83話 すれ違う
はぁ〜夜ご飯美味しかった。今度本当にどうやって作ってるのか教えてもらおうかな……。
食後の余韻を楽しみながら部屋へ戻っている時だった。
「ノーチェ」
ケルロスが俺に声をかけてきた。
「ん? どうした?」
軽く返したが……ケルロスの顔は真剣だ。
「ちょっと話し良いかな?」
なんか……言いづらい事なのかな? まぁこの後は特段予定ないし。
「うんいいよ」
俺はケルロスを連れて部屋に案内した。
「ごめん……時間取らせて」
「そんな気にすんなよ。俺とお前の中……だろっと」
確かここら辺に……あったあった。
「ちょっと待ってろよ〜今コーヒー入れてやるから。あれ? ケルロスは苦いのいけるか?」
「あ、あぁ。大丈夫」
「……そう」
なんだか……少し元気ない? てか申し訳なさそう? どうしたんだろうか。
コーヒーの準備をするためにしばらく無言でいたのだが……その間もケルロスが話しかけてくることはなかった。
「よし、ほらどうぞ」
俺は左手に持っていたカップをケルロスに渡した。
ケルロスは何も言わずにカップを受け取る。
「……てか立ったままでどうするんだよ。って……この部屋椅子が俺のやつしかないもんな」
少し申し訳ないことをしたな……じゃあほいっと。
「サクッと作ったやつだけどこれでいいかな?」
錬成スキルのLvも上がって結構良いやつ作れるようになったんだぜ。
「ありがとう」
俺も作って……。あと机もいるか。
「うん、これで話を聞けるな」
持っていたカップを置いてケルロスを真っ直ぐに見つめる。
「それで……話ってなんだ?」
2人っきりで話すのは割と久しぶりかな……ケルロスも忙しそうだったし。
「……ノーチェはさ本当に怒ってないの? ううん、怒ってはいるよね。だけど俺の事許していいの?」
……なんかエリーナにも同じようなこと言われたなぁ。けど本当に俺はもう……。
「俺としてはケルロスが戻って来てくれただけで嬉しいんだよ。だから何もそんなに悩むこと」
「……」
下を向いてしまった。……どうしようてかケルロスがこんなに落ち込んでるの蜘蛛の時以来だ。
「えっと……」
「わかってるんだ……俺が今思ってることはわがままでしかない居なくなった俺にこんなこと言う権利は無い」
「ケルロス……?」
「でも! ノーチェは甘すぎるよ……もっと俺を怒るべきだ……もっと俺を殴るべきだ……隣にいるって、離れないって約束したのに。それを黙って……しかも一番大変な時に!」
こんなのは俺の八つ当たりだ……けどノーチェを見ていると思ってしまう。俺の事を怒らないのはもうどうでもいいからなんじゃないかと。俺なんて居なくても……。クイックはノーチェの色々なことを知ってる。それは逃げ出した俺には分からない、いや分からなくて当然なことなんだ。でも……それでも俺はノーチェに必要とされたい。その為に強くなって戻ってきた。それなのにノーチェはなんだがあっさりとしていて俺の事なんて……もう。
最低だ……勝手にいなくなったのは俺なのに、それで帰ってきて求めて貰えないからってこんな困らせることノーチェに言って。
「……ごめん。ノー……」
ノーチェが泣いてる。
「怒ってる……よ。でも、ケルロスを見た時……そんな怒りとかそういうの全部吹き飛んでさ……ただ本当に嬉しかったんだ」
ノーチェはなるべく泣いているのがバレないように顔をフードで隠して震える声をどうにか抑えている。
「約束……したのに。居なくなって、俺がどれだけ悲しんだか」
……。
「俺は酷い奴なんだ……さっきの質問も本当はノーチェが全然怒らないから。本当は俺の事なんてもう」
バン!
