79話 闇からの奇襲
霊人たちの説得には何とか成功したが……やはりこちらを警戒している。ケルロスは確かに強いが交渉には向いてないな……頭に血が上るのが割と早い。まぁ……野性的な観点からはケルロスの方が正しいんだろうけど。
「……」
「……」
きっついなぁこの沈黙……早く着かないかなぁ。てか結局ノーチェに丸投げしてる気もするけど。
「クイック……さっきのは」
「あぁ……こんなものは全然」
「……回復」
俺の傷が癒されていく。
「あっ……ありがとう」
「この位なんてことない」
不器用だけど……ケルロスも本当に仲間思いな良い奴なんだよな。
「そろそろ見えてくる頃だと思うが」
辺りは暗くなっていて国から見える光だけが頼りなんだが。
「あれだ」
ケルロスが指した方向には何個か光が点っていた。
「あ〜……疲れた」
「あと少しだろ?」
俺達は油断してたんだ……探索スキルも解除していた。だからギリギリまで気付けなかったんだ……地面からの強襲に。
バゴンッ!
「なんだ!」
「ライトニング・スラッシュ!」
さすがケルロス反応が早い。
「皆さんこちらに」
「本性を表したな!」
「やはり我らを殺すつもりで……」
あ〜……もうそんなんじゃないってば。
「こんなものは知らない! 国まであと少しだ! 走れ!」
「断る! 俺達は自分の住処に戻るんだ!」
男の子がそう叫ぶと昆虫型の獣が突っ込んでいった。
「クイック!」
「土岩壁!」
昆虫の攻撃をギリギリで止めた……けどなんだこいつ破壊力が。
ギシギシ……ピキピキ
「この壁もすぐに壊れる! 早くついて来い!」
「ケルロス! 時間稼ぎなら俺の方が向いてる! みんなを連れていけ!」
少しは真剣味が伝わったのか霊人達はケルロスに近付いていった。
ケルロスはある程度離れたな……。
「これでやりやすくなった」
「かかってこい!」
「あの方は大丈夫なんですか?」
「クイックなら問題ない!」
だが……あの威力にスピードただの獣じゃない。魔獣か?
早く国に戻って増援を。
ドンッ!
「もう1匹!?」
まずい……俺一人ならまだしもこいつらを庇いながらとなると。
「アイス・バースト!」
霊人の女……。
「これで多少は時間が稼げると思います……」
なんでこんなに自信なさげなんだろうか。
「よし! 全員急げ!」
「グゥゥゥ……ガァ!」
毒針!? 今ここでこの女に死なれるのは。
「完全反転(フルフリップ!」
これで毒の効果は大丈夫……あとはこいつを!
「うぐ…….ぐぬぬぬ」
「はぁ……うう……」
「倒れてないで早く進め! あの門まで走るんだ!」
本当に魔獣か!? 俺の力と互角レベルの攻撃って……なんなんだこいつは!
「研究部屋」
俺の受け止めていた針がバラバラになり崩れていく。
「音が聞こえて駆け付けたんだが……大丈夫そうだな」
「ノーチェ!」
奥のクイックがいると思われる辺りはエレナとイヴィルを送っておいたすぐに終わるだろう。
「それで……この方達は?」
「川の原因……だと思う」
確信はないのか……ここまで着いてきたってことは敵対する気は無さそうだな。
「わかったあとの処理は任せてこの人たちを観光地区に連れて行ってくれ。あっもう時間も遅いからそのまま泊めちゃっていいよ」
それを聞いたケルロスは一つ目のみんなを温泉旅行まで連れて行きノーチェの家へと帰って行った。
会議室
「さて……2人ともお疲れ様」
「大丈夫だ」
「問題ない」
2人共お風呂に出たばっかりで少しいい匂いがする……てかケルロスは髪を拭こうか。
……あっそうだ。
「ケルロス……犬になって」
「えっ……てか狼だし」
「いいから早く」
なんだが不思議そうな様子で狼に戻るケルロス。何をするんだろうか……そんな疑問はノーチェの行動により吹っ飛ぶことになる。
「よいしょっと」
「ノーチェ!?」
クイックがそれを見て驚きの声を上げた。
「いやぁ……大きくなったなぁケルロス濡れた毛を乾かそうと思ったけど時間が掛かりそうだ」
俺はそう言いながら椅子から降りて床に座り込んだ。
「よし! じゃあ話し合い始めようか!」
「よし! じゃないよ! 何してんの!?」
「え? いや髪乾かそうかなって」
俺が座り込んだ膝の上にケルロスが寝転んでいる。
まぁ人と犬が戯れていると言えばそうなのだがケルロスのサイズはもう……犬のそれでは無い。
「……ノーチェ、それはちょっと」
エレナが苦笑いをしている……なんかおかしいかな昔はよくやってあげたんだけど。
「大将ってたまに残酷なことするよな」
いつも俺を慕ってくれているイヴィルも少し引き気味だ。
「え? え? 何? みんなどうしたの?」
「ノーチェ……それを皆の前でやるのは少しどうなのかなぁ」
「エリーナの言う通り……ノーチェそれは後で、てかクイックにって言っても分からないわよねぇ。まぁいいわ今回はやめときなさい」
うーん……まぁそんなに言うなら。
「ケルロス……後でってケルロス!?」
ケルロスが固まって動かない。
「ちょっ!? えっ!? クイック! クイック!」
「……知らない自分でどうにかすれば?」
なんでそんなに怒ってるの!?
