34話 無垢なる悪意
ちょちグロかも...です。
「ノーチェ! ノーチェ起きろ!」
「ん? んんぁ」
「その声はクイックか? なんかいつもより声が低……く?」
「進化した!」
……目の前には身長170cmはあるだろう男性が立っていた。
「え?」
「ちょ! 待って! え? クイックなの!?」
「うん! クイックだよ!」
え? ちょっと待って……人化のスキル持ってたっけクイック。
いや逆に持ってたとしてほとんど人の姿じゃん!
「あれ……クイック人化持ってたっけ?」
「え? いやないけど」
「ちょっ……え? どゆこと?」
俺はその後エレナを家に呼んで状況を説明した。
「それで……この肌黒くてイケてるお兄さんがクイックってこと?」
「いや言い方!」
「いやいや! よく見なさいよあんた! 結構いい見た目してるわよこれ!」
まぁ確かにこちらの世界にいればアイドルや俳優に抜擢されそうなくらいにかっこよくはある。
って今はそういうことを聞きたかった訳じゃないんだけどなぁ……クイックもなんか嬉しそうだし。
「とにかく、なんでこうなってるか教えて欲しいんだ」
「……そうねぇ……多分進化分岐の差でしょうね」
「進化分岐?」
「そ、私たちハーピーは生まれた時からこの姿なの、だから進化しても羽が大きくなるとか他の色が変わるとかちょっとした変化しか起きないわ」
……なるほど。
「そしてノーチェ、貴方は3段階進化してるのよね」
「あ、あぁそうだね」
「それで動物の姿ってことは恐らく人型にはならないタイプの進化分岐なんだと思う。そうね……わかりやすい例えというか少し違うかもだけど龍種はどの進化分岐を選んでも人型になる個体は居ないの」
「じゃあ龍種で人型になれるのは人化のスキルを所持してるってことか」
「そういうことになるわね」
「そしてクイックは人の姿になる進化分岐を選んだってことになるわね」
「……それにしても人っぽいけど……地面掘る時とかどうするのそれ」
「ん? あぁそれならできるぞ」
そういうとクイックは外に出た。
「見ててくれよ〜」
クイックは地面に手を着いた状態で止まっている。
「ん? 揺れてる?」
ドンッドンッ! ドン!
大きな音と土煙が舞った。
「な、なんだこれ!」
煙が無くなってそこに現れたのはニョロニョロと動く土の塊だった。
「これが俺の新しいスキル! 地面操作だ!」
地面操作……。
「ってそれって土系魔法で対応できない?」
「そう思うだろ? けどこれは地面があればどこでも使えるんだ、しかも土系魔法を使うより魔法力の消費も少ない」
なるほど! 周りに土があればいつでもどこでも使える、しかも魔法力消費が少ないから使い勝手もいい。
「てことは土がある場所では最強格ってことかぁ」
「最強..とは言わないけど昔とは比べ物にならないと思うよ」
……そうか。クイックもとうとう進化して。
「ノーチェ?」
俺はスっと拳を向ける。
「これからもよろしく頼むぞクイック」
クイックはそれを聞いて少し照れた様子を見せたが直ぐに笑って拳を返してくれた。
「ちなみに名前はなんなんですか?」
エレナが横から聞いてきた。
「あぁ種族名か……赤岩土竜だってさ」
……すげぇ漢字にするとかっこいい!
「なんて言うか……色々とかっこよくなっちゃってさぁ」
俺なんて女の子なのに……。
あっやば……ちょっと悲しくなってきた。
「そ、そうかなぁ」
やめてくれよ……その反応は今の俺の心に大ダメージ入るから。
「まぁ……とりあえず戦いに行こうか」
俺はそう言ってクイックを連れ出した。
森に向かってる途中クイックが話し始めた。
「これで……もうノーチェに酷いことをさせないで済む」
……。クイックはまだあの時のことを引きずっているのだろう、あれは俺が決めたことだと言っているのに。
「クイック……あの時のことは」
「いや、いいんだ。それに俺は思ったんだよ」
そういうとクイックは俺の隣に来た。
「ケルロスがいたらあんなことにはならなかった。だけどもうケルロスは居ない、なら俺はケルロスを超えて。ノーチェを護ってみせる」
俺はそれを聞いた時ケルロスのことを思い出して少し悲しいと思ったが……ケルロスを超えると言い張ったクイックが眩してくて直視出来なかった。
「さて! クイック! 人の状態での戦闘は初めてだよな」
俺は切株の上に乗って話し出す。
なんでかって? 身長差があって常に見上げてると首が痛くなるからだ!
