70話 悲しみと絶望の中で
少しショッキングな内容かもしれません。
m(*_ _)m
謎の焦りの中圧倒的な速さで移動する……まだかまだかと焦る気持ちを一生懸命に抑えて自分の国に向かう。
走る中で何が起きている……何故連絡が届かないと様々な思考が駆け巡る。しかしそれでも機械の故障で転移失敗も自分が間違えただけでないかと淡い希望を抱きながら走っていく。
そんなこと……有り得ないと誰よりもわかっている癖に。
「……」
俺の視界に入ったのは……そんな希望を全て打ち砕く残酷な現実だった。
立派にそびえ立っていた城壁は無惨に崩され……城壁を守っていたであろう自動人形や……エルフの死体が散乱している。
心を蝕むには十分な光景。守ると決めた者たちの死体。しかしそんな残酷すぎる現実は歩みを進める事にさらに突きつけられる。
中では死体を食い荒らす魔獣が歩き回っている。恐らくまだ侵攻は終わっていない。言うなれば死体漁り中だ。
「……氷結」
俺は死体を食い荒らす化け物を全て凍らせ居住区にある病院へと向かっていった。
どうやら居住区の方はある程度無事だったようだ。とはいえ無惨に崩された家や死体が沢山転がっている。
「ノーチェ!」
そんな辛い現実を見ているとエレナが声をかけてきた。
「エレナか……何があった?」
「……六魔王の1人、クロン・ラントエールが攻めてきたの。導く者が何とかって言うといきなり攻撃を初めて」
……そうか、ルルの話が正しいなら俺はあくまで魔王候補。現魔王である導く者からすれば邪魔な存在でしかない。
「わかった……。被害は……どうだ」
「……産業地区と観光地区はほとんど壊滅状態、商業地区は自動人形が多くいたから多少機能しているわ。居住区に関してはこの通り」
さらに遺体が集められている場所があるとの事だったのでそちらに向かうことにした。
死体収取所では国に住む人達が涙を流しながら悲しんでいた。
そして俺は気づく……その中にエリーナがいることを。
「エリーナ?」
「……ノーチェ、ノーチェ……私……私!」
エリーナが俺に泣きつく。そしてエリーナによって隠れていた死体が姿を現した。
「ガロ……リア」
いつも冷静で仲間想いの優しい男がそこで眠っていた。
さらに奥に目を向けると……。
「お姉ちゃん! あぁ……ぁぁぁぁ!」
「テレシア……すまなかった……守れなくて」
「テレジアも……か」
なんだか体の力が抜けていくような感覚。何が起こっているのか理解しているはずなのに頭がそれを受け付けてくれない。
「……とりあえず軍の再編成を行う。俺の会議室に全員集まるように指示を出しておいてくれ」
「……」
エレナは聞こえていなかったのか返事をしてくれない。
「エレナ?」
「……」
下を向いたままエレナは何も答えない。いやよく見てみると足元に水が落ちたような跡がある。
「なんで……泣いて」
俺はその時最悪のことに気付いてしまう。
「……クイックはどこだ?」
それを聞いたエレナはビクリと体を震わせて静かに俺を見つめる。
「クイックは……今」
「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」
俺は今自宅に向かって走っている。本来であれば転移を使えばいいのだがそんなこと忘れるくらいに焦っている。
バタン!
俺はクイックが居ると言われた場所……俺の部屋に勢いよく入った。
中ではテグとネグがベッド見て立っておりフィーが横で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いている。
そしてベッドの上には静かに寝ているクイックがいた。
「クイックに何が起きた!?」
俺はテグの肩を揺らして話を聞く。
「クイック様は……敵の攻撃をお受けてしこのような」
「そんなことはいい! なんでこうなってる!? 何を食らった!?」
「……呪いです。この呪いはゆっくりと体を蝕んで行きます。……本来であれば一日と持ちませんが膨大な魔力をお持ちのクイック様ですから。しかしこのままでは後1週間と持たずに」
「治す方法は!? 何か! 何かあるだろ!」
テグの肩を揺らしながら俺は聞く。テグは俺の手を離さずに下を向いたまま答えた。
「……治す方法はこれを施した魔王のクロン・ラントエールが術を解除するか……殺す以外」
「私が……悪いんだ。魔王と名乗る奴に向かっていって……クイックは私のことを!」
そうか……フィーを庇って。
「……大丈夫、気にするな」
俺は暴走しそうなっている本能を一生懸命に押さえ込んでフィーに言葉をかける。
「はぁ……追いついた、ノーチェ! とりあえずエーゼルやエリーナ、他の部隊にも」
……。
なんで……だろうか。俺はただ、この国を守りたかっただけなんだ。どうして……クイックがこんな目に会わないといけないんだろうか。
「ちょっ……ちょっと! ノーチェ! どこに行くの!?」
俺はエレナの静止を聞かずに外へ出ようとする。いや聞かずではない、聞こえないのだ。今の俺はただ復讐に身を燃やすただの獣。そんな獣に声は届かない。
ケルロスが居ない。クイックも居ない……。
こんな……こんな世界があっていい訳がないんだ。この原因を作ったのは……魔王! いいさ……何が六王だ、何が六魔王だ! 俺が全部ぶっ壊してやる!
