81話 裸の付き合い
魔獣の謎は今この現状では解くことが出来ない。一旦保留だ。先に霊人から話を聞いた方がいいな。
ケルロスの話だとサクとか言う女の子が重要らしい……その子だけど話したいのだが……慕われている様子だったって言ってたからなぁ。けど外野がいては根本的な話もできない。しっかし攫ったらそれこそ騒ぎになりそうだし。
「そうだ!」
本当は……嫌なんだけど。
俺は今温泉でくつろいでいる……訳ではなくサクを待っていた。
さっきテグから聞いた情報ではサクという女の子は温泉が気に入っていたらしい。なら朝風呂も来るだろ……それに俺の顔や容姿は暗くて見えなかったはず。
名付けて……一般市民としてお話しよ〜作戦!
ガラガラ。
「来た……?」
俺は岩場からチラリと様子を見る。
一つ目の女の子……あれがサク? もう少し詳しい特徴を聞いておくんだった。
サクと思わしき女の子は体を軽く流して温泉へと入って来た。
女の子の体は慣れないけどこの子は割と小さめでそこまで申し訳なさを感じない。……いや俺めちゃくちゃ失礼だな。
「わっ!?」
サク? は俺と目が合って少し驚いて後ろに下がってしまった。
「あっ……すみません……まさか人がいるなんて……」
なんか……オドオドしてる。図書館で本読んでる陰キャ女子みたいな子だなぁ。いやよく知らんけどさ。
「あぁ、全然大丈夫。温泉はみんなのものだからね」
めちゃくちゃ営業スマイルだけど平気かな……。
「えっと……私やっぱり後で」
「ううんむしろ1人で少し寂しいと思ってたんだ。ほら隣にどうぞ」
今君に居なくなられると困る!
「……そういう事なら」
よーしとりあえず第1の壁突破。
「……」
「……」
なんか……遠くね? 隣いいよって言ったつもりだったんだけど遠くね?
「もう少しこっちに……」
「い、いえ! 全然……大丈夫です」
さっきから目を隠してる……見られたくないのかな。
「……この温泉はどうかな?」
「え?」
「この国の住人としてお客人の目線からどうかなと」
「あ! あぁ……はいとっても気持ちよくて温かいです」
おぉ〜! 仕草が可愛い! なんかこう言う女の子らしい女の子ってあんまり見てこなかったから新鮮だなぁ。
「それはよかった。あっそうだ……まだ君の名前を聞いていなかったね。良ければ教えてくれるかい?」
「あっ……はい。サクです。サク・ココン」
ケルロスの言っていた女の子で間違いなさそうだ。
「サク……ちゃんだねよろしく」
……暇で話しかけたおばあちゃんの気分。
「は、はい! こちらこそ……」
ここまではいいとして、ここからどうやって話を広げていくか……いきなり本題に行くと怪しまれるかもしれないし……。
「そういえば昨日の夜外で大きな音が鳴ったけど何か知ってるかな?」
「昨日……ですか、それはあの……その」
「私達が……ここに来たからで」
その言い方だと原因が君たちみたいになっちゃうけど……。
「あ〜……そうだったの……けど怪我は無さそうだし無事で良かったね」
それを聞いたサクが顔を上げて不思議そうな様子で聞いてきた。
「私達……がやったって思わないですか?」
「サクちゃんみたいな優しい子が何か酷いことをすると思えないからねぇ」
実際はあの場にいたからだけど。
「……そう……ですか」
また俯いてしまった。何か引っかかる所でもあるのかな。
「何か……ありましたか?」
「……」
しばらくの沈黙の後にサクが口を開く。
「この国はもっと……恐ろしいものだと思っていました」
「恐ろしい?」
「はい……ある人から聞いたんです。人の命を塵程度にしか思わず国を破壊して……全てを無にする酷い国があると」
なんだそりゃ! 人の命を塵程度にしか思ってないとか失礼過ぎない!? 国を破壊して全てを無にするだって言い過……き?
あ〜……いやけど深淵国無にしてきたなぁ。……でもあれはあっちからで!
って傍から見たら同じかぁ。
「でも違いました。ここの人は優しいし……ご飯も美味しい。温泉に来る途中ですれ違った人たちもみんな笑っていました」
「……」
こう、褒められると今まで頑張ってきて良かったなぁって思えるよ。
「そっかぁ〜……ありがとう」
この笑顔は営業スマイルじゃない……素の笑顔だ本当に嬉しかったし。
「それで……そんな風に言った人はどんな感じの方なの?」
……少し警戒させてしまったかな。
「……それは」
「あぁ大丈夫、ただその人もこの国に来て良さを知って欲しいなぁって」
少し厳しいか?
「ヘラレスさんと言って髪が金色で少し長いです。とっても優しい方で! 路頭に迷っていた私たちを助けてくれて……」
危ねー大丈夫だった。
そしてふむ……やはりヘラレスとか言うのが怪しいか。エリーナとイヴィルに調べさせても分からなかったしなぁ。
「そっか……ありがとう。あ〜そろそろ暑くなってきたからお……私は出るね」
「は、はい! それとあなたのお名前は……なんですか」
名前……かぁ正直言わないでおきたかったけど仕方ないよなぁ。
「俺の……私の名前はノーチェ・ミルキーウェイ。よろしくな」
「ノーチェさん……はい! よろしくお願いします!」
なんだ……はっきりとした返事もできるじゃないか。
まぁ情報は手に入れた……これでヘラレスが来ても対処出来る。あとは霊人達をどうするか……。
俺は悩みながら温泉を後にした。
家に帰ると2人がもう既に起きていて朝食の準備を始めていた。
「あれ? ノーチェ起きてる……」
クイックがフライパンを持った状態でこちらを見ている。
ふむ……イケメンのエプロン姿、なかなかに映えるな。
「いや今日はちょっとな」
「昨日は遅くまで解剖してたんだろ? 寝たのか?」
座っていたケルロスが不安そうに聞く。
「いや……寝ては無いけど」
「「……」」
あれ……2人とも黙っちゃった。
「ノーチェ……それは流石にあれだよ。今すぐ寝て」
「えっ」
「クイックの言う通りだ……寝ろ」
「いやいや……別に俺は」
俺は色々と抵抗したのだが2人の力に勝てるはずもなく布団にぶち込まれた。
「別に眠くないのに」
それにまだやることだって……あるのに。
ヘラレスの特徴は聞けた……あとは種族……とか、魔獣の改造に関して……もっ…….と。
「ぐう」
「寝た?」
「寝たな」
扉の前でノーチェの様子を確認する2人……これだけ見たら不審者である。
「全く……本当に無茶ばっかり」
「ノーチェの奴は昔からあんなんだ」
「……まぁ! ノーチェは頼るってことを覚え始めたけどね!」
クイックが少し自慢げに言う。
「なんか……腹立つ言い方だな」
「ケルロスが居ない間はずっと俺が近くに居たからな。ケルロスの知らないノーチェの一面沢山見てきたよ」
それを聞いたケルロスが立ち上がる。
「ケルロス?」
「居なかったのは俺の責任だからな……これから頼ってもらえればいい」
そう言ってケルロスは下の階へと言ってしまった。
……なんだ。少し怒ると思ったのに。
「……俺が子供みたいじゃないか」
結局俺は解剖などの疲れもあり昼過ぎ頃までぐっすり眠っていた。