78話 川の異変
ゼクス・ハーレスを何とか乗り越え……リーベさんの接待も程々に切り上げやっと自由を手に入れたわけなのだが。
「川の水がおかしい?」
国の防衛警備最高責任者となったエレナからの連絡ということで直接様子を見に行くことにしたのだが。
「確かに……おかしい」
水自体に変化はないが魚が大量に死んでいる……それに。
チャプン
「ノーチェ!?」
魔力を感じる……魔法? それともスキルか? 何か人為的に引き起こされている可能性が高いな。
「エレナ……今回の件は俺が何とかする。黒翼大隊は通常業務を続けてくれ」
「わかったわ。ちなみにこの川は北の山から流れているみたいよ」
エレナが去り際に教えてくれた。
川の異常は昨日の夕方からと聞いていたけど……さすがエレナ調べるのが早いな。
「て言うわけだからちょっと居なくなるんで業務宜しく」
「え……」
書類を持ったまま固まるクイック……ケルロスもよく見てみると本を読む手が止まっている。
「いや……山の方まで調べに行こうかなって」
「そうかぁ……それじゃあ俺がついて行くよ」
書類を置いてクイックが扉を開こうとする。しかしそれはケルロスによって止められた。
「いやいや……クイックはこの国でノーチェの次に偉いんだろ? 2人が居なくなったら大変だよ。俺が行ってくるから」
あぁ〜懐かしいなぁこの感じ。
「2人とも本当に仲良いね〜」
それを聞いた2人はムスッとした顔で俺を見る。
「はぁ……」
「じゃあノーチェに決めてもらおう」
クイックが俺を見ながら言う。
「いい案だな」
ケルロスもそれに乗る。
「いや……俺的には1人で」
「ダメ! ノーチェに何かあったらどうするの?」
「全くだな……ノーチェは昔から無茶ばっかりするから」
2人って俺の事どう思ってるんだろうか……もう魔王なんだけど。
「うーん……あっそれじゃあ2人で行ってきなよ!」
「「えっ……」」
固まる2人を気にせずに俺は話を続ける。
「そうだよ! いっつも俺が居て2人きりでいることなんてほとんどなかったんだから今回くらいは一緒に行ってきなよ!」
こうなったら止まらない……しかも完全なる善意で言っているので2人も断りにくいのだ。
「い……いやぁそれは」
「俺も業務あるし……」
うーん……2人とも遠慮してんのかなぁ。
「大丈夫だよ! それくらいの業務は俺がやるさ! 2人はしっかり親睦を深めてきなさい!」
いつも業務をやりたがらないノーチェが2人のためならとクイックの置いた書類を取り上げる。
その後もノーチェを納得させようと必死で頑張ったが……変なところで頑固なノーチェに通用もせず……。
「なんで俺達なんだ……」
「こっちのセリフだ」
よりによってケルロスと……。
よりによってクイックと……。
「「はぁ」」
「まぁ頼まれたものは仕方ない」
ケルロスが顔を上げる。
「そうだな……ノーチェの頼みだし」
クイックも前を見た。
そして2人は山奥に向かって進んでいった。
道中
「……ケルロス」
少し前を歩くクイックがケルロスに声を掛けた。
「なんだ?」
「俺は……本当に許してないからな」
その言葉を聞いたケルロスは少しだけ頭を下げる。
「あの……いつも元気で明るいノーチェがお前が居なくなってどれだけ悲しんだと思ってる」
「……」
無言を貫くケルロス。
「あの仲間思いで優しいノーチェが俺に何を言いかけたと思う」
「どれだけ辛くてもどれだけ傷付いても泣かなかったノーチェが……」
しばらくの沈黙……何も言い返せないケルロス。それもそうだ帰ってきたとはいえ……何も言わずに居なくなったのは事実なのだがら。
「それでも……それでもだ! 俺はお前を仲間だと……俺達はお前を仲間だと思ってる」
クイックがケルロスを見て言う。
「だからもう……何があっても黙って居なくなるな。悩みがあるなら俺に言え! ノーチェを悲しませるな!」
クイックがケルロスに手を差し出す。
「わかったか?」
「……あぁもう居なくならないよ」
ケルロスはクイックの手を強く握りしめて約束した。
「それはそうと……俺がいない間に随分と仲良くなってるけど……なんかあったのか?」
クイックがビクリと体を震わす。
「おいちょっと待て……お前何した」
ケルロスの声が変わる。
「ほら早く原因突き止めに行くぞ!」
「誤魔化せると思うな! ノーチェに何したんだお前!」
