38話 猫の獣人
村の祭りが終わって数日が経った……。
あの後も温泉旅館は好評で客足が遠のくことはしばらく無さそうだ。
それに温泉旅館で稼いだお金を村の改築や道の整備に使うことでさらに住みやすい環境になった。
村の人口も順調に増加して今では500人を超える程になった。
「はぁ〜温泉様々だなぁ」
俺は自室の椅子にもたれ掛かりながら言った。
「家は全体的に和風な雰囲気だけど俺の部屋とクイックの部屋は少し洋風なんだな」
机もなんか海外の偉い人が持ってそうなやつだし。
「あとはまぁ商人さんがドワーフを連れて来てくれればいいんだけど」
温泉に関しては約束を守ってくれたアランだがドワーフの件に関しては未だ進展がない。
まぁもしも俺が思ってる通りにならなければアランに言った通りのことをするだけなんだけどさ。
「ノーチェ、入るぞ〜」
そしてクイックは俺の許可を取る前に部屋に入ってきた。
「お〜クイック……なんかあった?」
俺はペンをクルクルと回しながら聞いた。
「移民の件だな、今回は数が多いから村の拡張工事に許可が欲しい」
そういうとクイックは書類を差し出してきた。
「いや、俺の許可いちいち取りに来なくても大丈夫だって」
「そういう訳にもいかないさ、ノーチェはこの村のリーダーなんだから」
「確かに村長だけどさぁ〜こんな書類仕事あるなんて聞いてないよ〜」
俺は隣で山となった書類を見上げる。
「けど全部終わらせたんだろ?」
クイックはその書類を1枚手に取り確認した。
「終わったけどさぁ……疲れるんだよなぁ」
全知全能はこういう時には発動してくれない、主に戦闘中での最適解を導き出してくれるスキルだからだ。
「まぁ……拡張工事の件は進めとくよ、何かあればまた来るから」
クイックは俺が持っているペンを取って書類にチェックをつけて部屋から出ていった。
「……移民を募って村の拡張作業を進めるのはいいけど戦う人が少ないよなぁ」
村の拡張自体はクイックのスキルを活用すれば割と直ぐに完了する。
しかし新しく拡張した所を防衛する兵士が不足している。
外敵こそ今は少ないが……層が薄い。
直接戦闘ができるのは俺とクイック、ハーピーが次くらいに強くてエルフ達が最後……人間に関しては仮で兵士になって貰ってるだけだし。
戦力強化は必須か。
そんなことを考えている時だった。
バタン!
「ノーチェ!」
そこにはゼェゼェと息を上げているエリーナがいた。
「エリーナ?どうしの?」
俺は椅子からたってエリーナに近付く。
「村の拡大をしていたんだけど……問題が起きて」
エリーナはそのまま俺に着いてきて欲しいと頼んできた。
道中話を聞いたが今の村から2、3km程離れた場所に住んでいる獣人が話をしたいとの事らしい。
念の為顔が隠せるようにフード被っとくか。
「全然構わないけどなんで俺?」
「……それが」
その言葉を聞く前に俺は問題の地に辿り着いた。
「来たな!」
そこには赤い髪をした美しい獣人が立っていた。
猫の獣人か……それにしてもでかい! ……いや何処がとは言わないけど!
「はい。私がこの村で長をやらせて頂いているノーチェ・ミルキーウェイです。今回は何の御用でしょうか」
俺は無礼がないように下手に出ることにした。
「お前がこの村の長だな! 私はここから少し離れたところで暮らしている獣人だ!」
そういうと猫の獣人は立ち上がった。
さっきは気付かなかったが後ろには何人か仲間も居るようだ。
「はい、その獣人様がどのようなご要件で」
その言葉を聞くと猫の獣人は俺の事を指差して叫んだ。
「お前たち私の傘下になれ! 我々獣人がお前たちを守ってやるその代わりに肉を寄越せ!」
「あっお断りします」
「何故だ!?」
猫の獣人は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔を見せた。
しかしそれよりも気になったのは後ろの仲間たちの反応だった、明らかに敵対する目……自分たちの提案が断られることなど考えてもいなかったのだろう。
「ふっ……なかなか面白い人間だ。しかし! お前達は弱い! 我々がこの地を収めて豊かな暮らしを!」
「よしエリーナ話は終わったみたいだ、拡張作業はここから少し……」
「無視するなぁ!」
猫の獣人はそう言って地面を転がり始めた。
「なんで無視するんだぁ! 私達は弱い人間を守って助け合おうって言ってるのにぃ〜」
えぇ……駄々こね始めたよ。
「うぅ……まぁ仕方ない、だが! もし気が」
その瞬間だった、後ろにいた獣人が俺に向かって突っ込んできた。
……。
「……!?」
俺は爪で攻撃をしようとした犬の獣人を刀で受け止める。
「おい……なんの真似だ」
「なっ! お前何をしている!あくまで私達は和解を!」
猫の獣人が慌てた様子で止める。
「いえ! この人間は我々獣人族の提案を断りました! これは我々に対する侮辱です! 姫様我々はこの者に舐められているのですよ!」
それを聞いた猫の獣人は少し静かになった……そして
「そうか……それなら殺さないとな」
と静かにつぶやき俺に攻撃をしてきた。
シュッ
……早い!
