58話 和平交渉
「さてとじゃあ道中頼むぞ」
「任せといて!」
「お任せ下さい」
俺たちは今からルリアの森の長老とやらに直接話し合いをしに行こうとしている。
まぁどうせ捕まえててもバレるのは時間の問題だし危険な国って言われても困るから……無害な国だよ! って伝えに行くだけなんだけどね。
「私はダメなのか〜?」
「フィーちゃんは私とお留守番」
「俺はいつになったらノーチェと国の外に出られるんだ……」
「うーん無理なんじゃないかしら?」
クイックが露骨に残念そうだ。
「まぁ……しっかりと国が安定してきたら一緒にどっか行こうな」
「……わかった」
ほんとにクイックって顔に出るよなぁ。
「それじゃあ行ってくる」
「ねぇノーチェ?」
馬車で移動中エリーナが声を掛けてきた。
「私とガロリアは分かるけどなんでこの子も連れて来たの?」
エリーナの目線の先には拘束されたアルが座っている。
「まぁ……アルは自分の使命を全うしただけだしこのまま帰してあげようかなって」
「それじゃあ今回私たちが行く意味が」
エリーナが不思議そうに聞く。
「大丈夫、今回は牽制さ。こんな風に分かりにくいことしないで正面から来てくださいって言う」
それ聞くとエリーナは納得したのか落ち着いた様子を見せた。
「あっこれはあんまり関係ないんだけどノーチェはいつも見たくフード被っていくの?」
「ん? そうだねまぁいつもの服はダメってエレナに言われたから違うやつにしたけど」
フードで顔が隠れるのはいいけどもう少し足の露出を少なめにできないだろうか。
「そう」
会話もひと段落着いて馬車の中が静かになった時だった。
「そろそろルリアの森に着きます。ここからは馬が通れないので歩いて向かいますので」
俺とエリーナは馬車から降りてルリアの森に入って行った。
アルが少し抵抗したけどガロリアに無理やり運んでもらった。
「ルリアの森に入ったら攻撃されるかと思ったけど静かだねぇ」
探索も使ってるけど全く気配がない。本当に国か?防御薄くね?
「この辺りの植物は肉食なの、普通の外敵は入ってすぐに食べられちゃうわ」
ふーん……ってあれ? じゃあなんで俺たちは平気なの?
「ふふ、私達が平気な理由が気になるのね」
あっ……顔に出てたかな?
「理由はこれ」
エリーナはそう言って胸元から緑色の美しい石を出した。
「普段は付けてないんだけどね、ここでは必要だから」
話によると肉食植物はこの石が放つ特殊な電磁波が嫌いらしく攻撃してこないんだと。
「あっそろそろ見えるわよ」
と呑気に歩いていたら……。
「待て! お前達何者だ!」
そりゃ都市部も近けりゃ流石に居るよねぇ。
「ダークエルフ!? 忌み嫌われるお前たちが何故こんな都市部に?」
アルを見つけたら色々面倒くさそうだし隠密かけとこ。あっ……ついでを拘束魔法で。
うーんギャグボールだなぁ……まぁいいかごめんね。
「私達はフィデース信栄帝国の者です! 貴方達が送り込んだアルという少年について話があります!」
「貴様ら! 我々に報復しに来たな!」
あ〜……戦闘態勢ですねぇこれは。
俺たちはいつの間にか500は居るであろうエルフたちに囲まれてしまった。
「お前たちは完全に包囲されている! 大人しく我々に着いてきて貰おう!」
「ノーチェ殿……ここは俺達が」
「いやいいよ、とりあえず着いてこう。それに中に入れてくれるんだ感謝しないとね」
ひとまず俺たちはエルフ達の指示通り捕まることにした。
「ふん! ダークエルフと下等な人間風情が我々の国に入り込むからだ」
なんか嫌われてるけどなんで?てか人間ってそんな下等な生き物扱いなのか。
「んむむぅ! むぅ! むぐぐ!」
はいはい暴れないでね、いくら隠密使ってても大きさまでは変えられないから研究部屋を一瞬だけ使って(無理やり)体を小さくしたんだよねぇ。
「で? 俺たちは今どこに向かっているんだ?」
「ふん! 長老達の所だ。お前たちをどうするか決めて頂く」
ふーんそれは好都合。面倒なことせずに済んだな。
コンコン
「入れ」
「失礼致します」
ふむふむ……まぁ年老いたエルフ5人のってとこか。
「はい道案内ご苦労さん」
俺は手に施されていた拘束を外してガロリアとエリーナの拘束もほぼ同時にはずした。
まぁこんなことしなくても2人は自分で外せたろうけど。
「なっ!?」
「はぁ……お前はここにまんまと敵を連れて来たわけだ」
