258話 夜桜戦争・終戦
転移場所は火山、さくらと戦うって決まってから最後の戦いはここにするって決めてたんだ。ここなら大きな衝撃をぶつければ爆発で2人とも死ねる。
「戦う前に……話でもどう?」
俺の言葉にさくらは反応しない。しかし攻撃もしなかった。
「……俺はノーチェ、こっちに来る前は高校生ってのをやってたんだ。まぁ、その話は色々したくないから言わないけどさ」
さくらが動かないのをもう一度確認してから続ける。
「元々男だったんだけど何故か女になっちゃってさ、いやまぁそれはあんたのせいかもだけど……。で色々あって国を作り、滅ぼし、戦い、休み、勝って、負けて……こっちに来てから本当に色んなことをしてきた」
本当に……色々なことを。
「……まぁこんなに長々と話した理由は」
俺はあんたに……心から。
「感謝してんだ、俺を呼んでくれたさくらに。多分俺はあっちの世界じゃこんなに一生懸命になれなかった。人を愛して仲間を作って、その為に死ぬなんてこと出来なかった。それをさせてくれた君に……とても感謝してる」
ケルロスに会えた。クイックに会えた。……他にも大切な仲間達に会えた。
「感謝してるからこそ、あんたのことを今殺す。仲間を守るため……そして恩人を助けるため」
俺はそう言って腰にかけた刀を抜いた。
「さくら……君を世界から解放する」
ザッ!
最初の攻撃はさくらの刀によって防がれた。しかし片腕のないさくらは攻撃に転ずることができない。
「アイス・スピア!」
氷の腕から槍を出す。
「研究部屋」
パキッ!
分解されたか。
「……魔力があったらいつまでも終わらないか」
「高慢王」
俺とさくらの使う魔法の魔力量を最大に引き上げる。正直俺もきついけどこれが一番手っ取り早いよな!
「ダーク・ウルフ!」
「……」
パキッ!!
さくらも氷結魔法使えるのかよ!
俺の作りだした闇の狼たちは全て凍らされてしまった。
「風花!」
俺の使える魔法はあと3発くらいだ。さくらはどうだかしないけどそんなに連発できない……と思いたい。
ヒュウゥゥゥゥゥ!!
今度は風か! しかもこっちにまで!!
「危な!」
さくらの攻撃を何とか避ける。しかし横に避けたと同時に炎が俺を襲ってきた。
「ッ!!」
ボンッ!
「氷の腕に救われたな」
爆発で吹き飛んだけど。
しかしさくらの攻撃は止まらない。ここを好機と見たのか魔法を連発してくる。
「ッ! 本当にまじで!」
魔力を温存する? そんな余裕ないし魔法を使うタイミングもない。さくらの猛攻を避けるだけで精一杯だっての!
「アイ――」
ボンッ!
使わせてすら貰えない! てか近寄れない。これじゃあ弾幕ゲーじゃん! ……弾幕? 待てよ、もしかしたらさくらに近寄れるんじゃ。
バババババババババ!!
ものすごい魔法攻撃……高慢王のせいで威力が上がってるってのもあるけど、それを連発できるさくらの魔力量が半端じゃない。
「くっ!」
今はとにかく防ぐ! 避ける! 戦えればいい! 戦う力が残るなら多少の怪我は大丈夫!
ブシッ! ブシュッ!
さくらの嵐のような攻撃は俺の体を削っていく。蛇の姿になったり色々しながら攻撃を避ける。ボロボロの体にこの連撃……いつ死んでもおかしくないという確信にも似た何かを胸に秘めながらさくらの攻撃をどうにか防ぎきった。
「はぁ……はぁ」
攻撃が止んだ。
ボロボロになった体でさくらを見る。魔法が使えなくなったことが衝撃なのか自分の手を見つめている。
「やっとか」
今のうちに攻撃をしたいところだけど怪我が痛くて体が動かない。
「仕方ない」
回復魔法
「魔力はこれでほとんど空っぽ。この腕を機能させるだけが限界だ。目に関してはついさっき見えなくなった」
って言ってもなんのことかわかんないよなお前には。
「こっからが本場ってことだよ!」
ガシャン!
怪我を治したって言っても完璧じゃない。疲労は残ってるし所々治ってない。
「でも!」
そんなこと考えて戦ってられないんだよ!
ガシャン!! ガチャガチャ!!
激しい攻防戦。さくらも俺も全身から血という命を流しながら戦っている。
俺が死ねばさくらに取り込まれて世界が燃える。さくらが死ねば俺が一緒に死んで世界を守れる。最初から死ぬってわかってる無理ゲーだけどコンテニューは不可! 1回限りの最悪の詰みゲー!
「あぁぁぁぁぁ!!」
痛みを、悲しみを、怒りを、喜びを……全ての感情を声に出してさくらにぶつける。さくらは一言も発しないが俺の事を真っ直ぐに見ている。
バコンッ! バラバラ!
刀が弾かれ吹き飛ばされても俺はさくらに喰らいつく。何度転んでも前を見て刀を振るう。
「はぁ……はぁ……ぐっ」
視界がぼやける。腕に力が入んない。足は棒みたいで骨が折れそうだ。体の奥から軋むような音がする。さくらの攻撃を受ける度に全身がメキメキと悲鳴をあげる。こんなに早く動いてさくらについていけてるのは俺の根性のおかげだろうな。
「まだ! まだまだぁ!!」
途切れそうになる意識、いやもう何度か途切れているかもしれない意識を仲間のことを思いなんとか繋げる。倒れそうになる度にあの地獄を思い出して立ち上がる。
ガチャッ!!