「そうだな、今日起きたらこんなことなってたし」
「まぁ……とりあえず大きさがだいぶ変わってるしなぁ」
多分さっきの魔法的にオークなんて練習台にもならない、あとこの辺りで強いのはいないしなぁ。
「よし! じゃあ俺と戦おうか」
「えっ……」
クイックはものすごい嫌そうな顔をした。
「大丈夫大丈夫!あくまで人での戦闘に慣れるためだから魔法もスキルも一切無しあっこれあげるから」
俺は作り出した木剣をクイックに投げて渡した
「まぁとりあえずこれで戦おうか」
人の動きを理解するならこれが一番だ。
「いや、えっちょっと待って! もう始めるの!?」
「行くよ!」
俺はクイックの言葉を最後まで聞かずに突っ込んだ
「で? 何か言い訳はある?」
「全くございません」
俺は今エレナとエリーナに正座で説教をされている。
何故かって?
……あの後クイックと戦っていたのだがちょっと興が乗ってしまい……地面に大穴を開けて温泉引き当ててしまったのだ……。
まぁ、それだけならここまで怒られないのだが……その大穴にクイックが落ちてしまい慌てたクイックは最近覚えたばかりの溶岩魔法を連発、加減が分からず森を焼いてしまったのだ。
クイックは魔法力切れでダウン、今は診療所で休んでいる。
「ノーチェ! 聞いてるの!?」
「は、はい! すみませんでした!」
……今わかったことだが怒ったエリーナはめちゃくちゃ怖い。
エレナはお風呂に入れるとの事で割とまぁ直ぐに怒りは収まったのだが……。
「だいたい! 森を焼くなんてどんな魔法使ったのよ!」
……俺が知りたいです。
「ほんと……反省してます。二度としないので許してください」
「当たり前だよ!」
やっぱり女は怖いなぁ。
「まぁまぁノーチェ殿もあそこまでやるつもりはなかったんだから許してあげなさい」
「ガロリアぁぁぁ」
ガロリアが神様に見えた
「けど……」
「ノーチェ殿の事だ、しっかりと謝罪に見合う誠意を見せてくれると思うぞ」
……ん?
「なぁ……ノーチェ殿?」
あっ……あーこれは怒ってらっしゃる。
エルフは生まれた時から森と共にあるから今回の件はいくら俺でも許されないってことか……。
「……はい」
俺は下を向きながら返事をした。
「と、言うわけで村の改築をすることにしました!」
「いや! どういう訳!」
クイックが勢いよくツッコミを入れてくれた。
「だって誠意を見せろって言われたらこの村をより良くするくらいしか思いつかなくて」
「いやあれに関しては俺悪くないし」
「森を焼き払ったのはクイックだからね」
それを聞いたクイックは黙り込んでしまった。
「……まぁ改築するのはいいけどさ、詳しくはどうするつもりなの?」
「あぁ……まずは温泉を引き当てた所まで領土を拡大する。幸い管理されてる土地じゃないからね」
それに温泉は俺も入りたいし。
「それはいいけどあそこまで広げるとなると結構な大きさになるよ」
確かに、今の村の大きさから比べれば軽く見積もっても5倍は変わる。
「まぁ領土を増やすこと自体は問題じゃないさ、とりあえずは柵を広げればいいし。まぁ所々城壁に改造してるから全部変えるとなると時間はかかるだろうけど」
そう……問題はそこじゃない。
「村の大きさに比べて人が少なすぎるよなぁ」
俺は椅子にもたれ掛かりながら言った。
「そうだね、どの道城壁に変えるのにも人手が必要だ。それ以外にも領土が広がるから監視役の兵士も増やさないと」
現在俺達の村は人間70人、エルフ50人、ハーピー30人合計150人で構成されている、そのうち兵士はエルフが全員とハーピーの若い子が10人、人間からは3人しかいない。
「全員貴族との戦いで訓練こそしてたけど兵士と呼ぶには弱すぎるよなぁ」
「……わかった、村の拡大作業は俺がやるよ。だからノーチェは人を集めてくれないか?」
クイックはそういうとベッドから出てきた。
「もう大丈夫?」
「魔法力はほとんど回復したさ……それにゆっくりもしてられないだろ?」
どうやらクイックは俺が温泉に入りたくてうずうずしてるのに気付いたらしい。
「ははは……よーし! じゃあ人集めするかぁ」
とは言ったものの。
「人集め……移民を募るか? いやここは名も無き村。誰か来てくれるとは思えない、だいたいどこから募るんだよ」
家に帰って地図を見ながら俺は考え込んでいた。
近くにあるのはドワーフの国カーヴェ地下帝国、北にはコロリアン妖精圏、その左には人の国……ゼールリアン聖王国。
確かゴーンの家にあった本でドワーフ国には研究好きな奴らが集まってるって書いてあったな。
「いや、それがわかった所でどうにも出来ないよなぁ」
この村は特段珍しい資源が出るわけでもないし、面白い武器や防具もない。
物で釣るには魅力が少なすぎる。