クイックはケルロスの質問に答えずに全力疾走で逃げていったのだった。
「はぁ……はぁ」
疲れきって死にかけの2人……。
「おま……地面操作まで使うのはなしだろ……」
「ケルロスだって……はぁはぁ……斬撃飛ばしてきたじゃん」
2人は土の着いた部分を払い立ち上がる。
「とにかく……何かあったのはわかった。けどノーチェの反応的にそこまで進んでないんだろ」
「……そうだよ。ったくもう少しだったかもしれないのに」ボソッ
「なんか言ったか?」
「なんでもねぇよ」
態度こそ悪く……口もよくはないが……2人は少し笑っていた。
「ここが源頭か」
「見た感じ問題は無さそうだが」
水を触った感じ違和感もない……ということは途中で何かが起きてるのか……山の中にある川は見たからその外か。
「クイック……ここじゃなさそうだ一旦山を降りよう」
「確かに……違和感はないな」
そしてふたりは山を降りて川を確認したのだが……。
「ダメだ……原因が全くわからない」
「何かされた痕跡もない……領地内であの川だけに魔法を掛けたのか?」
「いやノーチェが外の川からも魔力反応があるって言ってたし……」
ノーチェが間違えた? ……いや魔法に関してはノーチェがこの中で1番詳しい……あ〜冗談抜きで本当にノーチェを連れてくるべきだった。
「ちょっとやってみるか」
「クイック?」
何をする気だ?
「俺のスキル吸収は魔法やスキルを吸い取ることができる。そして放出は攻撃を加えた相手を選択して返すことも可能だ……この川にかけられた魔法を術者に返してみる」
理論的には分かるが……攻撃されてる訳でもないのにできるのか? 吸収スキルが万能なのは知っているが……得体の知れないものを飲み込むなんて……。
「安心しろケルロス。俺はこんなんじゃなんともならない」
「吸収」
水の中に入れていた手が魔法を吸い取っている……こんな風になるのか。
「よし……そしてこれを放出!」
クイックの放った魔法は圧倒的な速度で山に向かっていく。
「ちょっ! はや!」
「俺が行く!」
ケルロスが人化を解いて魔法を追う。
早い……けどこの姿なら。
そんなことより気になるのは山の方向に向かっていること……俺たちが既に確認した場所だぞ。
そんなことを考えていると、上を通っていた魔法が急に下がりだして何かにぶつかった。
「きゃう!」
なんだ……確実に何かが当たったぞ。
ケルロスは周囲を確認するが……周りには何も無い。
嗅覚強化……。
「そこ!」
「わっぱっぱぱぱ!」
「私の不可視化を見破るなんて……」
なんだ……見た事のない種族だ。目がひとつ……それになんだか……寒い。
「何者だ……」
「ひぇぇぇ……そんなに睨まないでくださぁい」
一つ目の女は頭を抑えながら縮こまってしまった。
「……はぁお前はここで何をしてた?」
「わ、私は……この奥の山に住んでる霊人ですぅ」
霊人……どこかで聞いたことがある。確か不可視化という珍しいスキルを持っていて魔法の扱いに長けた種族。目がひとつしかないのが特徴で薄暗いとこを好んで住み着くと。
「なるほど……それでお前がここの水に何かしたのか?」
「えっ……私? 私は何も」
「さっきお前にぶつかったのはお前が使った魔法だ……何も無い訳ではないと思うが」
とはいえ……嘘をついているようにも見えない、1度ノーチェに会わせるのがいいかもな。
「た、確かに……あの魔法は私のです。けど! ……あれは」
「あれは?」
「あれは……私の魔力って言うだけで使ったのは私ではないです」
……どういうことだ? 魔力の譲渡……いやもっと別となにかか。不可視化の種族を使えばバレないといった考え方もできる。ということは……捨て駒にされている? いや待て……物事を直ぐに判断するのは良くないってノーチェも言っていた。ここは慎重に。
「わかった……たがお前の力で俺たちが迷惑しているのは事実。1度話がしたいから来てくれないか?」
優しく入ってみたけど……警戒されてるな。
「あ……あぁ、えっとぉ」
「やめろぉー!」
奥から小さな子供が出てきた。
この子も一つ目……同じ種族が。
「サク姉をいじめるな!」
「ダメでしょ……奥で隠れてないと」
しかしその子供を皮切りに後ろから一つ目達が沢山出てきた。
「サク様は我らのためにやったのです……殺すならこの老いぼれを殺しなされ!」