俺は攻撃してきた犬の獣人を弾き圧倒的な速さで向かってくる斬撃を避けた。
「なんのつもりだ!」
「我々獣人は舐められてはダメなんだ」
……ダメだ話が通じる様子じゃない。
「全員攻撃しろ!」
犬の獣人が指示を出す。
俺は向かってきた4人の獣人を峰打ちで気絶させた。
「なっ!?」
犬の獣人は驚いている様子だが強さ的にはせいぜい貴族が送ってきた兵士より少し強い程度、俺の敵にはならない。
それよりも問題はあの猫の獣人だ。
「神速!」
「くっ!」
早い! 斬撃の重さはそこまでじゃないが速さだけなら俺にも負けてない。
「姫様! 流石です! このままそいつを!」
「あっ! クイックダメだ殺すな!」
「え?」
犬の獣人は驚いたと同時に意識を失った。
危ない危ない、クイックが居るのに気付かなければあの獣人首と胴が離れ離れになってるところだった。
だけど……これで俺も集中出来る。
猫の獣人は動きこそ早いものの単調で隙も多い。
「あぁ!」
猫の獣人は攻撃が当たらないことに苛立ちを覚えたのか大振り攻撃をしてしまった。俺はその隙を見逃さずみぞおちを強めに殴る。
「……ふぅ! まぁこんなもんだろ」
俺は手をパッパと払って辺りを見渡す。
「クイックこいつらを診療所に連れてってやれ、あっこの猫さん以外は縛っとけよ」
それを聞いたクイックは少し不安そうな顔を下したが獣人達を持ち上げて診療所に歩いていった。
「母様! 母様!」
小さな獣人が庭で母親を追いかける。
「あらフィーどうしたの?」
母親は優しく微笑んで抱きしめてくれた。
「私ね! 父様と一緒に動物を倒したんだよ!」
そう言って小さな獣人はブイサインをする。
「あらあら、流石私の子ね。可愛くて強い私よフィー」
母親の手は静かに頭を撫でた。
……。
「母様……」
……。
「……? ここは」
猫の獣人は意識が戻ったのと同時に驚いた様子で起き上がる。
「はっ! お前はあの時の! ここはどこだ! 仲間を何処へやった!」
猫の獣人は腰に付けていた短剣を抜こうとする。
「あれ!? 私の短剣は?」
「悪いが危ないんで預かっている」
俺はそう言って短剣を見せた。
「お前それを返」
「はいどうぞ」
「え?」
猫の獣人は不思議な顔をする。
「いや返して欲しいんでしょ、ほらいいよ」
俺は猫の獣人に短剣を差し出す。
「あっ……うんありがとう」
猫の獣人は警戒しながら短剣を受け取った。
「お前……悪いやつじゃないのか?」
「うん」
「……そうか、さっきは悪かった。取り乱して」
そういうと猫の獣人は頭を下げた。
「いや、大丈夫だよ。それよりも君の名前を教えてくれないかな?」
獣人はそれを聞いて少し服装を整えて口を開いた。
「私の名前はフィー・サレリアル、ここから離れた場所で600人程の獣人を束ねて生活している」
「それは君がまとめてるのかい?」
「いや違う。私の父様がリーダーだ!」
フィーは少し興奮気味に答えた。
「私の父様は凄く強くて、かっこよくて! とってもとっても強い人なんだ!」
同じこと2回言ったね。
「それで今回はそのお父さんに言われて来たのかい?」
「うん! 父様が近くに大きい村ができたみたいだから傘下にして来いって!」
ふむ……偵察などには注意してたんだが。まぁ温泉旅館で中に人は入りやすいからな、仕方ないか。
「そうか……それじゃあそのお父さんと話してみようかな」
「え!?」
それを聞いたフィーは驚いた顔をする。
「それは私達の傘下に入るってことか!?」
「あっいやそうじゃないけどさお父さんが送ってきたみんなをぶっ飛ばしちゃったし謝りにいかないと」
「あーなるほど!」
フィーは納得した様子だ。
「じゃあ早速で悪いけど向かおうか」
「えっ!? 今から行くのか?」
「謝罪は早い方がいいんだよ」
俺はそう言って診療所から出た。
「ノーチェ……」
「大丈夫だって! なんかあれば転移で帰ってくるから」
俺は準備を済ませ、門の前でクイックと話している。
村をがら空きにさせる訳にはいかないとの事でクイックには残ってもらうことにしたんだ。
まぁ……結構抵抗されたけど、エリーナが着いてくるってことで何とか納得させた。
「おーい! そろそろいこーよ〜」
フィーは先程まで眠っていたとは思えない程元気に走り回っている。
「他の奴らは気絶したままだから馬車で運ぶことにしたけど……エリーナ馬走らせられるの?」
するとエリーナは少し怒った様子で答えた。
「失礼ね!エルフは森と一緒に暮らしているのよ、なら動物達とも仲がいいに決まってるじゃない」
いや何その謎理論。
「ま、まぁいいやそれじゃあフィーの村に出発だー!」
俺は天高く腕をあげた。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
始祖蟒蛇Lv6
所持アイテム星紅刀
耐性
痛覚耐性Lv1、物理攻撃耐性Lv7、精神異常耐性Lv6、魔法攻撃耐性Lv4、状態異常無効Lv10
スキル
知り尽くす者、混沌監獄、研究部屋 、横溢Lv4、絶無Lv3
魔法
回復魔法Lv8、幻影魔法Lv5、破壊魔法Lv8、火炎魔法Lv8、水流魔法Lv10、水斬魔法Lv6、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、闇魔法Lv6
???
謀る者Lv3、強欲
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神に出会った者/神を救った者/導く者
クイック・ミルキーウェイ
赤岩土竜Lv2
耐性
物理攻撃耐性Lv6
スキル
探索Lv8、隠密Lv7、地面操作Lv4、高速移動Lv9、強化Lv3、回避Lv4、体術Lv2、斬撃Lv1、集中Lv4、追跡Lv3、空間把握Lv4
魔法
火炎魔法Lv2、風斬魔法Lv4、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv4
???
食事Lv8