「……」
さくら何も話さない。だが今のさくらの瞳は少しだけ楽しそうで悲しそうだった。
「……死ぬ直前くらい楽しみたいよな」
そう呟き俺はさくらの刀を弾く。カキンッ! と鉄同士がぶつかり合う音がして刀が宙を舞う。俺は刀を手放したさくらに全身全霊を込めて攻撃した。
「さくらぁぁぁぁぁ!!」
ザシュ!!
さくらの心臓に向かって刀を刺す。奥に差し込む度ブシャッ! と血が飛び出てくる。俺はその血を顔に受けながらさらに奥へ奥へと抉り入れた。
「……」
もう魔力は残ってないはずだ。あの魔力で作った刀がなければさくらに攻撃手段は!
ブシュッ!
「ッ!!」
噛み――
さくらが俺の首にかぶりつく。大きな血管を切られたのか俺の首からはプシュッ! と血が溢れ出した。
「ここまで来て……仲間を救えないなんてこと……この俺が認める訳ないだろうが!!」
1度刀を抜きさくらの首に刀を振るう。しかしさくらは刀を腕でガードした。
「なんて……硬さを!」
魔力が回復したのか? これは確実に魔法だ……この一瞬の攻防でどうやって……。
ポタ……ポタ
まさか!
ジュル……ジュル
俺の血を飲んで魔力を少しだけ回復させたのか!
「この!」
ブシッ!
さくらの腕に刀が入り込む。しかしそれと同じく俺の首から血が奪われる。このまま続ければ魔力が回復してさくらに勝てなくなってしまう。
「くっそ!」
ガシッ!!
俺はさくらの足を引っ掛けで地面に押し付けた。その衝撃で刀が地面に変な角度で入り先端が折れる。
パキンッ!
「はぁ……んん!!」
ブシュッ
無理やり地面に押し倒したさくらの肩に歯を突き立てる。
「こ……の!」
ジュル……ジュル!
こうなりゃどっちの血が先に無くなるかの勝負だ!
「くっ!」
「……」
折れた刀をさくらの首に届かせようと力を入れながら血を吸う。さくらもそれに反応して首から血を摂取する。
「んっ! ぐぅぅ!」
「……」
一瞬にも何時間にも思える戦いの最中、ほんの少しだけさくらの噛む力が弱くなったのを確認した。俺はその隙を見逃すことなく勢いよく立ち上がった。
「今ぁぁぁ!!」
魔力は回復した! このまま刀に魔力を纏わせて首を落とす!
ガシャン!!
「この! お前!!」
さっき俺から吸った魔力で新しい刀を作ったのか! これじゃあ振り出しに戻っちまう!
「くっ! うぅ!」
ジリジリと押し返される。というか刀が折れてるぶん、俺の方が不利だ……この体勢から絶対に動かしたらダメだ! もし最初に戻ればこんなこと二度と起きない! 今だ! 今しかさくらを殺せない!
ポトッ
「……」
何かが落ちた……あれはイヴィルがくれた御守り。
パキッ!
気を取られたのかさくらの刀が俺の刀に押されて真っ二つに折れていった。
「っう! うらぁぁぁぁぁ!!」
さくらはギリギリで腕のガードをしたが魔力をまとった俺の刀にそれは無力であった。
「このまま落とす!!」
ザシュッ!!
俺の刀はさくらの首を通っていった。確実に落としたと思った……しかしさくらは俺の刀が通るギリギリで地面を蹴り俺の足場を崩して刀の軌道をずらして致命傷を避けたのだった。
「ここまでしても……まだ!」
バランスを崩したついでにさくらを立たせしまった。刀はもう……使えないか。
カラン
折れた刀を地面に置いてさくらを見る。さくらも武器は作らずに俺の事をまっすぐ見ていた。
「……確かにここまで来たのはすごい、でも両腕がない状態でどう戦う」
まぁ俺も片腕もうないけど。
ピチャ……ピチャ!
俺の腕は魔力切れを起こしもう肘くらいまでしか氷が残っていない。
「……」
ザッ……ザッ
さくらがゆっくりと近づいてくる。俺はそれに合わせてるようにゆっくりと歩みを進めていった。
「……」
「……」
さくらも俺も体から血を流しボロボロの顔と服で歩いている。2人とももう戦う力なんてほとんど残っていない。
「……」
「……」
ザリッ
2人を動かすもの……それは仲間への思いだった。
「俺の道は」
「私の道は」
「「仲間で出来ている」」
俺は真っ直ぐな目で、さくらは涙を沢山溜めた目で言った。
「……魔力はもう残ってない」
「……」
でも一つだけ……残ってる。
「星紅刀、代償は俺の命……全ての魔力を解放しろ」
魔力の一斉解放、使う魔力を指定すればその能力を使うことが出来るが星紅刀に集められた魔力を全て解放することになれば起こるのは魔力の暴走だ。
「なにか……言い残すこととかある?」
「……」
さくらは何も言わない。さっき喋ったと思うんだけど気のせい? いや……まぁどっちでもいいか。
バタッ!
「はぁ〜」
俺は痛む体を地面に転がして空を見ながら言った。
「みんな……大好きだよ」
他にもいろいろ、言いたいことはあるけどそれはみんなに向けて書いた手紙を読んでくれればわかるから。でもそうだなみんなの手紙に書いてないことを言うのであれば。
「俺はとても幸せ者でした」
俺はそう呟き白い爆発に包み込まれた。