「ダメだ! サク姉もみんなも俺が守る!」
あ〜……どうしよう。話が通じない……俺だけなら全員殺しちゃうんだけど、今回はノーチェの面子もあるからなぁ。
「おー……ケルロス大丈夫か?」
クイックが木の上から降りてきた。
「いや……ちょっとどうしようかなって」
「敵の増援だ! いいぜ! 俺が相手だ!」
「これ! シュンは下がっておれ!」
なるほど……ケルロスに警戒してるのか。国まで連れて行こうとしたけど変な勘違いしてるなぁ。
「俺達はフィデース信栄帝国から来たクイック・ミルキーウェイとケルロス・ミルキーウェイと申します。今回は川の水におかしな魔力が入っていましてその原因を探ってくるように頼まれてここまで来ました」
ケルロスのキョトンとした顔……なかなかにいいものだな。
「こちらから皆様に危害を加えるつもりはございません。1度お話だけでもよろしいでしょうか?」
とまぁ……ここまで言えば大抵の奴は引いてくれるんだけど。妙に警戒心が高い……エーゼル達と似たような訳ありか? それとも別の何か。
「お前達この辺りで国を作った奴らだな!」
一つ目の男の子がクイックを指差しながら叫んだ。
「俺達の家族を返せ! 母ちゃんを返せ!」
……エーゼル達とは少し違うようだ。国名出したのはまずかったかなぁ……あ〜どうしよう。こんな時ノーチェならどうするかなぁ。
「ハックション!」
「ご主人様……お風邪ですか?」
「あ〜……最近頑張ってたしなぁ」
「本日はこの辺りにして温泉にでも入ってはいかがでしょう」
「ナイスアイディア! よしお風呂だお風呂!」
「一つ目の種族と会うのはこれが初めてだ……俺達は何も」
「信用出来ん……我らをお救いくださったヘラレス様は最近出来た国というのが悪さをしておると教えてくださった」
ヘラレス……俺達の国とは限らないが念の為警戒の必要ありかな。
「そうだ! お前たちの言うことなんて聞くか!」
「安心して欲しい……俺達は何か」
「うるさい! 黙れ!」
一つ目の男の子がクイックに石をぶつける。
「クイック!?」
クイックの頭からは血が流れていた。
「お前ら!」
「大丈夫……」
「俺達は何もしない。ただ話がしたいだけだ」
「……」
「まぁ近くにできた国というのが貴方達の国とは限りませんからなぁ」
老人の一つ目が男の子の手を握る。
「全員……着いてくるでいいのか?」
クイックがそう聞くと霊人達はコクリと頷いた。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
深淵蟒蛇Lv1
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv5物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv7、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水斬魔法Lv8、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《???》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv1
《耐性》
痛覚無効Lv5、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv2、魔法攻撃無効Lv8
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv8、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv7
《???》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv1
《耐性》
物理攻撃無効Lv1、精神異常耐性Lv9、魔法攻撃耐性Lv1
《スキル》
吸収Lv2、放出Lv2
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv1、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv7
《???》
喰らい尽くす者Lv4