68話 ようこそ妖精国へ
コロリアン妖精圏から届いた招待状。なにかの罠や策略は考えたが立場的には相手が上……さらにこれは招かれている状況。いわば出世したばかりの新人が社長に「飯食いに行かね? 」って言われているようなものだ。そんなお誘いを断れるだろうか? もちろん断れるはずも無く。嫌々ながらもお酌をしなければならない。
こんな現実を高校生のうちに味わうことになるとは思わなかったよ。
と俺は肩を落とす……結局招待状の返事はOKと書いて送り返した。正直な話相手を待たせるのも失礼だと感じて一日で返したが……これで正解なのかは俺にもわからない。
「それで……会談は五日後と」
いやこの世界の手紙ってそんなに早く届くの? 俺書いたの昨日だよ。そんな疑問で頭を抱えているとその事に気付いたのかエレナが説明を始めた。
「この世界の手紙は重要事項であれば魔法を使った文字転移が行われるわ」
文字転移……なるほど文字だけを転移させるからか。いや納得してる場合じゃない。服はどうするべきだろう、挨拶は? てかどうやって行く?
俺は初めての正式な会談に少し天パっている。まぁそれも当然元はと言えば俺はただの高校生。社交辞令どころか目上の人の挨拶すら少し怪しいところである。
さらに連れていくのは戦闘狂のイヴィルと全然話さないバール、俺を不安にさせる要素はもう数えたくないほどに膨れ上がっている。
「はぁ……ノーチェそんなに慌ててどうするのよ、これから何人もの王と対談するかもしれないのよ」
エレナの言うことは最もで表舞台に出てきたフィデース帝国が今後様々な国と関係を持つ可能性は多くある。その際に誰が相手の王と話し合う? それは紛れもないノーチェ・ミルキーウェイなのだ。初めての大国との会談とはいえここまで狼狽えていれば周りも不安になってしまう。
「安心して服とかは私が用意するから……挨拶に関してはガロリアとかを頼りなさいな」
そして俺はエレナの言う通り服は考えるのをやめて一般的な社交辞令とはどのようなものかをガロリアに聞くことにした。まぁ結論としては六王はそれぞれ訳のわからない人なので気に入られるかどうかはその人次第ですとの事。
全く参考にならない話をありがとうと心の中で皮肉ったがそうなれば逆にチャンスでもある。俺としては作法などが分からないのでそこだけ見て判断されるのが最も恐れるところだが気に入ってもらえるの視点が違うのであればまだ可能性は見えてくる。
「まぁ……何とかなることを祈るしかない」
「大丈夫だって大将!」
不安の種には君も含まれてるんだけどね!
「準備……整いました」
結局移動手段としては馬車を選択。俺とイヴィルは全く馬のことなんて分からないがバールが扱えるとの事だったのでお言葉に甘えることにした。
国を出てから3日ほど……途中盗賊に襲われたり野生の獣が現れたりしたが全てイヴィルとバールが片付けてしまった。
正直なことを言うと俺も戦いたかったのだがバールが
「主を動かす配下は未熟者です」
みたいなこと言うから動きたくても動けず……。
まぁ……その考え方を教えたのは俺なんだけどまさか書類仕事を任せる時に適当に言った一言がこんな形で自分に帰ってくるとは思わなかった。
と少しだけ後悔した。
「一日早いけど着いちゃった」
バールの馬使いは相当いいらしく予定よりも一日だけ早くついてしまった。こんな時はどうするべきなんだろうか? 早く来ちゃいました〜って会いに行くのは無礼な気がする。ということは国の外で野宿か? まぁ今までずっと野宿だったし全然それでも構わないけど。
そんな事を考えていると耳元から声が聞こえた。
「ようこそ……フィデース信栄帝国のノーチェ・ミルキーウェイ様」
俺は驚き後ろを振り向いたがそこには誰もいなかった。
それを見た2人は警戒体制に移ったが何も起こらない。
不思議に思い1度馬車に乗って離れようとした時、門がゆっくりと開き始めた。
「門が……」