あとは……。
俺はそう言ってコロリアン妖精圏に目を向けた。
「エレナ!」
俺は妖精圏に行ったことがあると言っていたエレナから詳しい話を聞くことにした。
「そうね……コロリアン妖精圏は獣王国と聖王国に比べればまだマシだったと思ったわ」
「え? そうなの?」
俺は希望が見えたと思い少し喜んだ。しかしその希望はその後の言葉で打ち砕かれることになる。
「そう……最初はそう思ってた。けどあの国は異常よ。絶対に手を出してはダメ」
そういうとエレナは妖精圏で何があったのか教えてくれた。
「私達は迫害を受けた獣王国と聖王国から逃げるように妖精圏に向かったわ、そして妖精圏はそんな私たちを受け入れてくれたの」
「それだけ聞くといい奴らだけど」
「けどそれが悪夢の始まりだったわ」
……
「あははははは! ようこそ! ようこそ! ここはコロリアン妖精圏! みんなが楽しく遊べる場所だよ! ゆっくりしてね!」
「「「「「あははははは! あはははは! お客さん、お客さん!」」」」」
こんなにも私たちを歓迎してくれている、今まで2つの国では散々な目にあったけどここでは上手くやっていけそうね。
「ありがとう! 私達を助けてくれて」
「ううん! 大丈夫! 大丈夫! 妖精はみんなを助けるの!」
妖精とは寛大でとても優しい生き物だったのか……。
「けどね! けどね! お姉さん達おかしいね!」
「え?」
「妖精の羽はもっと綺麗で透き通ってて美しいものなんだ!」
「えっと……それは素晴らしいわね」
「うふふふふ、そうでしょう!そうでしょう!」
「じゃあ! 私達がその汚い羽を綺麗にしてあげる。」
その時だった後ろにいた仲間が悲鳴をあげたんだ。
「ぎゃああぁぁぁぁ!」
「シーナ!?」
「貴方たち! 何してるの!?」
「え? 羽を取ってあげるんだよ!」
な、何を言って……。
「その足もおかしいよ? もっと白くて綺麗なやつを付けないと!」
そういうと次は他の仲間の足を折っていった。
「や、やめてぇ! いだい! いだいよぉ!」
「あれあれ? 羽が取れちゃった! あっ! 綺麗な羽根を付けてあげる!」
妖精達は透明なガラスを羽が取れて血が溢れている場所に刺し込んだ。
「これを付ければ綺麗になるよ!」
「足はこの白い棒を差し込もう!」
「羽も足も取っちゃおう!」
「「「「「「綺麗だね! 美しいね! 可愛いね! 楽しいね!」」」」」」
「はっ……はっ……お……おぇぇぇ」
私はその場でみっともなく胃に入っていたものを全て出した。
「どうしたの? お姉さん? 具合悪いの? ほら他のみんなも心配してるよ。」
そういうと妖精は変わり果てたシーナを連れてきた。
「い……あい……ごろ……じで……..」
「ほら! お姉さんも笑って! 笑って!」
ジーナに突き刺したガラスをぐりぐりと動かして妖精達は無邪気に笑う。
「ひぃ! ぜ、全員急いで! 逃げるわよ!」
その後はただ一生懸命、全力で逃げたのを覚えている。
追ってくる様子はなかったけど後ろの方で仲間たちが呻き声を上げて助けを呼んでいたのを今でも覚えている。
「……」
「……」
「ごめん、そんな辛い話させて」
「……大丈夫、むしろ聞いてくれて良かったわ。妖精達にあったら次は村の人達が」
エレナはそこまで言うと気分が悪くなったのか部屋から居なくなってしまった。
……妖精圏はなしだな……。
俺はそう強く心に誓った。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
始祖蟒蛇Lv4
所持アイテム星紅刀
耐性
痛覚耐性Lv1、物理攻撃耐性Lv6、精神異常耐性Lv5、魔法攻撃耐性Lv3、状態異常無効Lv10
スキル
知り尽くす者、混沌監獄、研究部屋、 横溢Lv1、絶無Lv1
魔法
回復魔法Lv8、幻影魔法Lv5、破壊魔法Lv8、火炎魔法Lv8、水流魔法Lv10、水斬魔法Lv6、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、闇魔法Lv6
???
謀る者Lv1、強欲
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神に出会った者/神を救った者/導く者
クイック・ミルキーウェイ
赤岩土竜Lv1
耐性
物理攻撃耐性Lv6
スキル
探索Lv8、隠密Lv6、地面操作Lv1、高速移動Lv9、強化Lv1、回避Lv3、体術Lv2、斬撃Lv1、集中Lv4、追跡Lv3、空間把握Lv4
魔法
火炎魔法Lv1、風斬魔法Lv1、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv1
???
食事Lv5