30話 半人半鳥(ハーピー)
俺は次の日久しぶりに家から出ることにした。
最初は少し驚いていた村のみんなも優しく俺を迎えてくれた。
……本当にありがとうみんな。
「さてクイック」
「おうよ」
俺達は今森に来ている。
理由は人化のスキルを使う為だ。
人化スキルにもLvが付いているということはレベルアップが必要なんだろう。
まぁ俺の予測が正しければだんだん人に近くなっていく、みたいな感じだと思う。
と、ここまでなら俺一人でも十分なんだが今回は人の姿で戦う練習とクイックの進化を兼ねている。
クイックはレッドモールLv9、もう少しで進化が可能になるはずなんだ。
経験値が足りないのか条件不足なのか、分からないことは多いが今回の特訓で少しでも強くなれればいいなと思い付き合ってもらうことにした。
「まず……人化するぞ」
「俺は念の為後ろ向いてるぞ」
人化
「……」
「いやトカゲっぽくなっただけやん」
見た目は二足歩行するトカゲみたいだ。
顔や皮膚も蛇の状態からあまり変わっていない。
「クイック、もういいぞ」
「おぉ……背が縮んだくらいか?」
……確かに目線が圧倒的に下がった、何cmくらいだろうか。確か近所走り回ってた小学生5年生がこのくらいだった気がする。
いや……蛇の姿の方が良さそう。
とはいえレベリングも兼ねてるからなぁ。
「仕方ないこれでいくか」
「わかった……じゃあどこに行くんだ?」
「それはもう決めてあるんだ」
俺はそう言って歩き出した。
「着いたぞ」
ここはオークの巣だ。
俺のレベリングにはならないが……クイックのことを強くするためならこの程度の相手でも問題無いはずだ。
「クイックこの辺りにはオークの住処が複数存在する、基本的に5~8体が一緒に生活しているはずだ。できる限り倒せ、やりきれなかった奴は俺がやる」
それを聞いてクイックは静かに頷いた。
作戦としてはクイックが土を掘りながら近付く巣穴の下まで来たら土系統の魔法を使用。
倒しきれずに出てきたヤツは俺が狩る。
まぁ単純ではあるが……知能がほとんどないオークには有効だろ。
「岩落!」
その声が聞こえた瞬間オークの住処であろう洞窟はバラバラと音がしながら崩れていった。
「……」
「ノーチェ! 次行きましょう」
いや俺いらなくね?
その後もクイックの無双は続き、生き残りなんて誰もいなかった。
その帰り
「人化状態での戦闘してみたかったのに……」
俺は不貞腐れた様子でクイックに言った。
「いやごめんなさい……つい」
クイックは頭を掻きながら謝る。
まぁ……クイックの強さが思ったより高くてびっくりしたけど。
少々卑怯かもれないがあれも立派な戦術だ。
それに人化Lvも3になって少しだけ人間に寄ってきたからよしとしよう。
そして村に向かって帰っている途中だった。
……?
何か大きな音が近付いてくる。
「クイック少し伏せて」
俺達を狙っている感じじゃない、そう思い俺達は近くの草に隠れた。
隠れるだけなら小さい分人化した方がいいのかもなこれ。
そんなことを考えてると目の前を鎧を着た兵士が馬に乗って走りすぎて行った。
……村の方向に向かったな、あれが貴族の兵士なのか?
