37話 望んだ景色
……。
「暇だ」
俺は今、温泉旅館の客室でゴロゴロと転がっている。
例の商人……アランは約束を守ってくれたらしくアランが居なくなって1週間が経過した頃には大量の客が温泉旅館に押し寄せていた。
最初は王国領では無い辺境の地であることから人はまばらであったものの、来た人が噂を流しそれを聞いた人がさらに来てまた噂を流すといったことが繰り返し起こり、今では人間やエルフ、獣人も来る有名所になった。
温泉旅館の接待には村の子供たちを配置していたが、エルフやハーピーなどにも任せてみることにした。
しかしこれが大成功、可愛い子とお話出来ることやマッサージも受けられて最高との事だ。
さらにハーピーの風評被害もだんだん薄れてきて最近では泊まりに来る客の子供たちと遊んでいる姿を見かける程になった。
村の人口も順調に増えていき150人しかいなかった昔と比べ今では300人と倍に増えている。
もちろんその中に種族の壁はなく様々な種類の生き物がのびのびと暮らしている。
そんな忙しい中俺はクイックから強制休暇命令を受けて温泉旅館に隔離されていた。
「最近頑張りすぎだから休めって言われもなぁ……」
俺はただ拳銃作って商人と交渉しただけだっての。
だいたいクイックの方こそ全然休んでないじゃんか!
……考えてたら寂しくなってきた。
「大体俺がクイックの言うことを聞く必要ないもん! よし! 外に出てなにかしよう!」
そう思い浴衣から私服に着替えようとしていた時だった。
「ノーチェ! 来て欲し……い場所……が」
「あっ! クイック! 俺もちょうど外に出ようとしててさ」
俺は扉を開けて固まっているクイックに声をかける。
「いや! 服! 服着ろ服!」
クイックは勢いよく扉を閉めてしまった。
「え? あ〜服なちょっと待ってろ」
俺はそんなこと気にせずに私服に着替えた。
「はいよ、それで? どこに行けばいいんだ?」
「あっ……あぁ着いてきてくれ」
クイックは少し目を逸らしながら歩いていった。
しばらく歩いた……とは言っても温泉旅館からさほど距離はなかったがそこには大きな建築物があった。
「ん? これはなんだ?」
俺は前を歩くクイックに質問した。
「ここか……まぁあれを見ればわかる」
クイックが指さした先には俺が村に導入した表札があった。
「えっと……ミルキーウェイ?」
ここはミルキーウェイさんのお家かぁ……いやご立派な……。
「え? ……えぇぇぇぇぇぇ!!」
えっ!? 何このでかさ! 温泉旅館と大差ないじゃん! てかこっちの方が少し大きいし!
え? 何!? なんでこんなのあるの!?
「ちょっ……!? クイックこれどういうこと!?」
「いや、前住んでた家は温泉から遠いし何より個人スペース無かっただろ? だから新しい家を、と思ってな」
確かにそれは嬉しいけど……。
「それにしても大きすぎじゃないかな」
「これでも小さめにしたんだけどな」
えっ……嘘でしょ。
「最初の計画案はエレナに止められて辞めたんだ、そしてみんなで考えた結果この大きさにまとまったんだ」
いや全然まとまってねぇし。
「いやぁ……やりすぎじゃ」
「そんなことない、ノーチェはこの村の長だ。そして今や人口は300人を超えている。これは貴族が直接運営してる領地と変わらない。それならもっと大きくてもいいくらいだ」
ダメだクイックの暴走が止まらない。
「……わ、わかった。ありがとう、それじゃあ中の紹介してくれるかな?」
「お易い御用さ」
中は見た感じ和風の作りになっていて俺の好みに合わせてくれたらしい。
まぁ俺とクイックの自室に客間、キッチンとリビング他にはすごい広いスペースがあったけどあそこには本を置く予定らしい。けどそんなことよりも驚いたのは。
「おぉ! すげぇぇ!」
1階の奥に設置してあるお風呂……いや露天風呂だった。
クイックの話によれば温泉をこっちにも引いて作ったらしい。
いや地面操作なんでもありだな。
最初はその大きさに面食らったけどこれを作るのにも時間と労力が結構かかったはずだ。
「クイック、ありがとう」
俺は椅子に登ってクイックの頭を優しく撫でた。
クイックは少し恥ずかしそうにしたがにっこりと笑ってくれた。
「そうだノーチェ! 今日の夜は村で祭りをするんだ。その時にノーチェからも一言頼みたいと思ってて」
いや急だな! 俺そんな話聞いてないよ!
