69話 異様な違和感
説明か……まぁ教えて貰えるのは結構な事だ。それになんで俺のことを知っているのかどうしても合成魔獣の一件を把握しているのか……こちら側としても気になることは山ほどある。
「まず……色々知ってる件だが、それは簡単私の部下に見させてた」
「……はい?」
見させてた? ずっと? いつから?
「フィデース信栄帝国ができる少し前……そうだなぁ温泉旅館が出来てしばらくあとくらいかなぁまぁそんなとこからずっと見ておった」
妖精って恐ろしい!
「いやぁ……全然気付かなかったです」
「まぁ妖精の隠密性能は世界一だからな」
……なるほど門の前で聞こえた声は妖精だったのか。
「それで……同盟の話ですが、妖精は基本同盟を結ばないで有名なはずでは」
もしアルの言っていたことが本当なら俺とだけ同盟を結ぶ理由はなんだ……。
「……あぁそうだ。基本我々妖精は仲間を作らん、それは何故か妖精とは昔から自由で楽観的で……残酷だからだ」
さっきも言っていた言葉……そこにヒントが隠されてるのか。
「妖精は何者にも囚われず悲しいことを考えず、幸せな世界を生きている。だがこれは全てにおいて言えることなんだ」
全て……?
「統治されることはなく……友や家族が死んでも悲しまず。自分のやっていることを悪い事だと認識していない」
……ということはルル・メリルが統治する前まではただの無法地帯だったのか。
「それじゃどうやって統治を」
「統治出来ないのは楽観的な思想があるからだ……その思想を壊してしまえば妖精達は私に従う」
「楽観的……」
「妖精は何も恐れない、これは嘘だ。妖精だって恐ろしいものはある。それは変化だ」
変化……いやけどそれじゃあ今統治されているのは変化にならないのか?
「私は……この変化を与えることにした。秘密裏に妖精達の家を燃やし……妖精を殺し……時には獣人や人間に襲わせた」
ルルの顔が曇る。
「そして……全てがぐちゃぐちゃになった妖精圏の王となり英雄としてこの国を建て直した」
ルルは完全に俯いてしまった。
「なるほど……」
「とまぁこんな感じて国を建て直したんだが」
さっきまでの雰囲気は何処に!?
「何せ妖精殺しすぎたんで物資が無くなったり兵力が減ってしまってな」
「それで……俺達の国と?」
……まぁそれならまだ納得がいく。けどそれなら俺達の国である必要は無いはずだが。
「まぁ……それだけ理由で新しい国と同盟を結ぼうなどとは思わないさ」
だろうな……さてここからが本題か。
「お前……何か資格を持ってるだろ」
その言葉を聞いた瞬間……汗がゆっくりと流れていった。
「資格……? なんのことですか」
「誤魔化せると思うなよ。これでも私は1万年生きてるんだ」
1万……1万年!? それじゃあ魔王が焼き尽くしたと言われている出来事も実際に見て。
「……その顔、色々と知りたそうだな。まぁしかしそれは無理だ。何せ私も3000年前のことはよく知らん」
そうか……それは残念。
「ただ……ひとつ言えることがあるなら3000年より前に六王や六魔王なんてものは存在しなかった。あったのは12柱と呼ばれる世界を支えるものたち」
12柱……裏切りの6人が今の六王か六魔王ということか。
「さて少し話はズレたが……お前が資格を持っていると過程しよう」
「そうした場合お前は六魔王の1人になることができるはずだ」
六魔王……まぁ王って付いてなかった時点で少し察してたけどさ。
「で? それを俺に言ってどうするんだ……六王と六魔王は敵同士なんだろ?」
同盟の意味がますます分からなくなった。魔王になるかもしれない存在を目の前に同盟? 戦争ふっかけて殺しに行くの間違いじゃないのか?