「あっ……えっと」
俺はケルロスの垂れた耳を掴んでそっとあげる。
「ケルロス……ここで寝られると困っちゃうなぁ〜」
ビクッとケルロスが跳ねて俺の膝から居なくなる。
「あ……あぁ悪いちょっと意識が」
「……ノーチェ、あんたって奴は本当に」
「クイック……こっちおいで頭撫でてあげる」
エリーナとエレナがさっきから酷いんだけど。
俺は救いを求めるようにエーゼルとバールに視線を向けたが2人ともすぐに逸らしてしまった。
「なんか……色々納得いかないけど話し合いを始めよう」
ケルロスの濡れた髪は風流魔法で乾かしました。
「まずケルロスとクイックあの人達について詳しく教えてくれ」
ケルロスが口を開く。
「あれらは霊人と言われる存在で不可視化や魔法能力が高い種族だ……基本的には人の少ない暗い場所でひっそりと暮らしている」
霊人……聞いた事はないな、怪鬼と似たようにレアな種族ってことかな。
「誰か霊人について他に知っていることはある?」
みんなが目を合わせたり少し話をするが目立つた反応はない……。
「なるほど……それではあの霊人を連れてきた理由は? ただの原因ってだけなら解除を頼めばいいだけだと思うのだが」
「あの霊人は魔力提供をしただけで魔法自体は違うやつが掛けたと」
魔力提供……魔法が使えても魔力が乏しいと他人の魔力を使うことがある。それのことか。
「じゃあ黒幕は別にいるのか……」
「それの事だがヘラレスと言う者が霊人に近付いて居たことがわかった」
「ヘラレス?」
エレナを見たが……知らない様子だな。
「ヘラレスはこの辺りに出来た国が悪さをしていると霊人に伝えていたらしい」
……ふむケルロスの言うことが本当なら霊人は囮、ヘラレスとか言うのが裏で動いている可能性が高い。
途中で襲って来た魔獣たち……この辺りじゃ見たこともない奴らだった。あれもヘラレスの仕業だとしたら霊人は使い捨ての駒……ってこと言っても霊人は信じないだろうしなぁ。
「霊人はしばらくここで保護……川にかけられた魔法はとりあえず解けてるから問題ない。エレナとエーゼルは部隊を動かして周辺の警戒、エリーナとイヴィルはルリアの森、コロリアン妖精圏に協力を仰いでヘラレスという存在について調べるんだ」
「「「「了解!」」」」
「バールは霊人達にバレないよう監視……テグ達にも伝えておいてくれ。ケルロスとクイックは倒した魔獣の回収と調査を行う」
「主殿の……命令とあれば……必ずや」
みんなはそれぞれの持ち場へと向かっていき会議は終了となった。
「それじゃあ俺たちは死体の確認と行こうか」
狼の状態から戻ったケルロスとクイックが俺の後ろについて歩く。
……懐かしいな、いやけど今はそんなこと言ってられない。もし本当にこの国を狙っているやつなら……容赦する訳にはいかない。




