46話 沈む星
俺あの後気絶したフィーをおんぶして転移の魔法を使い村に戻った。
どうやら村を襲撃した獣人達の殲滅は終わっていたらしくクイック主導の元後片付けに入っていた。
「ノーチェ……その様子だとやったんだな」
転移した俺のことを真っ先に気付いたクイックが声をかける。
しかし俺は何も言わずにフィーを半場無理やりクイックに押し付け家に帰っていった。
……。
俺は自室の椅子に座ると深く呼吸をして全身の力を抜いた。
「……はは」
何故笑ったのか……それは俺自身も全く分からない、ただ頭の中で気持ち悪いといった感情だけが渦を描くように回り続けていた。
コンコン
扉を叩く音……多分だがタイミング的にクイックだ。きっといつもみたいに危ないだとか何してるんだとか小言を言われるに決まってる。
嫌々ながら入室の許可をした。クイックは何も言わずに俺の方へ向かってくる。何か冗談でも言って場を和まそうか? そんなことを考えていた俺は次の瞬間頬に強い衝撃を覚えた。
「えっ……」
クイックが平手打ちをしたのだ。俺は予想していなかった出来事に驚いて思考が停止する。
「ノーチェ……俺がなんで怒ってるかわかる?」
「あっ……え?」
俺は情けない声を出す……未だにショックが大きくて頭の中で考えがまとまらない。
しばらくの沈黙の後俺は何とか言葉を絞り出す。
「俺が……また勝手なことした……から?」
消えそうな声で呟く。
その言葉を聞いたクイックは俺の胸倉を掴む。
「辛いことがあったのになんも言わずに1人で抱え込むからだよ!」
「なんでいつも1人で解決しようとするんだよ! 嫌なことがあったのになんで何も言わずに居なくなるんだよ!」
周りが静かなせいかクイックの言葉がより鮮明に聞こえる。
「あんな死にそうな顔して帰ってきてんのになんで俺達にはなんにも言わずに家に引きこもるんだよ!」
「はぁ……はぁ……言いたくなかったけど言わせてもらう! ケルロスが居なくなったのはそういう全部を抱え込むノーチェの性格のせいだ!」
膝に……力が入らない。視界が歪む……ケルロスがいなくなったのは……。
「は、ははは」
もう嫌だ……何も考えたくない……いや考えないようにしていたのかもしれない……ケルロスがいなくなった理由は。
「こんな……俺の事……誰も認めてくれない」
クイックにも失望された……この世界に来てからもう何回も何回も迷惑をかけてる……。
「そういうところだって言ってるだろ!」
クイックは手を胸ぐらから移動して肩を揺らす。
「なんで辛いことを言わないんだ! 全部言えよ! 嫌なこと、不安なこと悲しいこと!」
「俺が言ってたノーチェを支えるってのは書類を手伝うことでも敵を蹴散らすことでもない! ノーチェが辛い時に隣に居ることなんだよ!」
クイックは全てを言い切ったのか深呼吸をして俺の事を見つめる。
「ケルロスが居なくなった時にもこうやって話したよな……まぁここまで言えばいくら鈍感なノーチェでもわかって」
俺はクイックに抱きついた。なんでこんなことをしたのか自分でも分からない……けど俺はそんな事よりも胸の中にある辛い感情をクイックに聞いて欲しいとそれだけを考えていた。
「フィーにザックを殺す所見られて! 俺どうしようと思って! けど本当のことフィーに言ったらきっと凄く悲しんじゃう……だけど俺はフィーに嫌われたくなくて、そんな自分勝手なこと考えてる俺が気持ち悪くて……気持ち悪くてぇ……」
クイックに泣き付くのは2度目だ……もう散々弱い所を見せてしまっている。こんなの上に立つ者として本当にカッコがつかない。
「ノーチェ……安心して欲しい俺は……いや俺達はノーチェのこと昔からずっとかっこよくて優しくて頼りになるって思ってる。だから俺達と居る時はフィデース帝国の盟主としてじゃなくてただのノーチェ・ミルキーウェイとして嫌こと、辛いことを相談してくれないかな」
……俺はもう……1人じゃない。認めてくれる……人が。
俺の意識はそこで途切れていった。
「あれ?」
俺は何故か布団の上で眠っていた。
クイックが運んでくれたのかな?
