76話 自由な客人
どんちゃん騒ぎから3日後熱を帯びていた国は段々と落ち着きを取り戻し……いつものフィデース帝国に戻りつつあった。国の復興作業に関してもクロンが集めていた財宝などを活用して着々と進んでいる。
てか余りそうだしなんか新しい観光施設でも作るかぁみたいな話になってる。そんな温かな風が吹く中……俺は部屋の中で冷たい風を感じていた。
「あ……えっとゼクス・ハーレスはもう少し先のはずじゃあ」
俺の目の前には見知らぬ女性が座っている。この方は六魔王の1人愛す者リーベ・エタンセル……さん。
「そんなに固くならなくても良い……同じ獣人……同じ性別同士仲良くせんか」
「あ……あはははは」
和服美人……いやお狐様みたいな。とにかくすんごいオーラを感じる。
「いやはや……魔王はむさっ苦しいのばっかりでのぉ。可愛いおなごは大歓迎じゃ」
すみません! 元男です!
「しかしこの髪……この肌サラサラにスベスベで羨ましいのぉ」
いつの間にか触られてる〜! あれ! なんで! 目の前に居るよね!?
「お〜お〜……面白い反応をする顔に全部出ておるぞ。あれはワシの分身じゃ……そんなことよりもこの髪と肌はどうしておる」
顔に出やすいって前も言われたけど……そんなにかなぁ。
「こ、これは多分お風呂の影響かと」
そんなに触られると恥ずかしいんですけど。
「お風呂……とな。それだけでここまで変わるものなのか……。それではそのお風呂とやらに行ってみるかのぉ」
「えっ……会議は?」
「安心せい……ワシが連れてくると行った以上多少遅れても大丈夫じゃ」
いいのか魔王……いいのか会議。
「とにかくはよ案内せい」
「あっ……はい」
まぁ機嫌は悪くなさそうだし……このまま温泉連れてくかぁ。
あっけど魔王連れて旅館の方行くのもなぁ……周りに人とか居ると失礼になるかもだし。まぁ俺の家にあるやつでいっか。
「こちらがお風呂というものになります。まぁ正式には温泉ですが」
ケルロスとクイックが準備でいないから2人きり……この人このまま放置しとく訳にも行かないし。
「なるほどのぉ……面白いのぉ」
「そ、それでは俺はこれで」
リーベさんが俺の腕を掴む。
「おやおや……魔王を1人置いてそのままお暇とはいい度胸じゃのぉ。それに女性を1人にするのは感心せんぞ」
感心せんぞ♪じゃねぇよ! ……裸のお付き合い(魔王と)とか怖すぎてできんわ!
「信用されておらんのぉ……疑り深いのは結構じゃか……ワシとて裸になるんじゃ後ろから刺される可能性もある……あぁ怖いのぉこれではついうっかりこの国を滅ぼしかねんのぉ」
すみません怖い人の言うセリフじゃないんですけど。
とはいえ引き下がってもくれなさそうか、仕方ない。
「……分かりました。俺も入りますから……けど目隠しはさせてください」
「いやなんでじゃ」
目隠しを外されてしまった。
「ほぉ〜これはなかなか心地が良いのぉ」
まぁ……上機嫌だしいっか。
「それでお主……なんでそんなに離れておるのじゃ」
「あっいえちょっと」
正直エレナ達と温泉には(強制的に)何度か入ったことはあるものの……裸は慣れない。それに相手は魔王、なんかヤバそう!
「寂しいのぉ……あんまりにも寂しくて、国をえいっ! ってしちゃいそうじゃのぉ」
またか……。
「そんなに国を滅ぼすとか言われるとさすがに俺も」
「つっかまえた〜」
「わっぷ!?」
なんだ!? これは! 目の前にモッフモフの何かが出てきたと思った瞬間柔らかいものが顔に。
「ほらほらもっとリラックスせい……ふむそれにしてもお主着痩せするタイプか? 全くないと思っていたが少しはあるではないか」
胸!? 胸揉まれてる! 自分でも触ったことないのに!
