……」
俺はケルロスに認めて欲しいのか……。
「でもそれはクイックの時みたいに泣き付いたりお願いするものじゃない……あいつが俺を認めてくれたって俺自身が納得した時にやっと進めるんだ」
クイックだって……あんなのじゃなくて! 自分の中で!
何度目の決意だろうか……これからも揺らいでしまうかもだけど……不安や焦燥感にかられるよりはマシだ……俺は2人に認めてもらいたい! 多分そうなんだと思う!
まだまだ分からないことはあるけれど……今は前を向こう。後悔を捨てずに未練を諦めずに全て拾って前を向こう! 私はわがままだから……全部を拾って前に進むんだ!
帰ったと思っていたサクは少し離れた場所でノーチェのことを見つめている
「……どうやら決心ついたみたいですね。これで安心して狙えます……ライバルがあんな状態で奪っても全く認められないですからね」
サクはそこまで言うと暗くなってきた空を見る。
「でも……それはそれとしてノーチェさん。私達を助けてくれてありがとうございました。貴方はとっても立派な方ですよ」
ノーチェの知らないところで色々な人がノーチェを認めている。それに気付くのはノーチェが自分を認められた時だろう。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
深淵蟒蛇Lv4
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv5、物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv7、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《???》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv3
《耐性》
痛覚無効Lv5、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv3、魔法攻撃無効Lv8
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv8、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《???》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv3
《耐性》
物理攻撃無効Lv3、精神異常耐性Lv9、魔法攻撃耐性Lv2
《スキル》
吸収Lv2、放出Lv4
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv1、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv7
《???》
喰らい尽くす者Lv6