「クイック、急いで村に戻る落とされないでくれよ」
俺そういうと人化を解消してクイックを掴み神速で村に走って行った。
まぁ村長に貴族などが来たら俺達のこと、エルフのことは隠しておいた方がいいと言ってあるし特段問題は無いと思うが。
村が見えたが俺はあえて村には入らず、村の全体が見渡せる丘上に向かった。
ここからなら何かあっても直ぐに転移で助けに行ける。
今見える村の様子では門の前に兵士が止まって柵越しに話をしているようだ。
「時間を稼いでエルフ達を隠してるのか」
法律的には人の国にエルフは入ってはいけないなんてものは存在しないと聞いた。まぁそれはあくまで法律、貴族ともなればエルフを捕まえることやそれを庇った村をなかったことにするなんて難しくないだろう。
「何しに来たんすかねぇ」
「恐らくだが納税だろう。村長もそろそろ来るかもと言ってたし」
現状の村は何とか建て直しに成功しているが食べ物に関してはエルフ達が狩りに行ってくれてるからギリギリで賄っているだけで納税する分はほとんどないはずだ。
……その考えは案の定で兵士たちは無理やりに門を開けて家などを漁り始めた。
だが実際本当に余裕なんてないため家の中を漁ってもこれといった物は出てこずに、最後兵士が門の外から何かを叫んで帰って行った。
俺は転移を使って村長の元へ向かった。
「何があった」
「ノーチェ殿!?」
あっそうかいきなり後ろから声掛けられたら驚くよね。
「様子は見ていた、何があったか教えてくれ」
そう言うと村長は苦虫を噛み潰したような顔をして口を開いた。
「今回の納税を見送る代わりに来月には通常の3倍で税を納めるようにと……」
3倍……この村の納税は元々がとても高く、今までもギリギリで回してきたというのに。
人も少ない……いくらエルフがいるとはいえ納め切れる訳が無い。
「この村は……もうだめなんでしょうか」
村長は悔しそうに言った。
……。
「わかった」
俺はもう決めたんだ……守るって、これ以上誰も失いたくないから。
「ノーチェ殿……?」
「村長……覚悟を決めたよ」
それを聞いた時村長は喜びの顔を浮かべてくれた。
「この村は今日から俺が統治する」
この村を……クソ貴族の餌にするもんか。絶対に俺が防いでやる。
村の住民はそれ聞いた時大きな歓声をあげた。
まぁ、指導者が変わったからと言って今までとやってることに特段変化が出るわけでもなくせいぜい戦闘訓練を始めたくらいだろうか……。
正直いうと村のみんなにはのんびりと生きて欲しいので戦おうとするのはやめろと言ってるのだが。
「貴族の領地から抜けるんです。戦いが起こらない訳がありません。むしろここで準備しておくことが大切です」
とのこと。
前来た兵士くらいなら俺だけで蹴散らすこともできるんだけどなぁ。
とはいえもしもの可能性があると考えれば無理に止めることも出来ず。
「はぁ」
「ノーチェ? どうしたんですか?」
「クイック〜どうしたらみんな戦わないで済むかなぁ」
俺はだらしない声を出しながらクイックに尋ねる。
「うーん、貴族を今から殴り込みに行くとか?」
「はは、こっちから攻めてどうすんだよ」
防衛ラインを構築するか……いやけど俺とクイックだけでそれを維持できるとは思えない。一応エルフもいるけど。
……お世辞にも強いとは言えない。
こんな時に……。
いや、それは考えるな。居ないものは居ないんだ。
コンコンコン。
「ノーチェ殿! 居られますか!?」
ん? この声はガロリアか。
「どうした〜?」
「失礼します!」
どうやら少し慌てている様子だ。
「何かあったのかな?」
「それが門の前に亜人種と思わしき方達が」
亜人種?
「わかった今すぐ向かう」
「ノーチェ」
「わかってるよ。クイック念の為みんな配置に着くよう言っておいてくれ」
門の前で待機しているということは敵対している訳では無いのだろうか……いやそう考えるのは早計だな、しっかりと見極めなければ。
念の為人化をして……と。
あれからスキルLvが上がり人化はLv5になった。
まだ完全に人では無いが大きめの布で頭まで隠せば限りなく人に見える。
輪郭だけだけど。
俺は門を見張る兵士に門を開くように合図した。
ギィィィとクイックの魔法で作られた岩の扉が開かれる。
扉の奥には腕は羽、足は鳥でよく見られる形をした人型の生物が30人ほど居た。
ハルピュイア……ハーピーか。
「……この村で村長をしているノーチェ・ミルキーウェイだ。何用でこられたのか聞いてもいいだろうか」
そう言うとハーピー達は少し驚いた顔を見せた。
「我々はコロリアン妖精圏から来た半人半鳥だ。仲間が怪我をしてしまった少し休ませて貰いたい!」
すると奥から羽の折れたハーピーが出てきた。
「我々はここで」
「わかった! 全員中に入れ」
「えっ!?」
ハーピー達は何やら驚いている様子だった。
「何してる。早く入れその子を治すんだろ」
「あっあぁ感謝する」
その後は怪我をしたハーピーを村で1つある診療所に運び込んだ。
「これであの子は助かるだろ」
俺は先程まで会話をしていたハーピーに話しかけた。
銀色の髪……羽も大きくて立派だ、しかも可愛い!
異世界に来て多分今までで1番! 可愛い!