「お〜……よく見てみれば本当に美しい肌の色……しっぽもツヤツヤして綺麗じゃのぉ」
褒めてくれるのは嬉しいけどそんなに触られると……。
「お主……周りの男が放っておかんじゃろ……そういえば部屋から男のような匂いもしておったか」
匂い!? 大体部屋って言っても応接室とお風呂に来るために通ったリビングくらいしか行ってないぞ!
「2人の男と同棲とは……お主も隅に置けんのぉ〜」
「ちが! 2人はそういう関係じゃありませんから!」
焦ってつい敬語が……。けど本当にそういう関係じゃないし! てかずっと体撫で回してくるのやめて貰えません!?
「そうか……それは2人とも大変じゃのぉ」
「どういう……むぐぐぐ……!」
しっぽ! しっぽ! 口に覆われて喋れない。
「……まぁここまで純粋では手も出しずらいか」
さっきから何の話だ! もういい! ここまで好き勝手やられてちゃカッコが付かない!
「あんた!」
「ほれ! 解放じゃ」
俺を掴んでいたしっぽが一斉に離される。
「わっ!」
ザパン!
「いやはや……楽しかったぞ。それではそろそろ出るとしようか」
色々勝手にやられて勝手に納得してたし……魔王ってのはこんなに自由奔放なものなのか?
「なぁ〜この機械はなんじゃ〜?」
多分ドライヤーのことだろうな。説明するか。
その後ドライヤーの説明をするとリーベさんが使って欲しいと言い出すので髪を乾かしてあげることにした。
魔王の髪を乾かすなんて……多分俺今とんでもないことしてるんだろうなぁ。
とか思いました。
「はぁ〜あれは良いものじゃのぉ。時折来る故よろしく頼む」
えっ……。てか来るなら俺の方じゃなくて旅館に行って欲しいのだが。
「そ、そういうことでしたら……またご案内するので事前に連絡を」
「……ふむ、まぁその位はよかろう。また頼むぞ」
よし! これでネグに魔王を押し付けられる!
ちょっと申し訳ないけど……今度アイス奢るから許して。
「そろそろいい時間じゃ、それにあまり待たせるとゼロのやつがうるさいからのぉ」
「あっ」
「わかっておる……それにお前が待っている2人ならもうすぐ来るぞ」
「ごめん遅くなった!」
「時間的にはまだ……」
魔王を見て固まる2人……。
あっ説明してなかったわ……部屋に見知らぬ女の人いたら驚くよな。
「この方は」
俺がそこまで言うとリーベが2人の肩を掴んだ。
「2人とも……大変じゃの、主がここまで鈍いとなかなか辛い時もあるじゃろ」
攻撃しようとしてる訳じゃなさそうだけど……なんかバカにされてるみたいで腹立つ。
てか2人とも何その顔……この人わかってるみたいな!
「……結局大きいのがいいのかよ」
あれ!? 今俺は何を! なんて言った!? ちょっと待って! えっ……え!? いやいやいや別に大きいか小さいかなんてどうでもいいし! 大体2人とも大きい方が好きに決まって! 違う! そうじゃなくてなんで俺はこんなことを……。
「なんだよその顔! こっち見て嬉しそうな顔すんな! てかリーベさんもなんでそんなにニコニコなの!? 俺なんかした!?」
「いや……ちょっと若いっていいなと思うての」
何言ってんのこの狐!今からトンデモ会議に参加するってのに。
「全く! ほら早く行くよ!」
「ワシはこっちのリアクションの方が好きじゃのぉ……まぁとりあえずはリーベと呼び捨てする所から初めて行くか」
後ろで魔王がブツブツと何か言っているが聞こえないふりをしよう。
「それでは……ちこうよれ、ゼクス・ハーレスは魔王に選ばれた者しか転移できん故な」
だから直接来たのか。まぁ変な使者送られるよりは強いし手も出せないから最適解なのかも。
「ゼクス・ハーレス……開催じゃ」
リーベさんがそういうと俺たち3人は紫の光に包まれ、消えていった。