そんな事を思いながら体を起こす。
「クイックにはみっともないとこ見せちゃったな……」
……いやけどそっかクイックはみっともない俺でも認めてくれてるのか。
嬉しくて少し口元が緩む。
俺は緩んだ口元を慌てて締め直し静かに部屋を出た。
「うぅちょっと寒いな」
あたりはまだ薄暗く街灯も着いている。
特段外に出た理由はないが今はなんとなく歩きたい気分だった。
しばらく歩いていると遠くの方から歌声が聞こえた。
エリーナかエレナかと思い俺は歌声が聞こえる方へ向かって行った。
「♪〜……♪♪♪〜..♪」
歌声はフィーのものだった……。
今会うのは……辞めといた方がいいか。
そう思い俺は静かに後ろに下がる。
しかし小さな小枝が足元にありパキッという音が鳴り響いた。
「誰?」
「あっ……」
2人は視線を合わせてしばらく固まっていた。
「ごめんね……邪魔するつもりはなかったんだ」
あの後フィーが隣に座ってと言うから大人しく座ったが……。
「……」
怒ってるよなぁ……いやてか正直殺されてもおかしくないと思う。フィーからすれば唯一の肉親を殺した相手な訳だし。
会話に困っているとフィーが口を開いた。
「ノーチェ……なんで父様を殺したの?」
フィーの声はとても冷静なものに感じた。
「それは……」
俺は言葉に詰まる。
それはそうだ……フィーのお父さんが本当は俺たちの国を奪おうとしてて挙句の果てにはフィーのスキル覚醒のため母親を殺し村を犠牲にしたなんて……言える訳がない。
「本当にノーチェは何も言わないんだね」
「フィー……」
「ノーチェは私が傷つかないように気を使ってくれているんだもんね」
俺はその言葉を聞いて驚きの表情を隠せなかった。
「なっ! フィーまさか!」
「うん……聞いてたよ」
そうだった……のか。
「見た時はショックで理解出来なかったけど……冷静になったら……ノーチェと父様の会話を思い出してきたんだ」
……。
「父様が私の事……娘なんて思ってなかったこと、母様を殺したのは父様だったこと……私は……ただの……駒だったこと」
フィーの声は段々と震えていって大粒の涙を零し始めた。
「私は……ただ……利用される為に……生かされてた。あの村に……私の居場所なんて……なかった」
そう言うとフィーは声を出しながら泣き出してしまった。
「……」
俺はそっとフィーの背中に手を乗せる。
「フィー……俺は凄く弱い奴だった。1人じゃなんにもできなくて、仲間に心配ばっかりかけて」
「けどさその仲間はそれでも俺を見捨てないんだ……何があっても隣にいるって」
そう……ケルロスもクイックも2人とも俺を見捨ててなかった。
ずっと助けてくれようと頑張ってくれていた。
「だから俺はフィーを見捨てないよ。どんなに辛い思いがあってもどんなに嫌な思いがあっても絶対にフィーを見捨てない」
フィーが涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
「俺の国にいる人達は全員俺の宝物だ。誰一人傷付けたくないし、傷付けさせない」
「フィー・サレリアル……俺と一緒にこの国で仲間になってくれませんか?」
俺はフィーの涙を拭き取り手を握る。
フィーは嬉しそうな顔を浮かべ空を見て叫んだ。
「……私は……フィー・サレリアル!フィデース信栄帝国の民で……ノーチェ・ミルキーウェイの最高で最強の仲間!」
そう言い切るとフィー俺の隣に寝そべった。
「フィー?」
「私は強くなってクイックを超えてノーチェの1番になってみせる!」
クイックを超える……かとっても高い壁だけどその意気込みが何より嬉しかった。
「ありがとう」
しかしその言葉に返答が返ってくることは無かった。
「すぅ〜……はぁ〜……すぅ〜……はぁ〜」
寝ちゃったか……フィーも相当疲れてるはずだもんな。
そんな事を考えながらフィーの隣で横になる。
「ありがとう……みんな本当に……あり……が..と」
そう言うと俺は眠りについた。
俺はエレナに見て欲しいものがあると朝早くから外に連れ出された。
正直ノーチェとフィーを仲直りさせる方法を考えないと行けないのだがあまりにもエレナがしつこいのでついて行くことにしたのだ。
「ほらクイック見てこれ」
エレナが指を差した先には仲良く手を繋ぎ眠っているノーチェとフィーがいた。
「……仲直り出来たんだなノーチェ。本当に良かったよ」
その声が聞こえたのかノーチェが少し微笑んだ気がした。