けどまぁ……みんなよく頑張ってくれた。感謝と労いを伝えるくらいしっかりしないとな。
そして村は闇に包まれたがいつもの静かな村と違い賑やかな声が沢山聞こえてきた。
俺はクイックが作った壇上に上がり、開会の儀……と言うと少しかしこまった感じになるけどこの祭りを始める挨拶をすることになった。
「えー……本日は皆様集まって頂き大変嬉しく思います」
「あっ……と」
やばい……こういう時って何言えばいいんだろう。
俺は壇上で少し固まってしまった。軽くパニックになっていると下から笑い声が聞こえてきた。
「あはははは! 何そのかしこまった挨拶!」
エリーナ!?
「はぁ〜ほんと! ノーチェらしくないわよ!」
エレナまで……。
「そうですな、ノーチェ殿はもっと堂々としてますからね」
「まぁ……森を焼いたり割とやらかすこともありますがな!」
ガロリアは後でぶっ飛ばそう。
「はははは、なんだよ全く人が真面目にやろうとしてるってのに。はぁ〜もうやめだやめ適当に行くぞ」
俺はそう言うと一呼吸置いて話し始めた。
「みんな今までよく働いて、よく俺に付いてきてくれた。今日はそんな仲間たちを労いたい! 全員で最高の夜にしようじゃないか!」
俺は置いてあったグラスに手をかける。
「乾杯!」
「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」
壇上から見えるみんなの楽しそうな顔……俺が見たかったのはこの景色だ……。本当に、本当に良かった。
「ノーチェ」
壇上から下がるとそこにはクイックがいた。
「どうした?」
俺が質問するとクイックは静かにグラスを向けた。
「クイック?」
「俺は沢山ノーチェに助けたられた。これからも迷惑をかけるかもしれない。それでもノーチェは俺を捨てないかい?」
俺はその言葉聞いて大きく溜息を付いた。
「全く……馬鹿だなクイック」
そしてクイックに近付く。
「俺は絶対に仲間は見捨てないよ」
そう言ってグラス同士をぶつけあった。
「はぁ〜……散々な目にあった」
あの後クイックと離れてからエリーナとエレナに捕まり着せ替え人形として遊ばれ、ゼンとガロリアにはひたすらに感謝の言葉を送られ、セルとカイルには屋台を連れ回され。
まぁとにかく体力が相当削られてしまった。
……。
とはいえ。
「本当に嬉しいな」
最初はたまたま助けた男の子を送り届けただけだったのにそこからエルフとの和解を手伝って……森から出てくる獣退治のために上級ダンジョンを攻略、貴族から村を独立させて今では温泉旅館を開き村と呼ぶには大きいと思えるくらいの規模になった。
「ここから始まったんだよな」
俺とクイック……そしてケルロス達で決めた場所。
村を建て直して見届けると誓った場所。
「……いや、まだ終わってない。これからも見届けるんだ」
そしてもし思い出したらここに来よう。
俺たち3人が誓いを立てた場所に。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
始祖蟒蛇Lv5
所持アイテム星紅刀
耐性
痛覚耐性Lv1、物理攻撃耐性Lv6、精神異常耐性Lv6、魔法攻撃耐性Lv4、状態異常無効Lv10
スキル
知り尽くす者、混沌監獄、研究部屋 、横溢Lv3、絶無Lv2
魔法
回復魔法Lv8、幻影魔法Lv5、破壊魔法Lv8、火炎魔法Lv8、水流魔法Lv10、水斬魔法Lv6、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、闇魔法Lv6
???
謀る者Lv3、強欲
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神に出会った者/神を救った者/導く者
クイック・ミルキーウェイ
赤岩土竜Lv2
耐性
物理攻撃耐性Lv6
スキル
探索Lv8、隠密Lv7、地面操作Lv4、高速移動Lv9、強化Lv3、回避Lv4、体術Lv2、斬撃Lv1、集中Lv4、追跡Lv3、空間把握Lv4
魔法
火炎魔法Lv2、風斬魔法Lv3、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv3
???
食事Lv8