「そんな訳ないだろ!」
ノーチェが机を強く叩く。コーヒーを入れていたカップが軽く浮いた。
「なんだよその言い方……じゃあいいよ! 俺が思ってたこと全部言ってやるよ!」
ノーチェは椅子から離れ俺の胸ぐらを掴む。
「居なくなった時ふざけんなって! ずっと思ったよ! そしてなんで居なくなったとも! 俺が不甲斐ないから!? 俺がずっと頼ってたから!? 俺がわがままだったから!? 今まで心配ばっかりかけてたから!? お前といる日々を思い出しては後悔と悲しさでずっとずっとずっと泣いてたよ! クイックに励まされた後だって! ケルロスが居ればって思わなかった時はなかった! ケルロスならどうしてたか……ケルロスならもっと上手くやってかなって! ミスする度に思ったよ! でも……こんなんで泣いてる俺がケルロスは嫌いだと思って頑張ったよ! なのにお前は全然帰ってこないし!いっぱい胸糞悪い奴らを倒して! 嫌な思いもいっぱいして! それでも! 全く帰ってこない! 本当に諦めようかと思った時だって! それに……ケルロスも居なくてクイックも呪いで眠ってた時……俺は死にたいって、心から死んでしまいたいって思うくらい自分を呪ったさ。大切な仲間を守れない! 大切な仲間が呆れて居なくなって! どれだけ惨めでどれだけ辛かったと思ってるんだ! それなのに俺が怒らないから自分はもういらないと思って!? ふざけんなよ!! 俺はそんな辛い思いを何日! 何週間! 何ヶ月してきたと思ってる! だから……そんな悲しいこと! ……二度と言わないでくれよ」
全てを言い切ったノーチェが肩を大きく揺らしながら呼吸を整える。
「ノーチェ……」
「怒ってるよ……そして本当に嬉しくて、悲しくて」
胸ぐらを掴んでいた手が力なく離れる。
「もう俺もこれがどんな感情なのかわかんないんだよ……けどケルロスのことをいらないなんて思ったこと1回もないし……また居なくなられたらって考えると」
ノーチェがその場で座り込む。
「怖くて……辛くて……もう本当に全部嫌になっちゃうから」
……。
「ごめん。ノーチェ……本当にごめん」
「ごめんで……許されると思うなよ……本当に俺がどれだけ、それなのにあんな酷いこと」
馬鹿か俺は……どうでもいいなんて……こんな泣いて怒って……悲しんでくれてようやく気付くなんて。
「もう絶対に言わない」
俺はノーチェのことを優しく抱きしめる。
「当たり前だ……次言ったら締め上げるからな」
その後ノーチェとしばらく話をして俺は部屋を後にした。
ガチャリ
「……仲間を泣かせるなんて最低だな」
ドアの隣でクイックが立っていた。
「そうだな」
「俺は今お前のことをボッコボコにして外に捨てたいくらい怒ってる」
「……」
「だけどそんなことして悲しむのはノーチェだ。ノーチェは俺たちが仲良くしているのがとても嬉しいらしい」
「だから……そんな酷いことはしない。けど覚えとけよ」
クイックが俺の目を睨みながら……しかし少し悲しそうに言った。
「お前のことを誰よりも思ってるのはノーチェだ。次ノーチェの前で自分なんか……とか言ってみろよあいつが許しても俺がお前をぶん殴るからな」
「……わかってるもう言わないよ。それにクイックだって俺の事心配してくれたんだろ?」
「さぁな……まぁ俺としては帰ってこない間にノーチェを落としたかったから少し都合が悪いなぁって」
やっぱり俺がいない間になにか……。
「ケルロス……俺はお前のこと大切な仲間と思っている。それは間違いない……けどノーチェの事に関しては譲るつもりは本当にない。付き合いが長いとかそういうのも関係ない。そしてこれは大切な仲間だから言う。本気で奪われたくないならそんな考え方するな! そして絶対にノーチェのことを離すな! あいつは誰よりも仲間思いで優しいやつだ」
「……そんなことわかってるさ」
誰よりもな……。
「ならいいさ……それじゃあ俺は片付けして寝るからお前も早く寝ろよ」
「わかった」
ケルロスは奥にある自分の寝室へと向かって行った。
……はぁ結局ケルロスなんだろうなぁ。俺じゃあきっと……いやそれでも諦められない。それに2人とも見捨てないって言ったのはノーチェだ……責任は取ってもらうさ。
「しかし……あれだけしてもノーチェは意識してくれてないのか……鈍感とか通り越して……。いや違うなノーチェが俺たちに思ってるのは仲間としての好き……そして俺たちが思ってる好意もそういう意味だと思ってるのか。これはストレートに言う以外方法無さそうだな」
この日クイックはノーチェを意識させるため様々な作戦を考えて睡眠時間を大量に削ることになるのだが……それはまぁ違う話である。