「……そうだなぁ。正直な話をすると六王や六魔王なんてただの名称、その中での繋がりなんてどうなっているのかは私にもわからん。原初の王なんて全ての魔王と関わりがあるとか言われてるしな」
原初の王パネェ……。
「それにな……妖精は楽しいことが好きなんだ。今1番興味があるのはノーチェ・ミルキーウェイ。お前だぞ」
いつの間にか俺の耳元に飛んできたルルに少し驚いたが、俺は平常心を何とか保った。
「そう……ですか。まぁそういうことなら同盟を結びましょうか」
正直まだ何を考えているか分からないがこれ以上聞いても答えてくれなさそうだし。 何より俺の資格がバレている現状で他の六王やこのルル・メリルが攻撃をしてこないのは敵対する気はないということだろう。
「交渉成立だな 」
俺とルルは固い握手を交わした。
「あっルルでいいからよろしくねノーチェ」
「いえ、さすがにルルさんにしますよ」
ルル……さんの笑顔がとても怖い。
「ルル……わかった?」
「は……はい」
これが六王の威圧か……半端ないっす。
「大将……大丈夫だったか?」
俺は円卓のある部屋から出て待合室に戻っていた。
「あ、うんまぁ大丈夫。同盟を約束する書類も貰ってきたよ」
「公表は……いつ……ですか?」
「それは未定、タイミングを見たいらしい」
妖精圏が落ち着くのを待ってから発表したいのか……それとも何か別の思惑があるのか。
正直あの人が何を考えているのは分からなかったなぁ。
それにこの資格が魔王になれる資格なんて……いやまぁ薄々そんな気はしてたけど。
「それで? この後はどうするんだ?」
「うーん……まぁ一日早く来ちゃったし街を回ってもいいって許可も出たからな。少し観光していくのもありだろ」
それに妖精圏にも重要な書物とかがあるなら読んでみたいし。
「よーし! それじゃあ私は武器見に行ってきていいか!?」
妖精の武器は小さいんじゃないかなぁ……。
「私は……主殿と共に」
「それじゃあ……まぁ一緒に行こうか」
とりあえず今日は王城で寝かせてもらい明日の朝、妖精圏の街を観光することになった。
「あぁ〜……よく寝た」
「寝すぎじゃない? イヴィル」
時刻は9時頃俺は7時、バールはもっと早く起きていたみたいだけど姿がない。
「じゃあイヴィルも起きたし俺は図書館に行ってくるよ」
「りょーかいです」
寝起きでまだウトウトしてるイヴィルを置いて俺は図書館へと向かっていった。
「うーん……獣王国と比べると少し小さいかなぁ」
何か俺の知りたいことが載ってる本があればいいんだけど。
「魔王について……ふむ」
魔王とは魔族を代表する六人の王である。……魔族は全ての種族が行き着くことのできる存在であり……。
「魔族や魔獣っていうのは元はただの人だったり獣人なのか」
魔王にはそれぞれ役割があるとされている。
「主殿!」
本をめくろうとした瞬間にバールが大声で俺の事を呼んだ。
「ど、どうしたんだそんな大きな声を出して」
珍しいな物静かなバールがあんな大声。
「失礼しました……しかし……緊急で……お伝えしなければならないことが」
バールはここまで走ってきたのか呼吸が早い。
「うん……それじゃあ一旦外に」
「フィデース信栄帝国……で何か大きな問題が……起こっているかもしれません」
「……詳しく聞かせてくれ」
俺はバールと共に図書館を後にして歩きながら話を聞いた。
「私は……主殿から……頂いた……この無線なるもので……毎日……フィデース信栄帝国の……クイック殿に……無事であることを……報告するため……連絡をしておりました」
そんなことしてたのか……言えば俺がやったのに。
「普段であれば……1時間もせずに……連絡が来るのですが……今回は昨日の夜から……連絡が来ておりません」
「それで怪しいと?」
「それだけ……ではないです。先程……妖精圏の……家臣から……裏切り者が出て……主殿の……情報をどこかに流していた……という話がありました」
妖精圏から裏切り者!?
「わかった……とにかく国がどうなっているか確認する。俺は先に転移で帰ってるからイヴィルを連れ戻しておいてくれ。直ぐに迎えに行く」
「かしこまりました」
俺はバールの返答を聞くと同時に転移を開始していつものフィデース信栄帝国に転移をした。
……ん? ここはどこだ。
俺はフィデース帝国に転移したはずだ。
俺が転移した場所はフィデース信栄帝国の外れ10km程離れた場所だった。
「なんでだ……転移が失敗した? いや今そんなことはどうでもいい。とにかくなにか大きな問題が起きているのは間違いないはずだ」
謎の焦りと悪寒抑えつつ神速を使ってフィデース帝国に向かっていった。