ギィィィィと鈍い音がする。もう何年も開いていないのではないだろうかよく見てみるとところどころ錆びている。
門が開くと奥から俺と同じ位の大きさをした妖精が出てきた。
「ようこそお越しくださいました。私はコロリアン妖精圏の王、ルル・メリルです」
王自らがここまで出てきたことに少し驚いたが挨拶は挨拶で返さなければなるまい。
「こちらこそお招き頂き感謝致します。フィデース信栄帝国盟主……ノーチェ・ミルキーウェイです」
それを聞いたルル・メリルはニコリと微笑んで奥に来るよう伝えた。
バールは1度馬車を置いてくるとのことで離れた。
「ここが……コロリアン妖精圏。思ってたのとは随分違うなぁ」
イヴィルが辺りを見渡しながら言った。
しかしその意見には俺も賛同していてエレナが聞いていた時よりも遥かに発展している様子だ。しかも妖精達はそれぞれ働きしっかりと意思疎通が取れている。外から来た俺達に対しても挨拶をしてくれている。
「驚かれた顔ですね」
ルル・メリルはクスッと笑っている。
「あっこれはすみません……その昔聞いていた話とは随分違っていたので」
「そうですね……昔の妖精圏は自由で楽観的で……何より残酷でした」
ルルの顔が少し怖いものへと変わった。
その後は一言も会話を交わすことはなくそのまま王城へと連れてこられた。
待合室でしばらく待っている間にバールと合流することができた。
「この国どう思う?」
「そうだな……まぁエレナさんが言っていたような国には見えないな」
「……」
コクリ
2人ともこの国の変化については驚いているようだ。
……。
しかし急激な国の変化……違和感とは違うのかもしれないが何かあるような気がしてならない。大体ルル・メリルがこの国を統治していない間……この国は誰の手によって統治されていたのか、そして何故ルル・メリルはこの国の統治を行おうと思ったのか。
そんな考えに答えが出て来る訳もなく。しばらく考え込んでいると従者と思わしき妖精が王のいる部屋へ案内すると言って俺たちを連れ出した。
大きな円卓……奥にはルル・メリルと2人の妖精が座っている。右側に女の子の妖精、左には男の子の妖精。まぁサイズ感的には子供だけど年上なんだろうなぁ。
「どうぞ、お座りください」
その後は他愛もない世間話……と言ってもルリアの森のことや合成魔獣なども知っていて少し驚かされた。ルリアの森はまだ生き残りがいる可能性も考慮してバレるのは仕方ないと思っていたが合成魔獣の件はどこから情報が漏れたのか全く検討もつかない。
「……はい皆様のお噂は随分と」
少し空気が変わった……戦闘とは違うが何やら話の分岐点らしい。
「2人とも席を外してくださる?」
そういうと隣にいた妖精達が立ち上がり奥の扉から出ていった。ルル・メリルはこちらを微笑んだままこちらを見つめる。
そういう事か……俺はルル・メリルの言いたいことを理解してイヴィルとバールに席を外すように頼んだ。
イヴィルは少し抵抗したがバールの説得によりそのまま外へと連れ出された。
「それで……2人きりになりましたが、なんのお話でしょうか。 」
この妖精……正直腹の底が見えない。何を考えているのかもわからない。本当にここで俺を殺すつもりか? それともただ世間話をしたかっただけ? いいやそんなはずは無い。確実に何か。
俺が考え込んでいるとルル・メリルはクスクスと笑いだした。
「え?」
「いやぁ……ノーチェは随分と考え込むタイプらしいなぁ」
先程までの丁寧な口調は何処へやらだいぶフランクな感じになった。
「まぁ……私がノーチェを呼んだ理由が気になってるんだろ?」
「えっ……まぁはい」
「面倒なのは嫌いだから言うけどね同盟でも結ぼうかと思って。」
同盟? ……いや理由がわからん。
「だからそんな考えるなって」
無理だろ! いきなり出てきて同盟結ぼって誰だってビビるわ。
「仕方ねぇ……色々説明してやるよ」
ルルはそう言って出されていた果実水を飲んだ。