「何故貴様は我々を村に入れた」
ハーピーは診療所を見つめたまま聞いてきた。
「……まず俺の名前はノーチェ・ミルキーウェイだ、貴様って呼ばれるのはなんかちょっと嫌だ。それと質問の返答だが、」
「困ってたからだ」
それを聞いたハーピーは診療所から目を離し俺を静かに見つめた。
「たったそれだけの理由か」
「あぁそうだ、たったそれだけだ」
それにハーピー達はみんな疲れきってる様子だった。
怪我をしている子もそうだけど着てる服はボロボロで顔や体に土がついてるのもわかる。
「我々半人半鳥は昔から獣人でも人間でもない中途半端な存在と迫害されてきた」
「獣人であれば生まれた姿は獣であるはずだ、人間ならば生まれた姿は人であるはずだ」
「しかし我々半人半鳥は生まれた時からこのような姿なのだ」
ハーピーは静かに話してくれた。
獣人の国で迫害され、人間の国で迫害され、1番姿が似ているとされた妖精圏に行っても迫害を受け、挙句の果てに半人半鳥は残酷に生物を弄び魅惑し、陥れる生物であると言ったレッテルまで貼られてしまった。
国を転々としていたのはその国で悪さをしたからだと。
「もう……我々は滅ぶしか無いんだ。どこも我々を受け入れてくれない、誰も我々を」
「じゃあここで暮らせばいいじゃん」
話を聞いていたがもしその話が全て真実なら生まれ方が違うってだけであとはなんにも変わんないみたいだし。
いやまぁ! 可愛いからちょっと仲良くしたいとか! そういう下心的なのはないけどね! 本当に全くないけどね!
「ま、まぁあんまり大きくない村……ってえぇ!」
先程まで凛とした顔で佇んでいたハーピーが座り込んで泣いていた。
「えっ! ちょ! どしたの!?」
あれ! 気持ち悪かったかな!? 色々飛ばしすぎた?
いやいきなり来てここに住んでいいよって冷静に考えたらヤバい奴か!?
「あっいやさっきのは」
「嬉しくて……ずっと……今まで誰も私達を認めてくれなくて」
「本当に生きてていいのかなって……もう存在しちゃいけないんじゃないかなってぇ」
……さっきまでの話し方は無理してたのか、舐められないように、下に見られないように。
本当は、この子は拒絶されることが怖いただの女の子なんだ。
「けどここは人間の村でしょ……私達が住んでるなんて知られたら」
「いや、ここは誰の村でもないよ。人間でもエルフでもハーピーでも獣でも誰でも好きにいていい村なんだ」
俺はそう言ってフードを外す。
「騙しててごめんね、俺は人間じゃないんだ」
ハーピーは少し驚いた顔をしたが、それ以上に安堵が大きかったのか静かに微笑んでくれた。
「名前を言ってなかったわね」
そう言うとハーピーは手を差し出した。
「エレナ・ハーレルトよ、よろしくねノーチェ・ミルキーウェイ」
「こちらこそよろしく。俺はノーチェでいいよ」
差し出された手を俺は握り返す。
「あらそう、じゃあ私はエレナでいいわ」
村に30人のハーピーが加わった。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ
始祖蟒蛇Lv3
耐性
痛覚耐性Lv1、物理攻撃耐性Lv4、精神異常耐性Lv5、魔法攻撃耐性Lv3、状態異常無効Lv10
スキル
全知全能Lv1、錬金術(毒特化)Lv8、心理掌握Lv1、人化Lv5、鑑定Lv9、拘束Lv9、転移Lv6、透明化Lv1、取引Lv1、探索Lv9、追跡Lv1、操作Lv1、回避Lv9、斬撃Lv1、神速Lv2、探索阻害Lv4、魔力保管Lv3、不死Lv2、知り尽くす者
魔法
回復魔法Lv8、幻影魔法Lv5、破壊魔法Lv8、火炎魔法Lv8、水流魔法Lv10、水斬魔法Lv5、土石魔法Lv8、土流魔法Lv6、闇魔法Lv6
???
計算Lv9、強欲
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神に出会った者/神を救った者/導く者
クイック・ミルキーウェイ
レッドモールLv9
耐性
物理攻撃耐性Lv5
スキル
探索Lv8、隠密Lv6、採掘Lv8、高速移動Lv9、体術Lv2、集中Lv2、空間把握Lv1
魔法
土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、風斬魔法Lv1
???
食事Lv2