長老のひとりが呆れた様子で言う。
「大丈夫さここには話し合いに来たんだ」
錬金術で作った椅子を3個適当な位置に投げる。
「さて……飲み物がないのがあれだけどそこは急に来た俺たちも非があるからな」
「お主がフィデース信栄帝国のノーチェ・ミルキーウェイじゃな」
1番年老いたエルフが俺をじっと見つめる。
「その通り。それであなた方が」
「我々の名前は知らなくても良い」
「そう。まぁそれじゃあ好きに呼ばせてもらうよ」
まぁ後でアルに聞けばわかるし。
「それで……今回はなんの御用だろうか」
……さすがはエルフの頂点、目の前で拘束を外したくらいじゃ驚きもしないか。
「……なんの御用? それをよく理解しているのはあなた達ではないんですか?」
ちょっと威圧しちゃお。
「なるほどアルの奴しくじったか」
「まぁ良いあの程度の捨て駒いくらでもおる」
それ俺の前で言うなよ……それに周りのエルフ達がって動じてないし覚悟決まってるなぁ。
「危険を冒してまで潜入した同族にそれはあんまりでは?」
「ふん、よそ者には分からないのだ。エルフは皆ジェイ様の物、ジェイ様のために生きジェイ様のために死ぬのが幸せなのじゃ」
なんかこれに近いセリフどっかで聞いたことあるな。
「それはまた随分と……」
「それ故ノーチェ殿の後ろにいる2人のエルフがとても気に食わんが……他国の者となれば我々も手を出せん。命拾いしたな」
ん〜……まぁ手を出したらどうなるかくらいはわかってたのか。
「そのジェイ様は何をしていらっしゃるのですか?」
部屋の温度が一気に10度近く下がった気がした。
「ジェイ様は崇高な御方、どこで何をしているかなど我々には検討もつかん」
残念……六王がどんなもんか見てみたかったんだけど。
「それはそうと今回の件はジェイ様は関わっておられるのですか?」
「なぜそのような」
「関わって……おられるのですか?」
「……あの方は政治には関わらん」
「それは外交や戦争であってもですか?」
「そうじゃ、国との関係や戦は全てわしらが仕切っておる」
いいこと聞いちゃった。
「そうですか……ちなみになんですけど今回国に無断で入り込み悪さをした件、水に流そうと思っています」
う〜……後ろふたりの圧が。
「そうですかそれはこちらとしても大変」
「そこで……なんですけど我々と友好的な関係を結んで頂けませんか?」
長老達一瞬眉をひそめた。
「それは……和平を結ぶということか?」
「はいその通りです」
うわぁ……明らかに不機嫌。そんなに嫌かぁ。
「ひとつ言っておくが我々エルフ族は2万を超える兵士を持っておる。そちらの国を滅ぼすなど造作もないぞ」
「あ?」
落ち着けエリーナ!
「わ、我々の国としてはルリアの森と和平関係を結びたいだけ! 食料の寄付やフィデース信栄帝国でしか取れない鉱石などを提供するのも考えております」
長老達の機嫌がわっかりやすいくらい良くなったな。
「ふむ……そういうことなら仕方あるまい。それでは後日」
「いえ、和平の件はそうですね……3日後に受け取りに参ります」
「なに?」
「長老方もお忙しいでしょう。我々のような弱小国家のことなど考える暇もないほどに、ですから3日後改めてそちらに出向かせて頂きますので」
……。
「わかった。そういうことなら仕方あるまい」
いやぁ上機嫌上機嫌。
その後俺たちは兵士のエルフから書状を渡され都市部の出口まで案内された。
「はっ! やはり人間が率いる国家は我々のようなエルフが導いてやらないとな! 和平などと言わず従属国になっても良いのだぞ。あっはははは!」
と言われ少し強引に外にほっぽり出された。
「2人ともよく耐えたな」
後ろでは今にも弓矢を放ちそうな2人がいた。
「なんなのあの態度!」
「ノーチェ殿今すぐこの国を滅ぼす許可を」
「いやルリアの森は滅ぼさない」
いやぁ……ここまで上手く行くとは思わなかったなぁ。
「ほらアル……出ておいで」
俺はアルを研究部屋で元に戻した。
「……」
だんまりか……まぁ信じていた国に捨て駒扱いされたんだ、ショックもでかいだろうな。
「それでノーチェ殿この後は」
「ん? そうだな……近くのエルフの村に行こうか」
「え? そんな所に行ってどうするの?」
「……見せるんだよ」
2人は俺の言った意味は分からないだろう。けど多分国に見捨てられたアルならきっと。