「待って! 止まって! 今ここで貴方が居なくなったら! この国はどうするのよ!」
いらないんだ!こんな!こんな!
ドガンッ!
「はぁ……はぁ」
ドアを破壊し俺の目の前にフィーが立ち塞がる。その目には涙をいっぱいに貯めて足は震えている。
「フィー……そこを退け、俺は今すぐにクロンとか言うのを殺さないと気が狂いそうだ!」
「ダメだ! ……群れの主がピンチの群れを抜けるとその仲間達は困り果ていずれ分裂する! 今はそのピンチなんだ! ノーチェがいなくなったら……この国は!」
ピンチ? そんな事わかってる。だから魔王を殺さないといけないんだ。
「私は! ……私はクイックのことが大嫌いだった! いつもノーチェの隣に居るし! 私のことは子供扱いする! けど……私のことを助けてくれた! そして……そんなクイックは今いない! クイックが居なくて! ……居なくて悲しいのは! ……ノーチェだけじゃない!」
そこまで言うとフィーは泣き出してしまった。いつも元気いっぱいで明るいフィーが。
「なんでいつも1人で解決しようとするんだよ! 嫌なことがあったのになんで何も言わずに居なくなるんだよ!」
クイックが俺に言ってくれた言葉が頭の中で響く。
……クイック。俺はまだまだ未熟だよ。君に教えて貰ったことすら……出来て……ないんだから。
「エレナ……全員を会議室に集めるんだ。俺も直ぐに向かう……。後……少しだけこの部屋で1人に……」
エレナは泣いているフィーと立ち尽くすテグを連れて部屋を出ていった。
俺の声は震えていただろうか……頑張って隠せていただろうか。けどもうそんなこと。
「あ、あぁ、クイック……どうして……なんでだよ……俺を1人にしないでよ、また笑ってくれよ……いつもみたいに……俺を助けてくれよ!」
クイックが眠る布団に顔を埋めながらただひたすらに泣いた。いくら泣いてもクイックは答えてくれないし……抱きしめてもくれない。けどそれでも涙が止まらなくて。俺はとっても弱くて……本当に馬鹿で……あぁ……なんでこんなに……涙が……どうして。
ガチャリ
クイックのそばで泣いてから20分位経ったろうか、まだ涙は出るけど泣いてられない。クイックを助けなければならない。そして国を守らなくてはならない。きっとクイックならこんな時「いつまでも泣いてないで早く国のこと考えろ! 」って怒るだろうし。
俺はノーチェ・ミルキーウェイ! フィデース信栄帝国の盟主! そう! 俺は盟主なんだ。いつまでも下を向いていられない!
バタン!
「遅くなった! これから国の建て直しについて話し合う!」
会議室で待っていたみんなは俺の顔を見て少し安心した様子だった。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
始祖蟒蛇Lv8
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv3、物理攻撃耐性Lv7、精神異常無効Lv7、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv7、
《スキル》
知り尽くす者、混沌監獄、研究部屋 、横溢Lv7、絶無Lv7
《魔法》
火炎魔法Lv8、水斬魔法Lv6、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、回復魔法Lv8、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv8、深淵魔法Lv10
《???》
謀る者Lv9、強欲
《資格》
導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
クイック・ミルキーウェイ
赤岩土竜Lv9
《耐性》
物理攻撃耐性Lv8、精神異常耐性Lv9
《スキル》
斬撃Lv8、体術Lv8、回避Lv8、神速Lv5、限界突破Lv1、集中Lv7、探索Lv8、隠密Lv8、追跡Lv5、空間把握Lv8、地面操作Lv8
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv1、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv7
《???》
食す者Lv5




