251話 夜桜戦争・葛藤
ガシャン! カチャカチャカチャ! バンッ!!
「……シオン」
「ん? どうしたノーチェ」
「……なんでもない」
そうか……悪かったなシオン。安心してくれ……俺もすぐそっちに行く。いや……俺じゃあ不満か。
「戦いに集中しろノーチェ! 物思いにふけって勝てる相手じゃない!」
「わかってる!」
さっきから決定的な攻撃は全く入ってない。というか反撃がいちいち重たいから攻撃する隙を与えないようにしているだけでいっぱいいっぱいだ。
「このままじゃ魔力切れか体力が尽きて負けるぞ!」
「それもわかってる! もう少し……もう少しなんだ!」
ドル……少しだけ急いでくれ!
「ドルさんまだですか!?」
「すみません……もう少し!」
トロリアットがドルを急かす。後ろではコゼットとシュティア、そして星天守衛六将が落ち着かない様子で待っていた。
「全くリーベさんはこういうところだけ真面目なんですから!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですから!!」
「まぁ! まだまだ戦えるけどね!」
「アイス・ホーネット!」
パシュパシュパシュ!
「こっちも魔力は残ってる!」
とはいえゼロのことを確認する余裕はなくなりつつある。戦意喪失しているように見えるが何をするかわからないからな。
「はぁぁぁぁ!!」
セナの攻撃もだんだん雑になってる。いくら六魔王とはいえあれだけの攻撃を繰り返していれば疲れも出てくる。というかあれに余裕で対応出来るさくらってまじでバケモンだな。
「そんで問題はもうひとつ」
今のさくらはゼロが作った依代の中に入っている。そしてゼロの作った依代にはひとつめんどくさい細工がされている。それは魔力吸収……本来魔力は自分で作り出すもの。自然から得ることも可能だがそれは難しい上にリスクも高い。俺は支配者があるから簡単に、そして効率的にできるがあれがなければ相当に辛い部分がある。
それをさくらはノーリスクでやっている。戦っても戦ってもさくらの魔力は尽きない。それをみんなに話した所……ドルにそれに対処する方法があるかもって話だったんで希望を託したんだが。
「ノーチェ」
「あぁ」
久々に厳しい戦いだ。いやいつも厳しいな。
「ッ! ノーチェ!」
ガチャン!
セナの攻撃を避けて俺を攻撃してきたか……そうか俺の中にあるさくら自身の魔力に気付いたのか。
「フロスト・ステイ!」
バッ!
地面に貼った魔法を避けたな。
「フリーズ!」
魔法を載せた無数の糸は目に見えるものから見えないものまである。これを避けるのは不可能だ。
「……レイ」
ピシャ!
「なっ!」
「うわっ!」
光……一体何が起き――
バコンッ!!
「ごっ!」
腹部に衝撃……蹴られたのか? くっそ眩しくて見えなかった。てか今も目が眩んでる。
「アイシクル!」
無数の氷柱で時間を稼ぐ。とりあえず今は防御に専念しないと。
「ブレイク」
パキッ!
「ッ! 防御も意味ねぇのかよ! アイス――」
「堕落王」
七獄スキルで距離を詰めてきた! この角度じゃ防げない!
「完全反転!」
「……怨嗟王」
フルフリップを無効化された!? まずい直撃する!
「飽食王!」
セナ!?
「ノーチェが殴られるって事象を吸収した」
「ありがとう」
セナがいなかったら俺は今頃どうなっていたことやら。
「この感じ……あいつは全部のスキルを使えると考えていいかもしれない」
「まじ……それチートじゃん」
尽きない魔力に揃った七獄スキル。これに勝てって一体どうすれば。
「ノーチェ様!」
俺は声がした方を見る。そこにはドルを背負ったトロリアットが立っていた。
「トロリアット!」
「何とか間に合いました! ドルさん!」
「はい! 奴隷宣言改良版! 魔力奴隷!」
ドルが小さい箱のようなものに付いたスイッチを押す。するとその箱は紫色に光周囲の魔力を吸い取っていった。
「これはリーベ様が作られた魔道具! 周辺の魔力を魅力して集める機械です!」
本当に……リーベさんは
「凄い人だよ!」
「厄介でもあったけどね!」
セナの反応に笑いながら俺達はさくらに突撃していった。
戦場から大きく外れた廃墟
「……」
「やっぱり実力は拮抗してるな」
カーティオが私のことを見ながらつぶやく。
「拮抗? よく言うわ……さくらの力を少しだけ貰ってるぶん」
ポタポタポタ
「あんたの方が強いわよ」
肩から流れる血が腕を伝い手に届いて地面に落ちる。正直魔力量に差はなくても攻撃の一撃一撃が違う。あっちはこっちの攻撃喰らっても平気だけどこっちは一撃貰っただけでこのザマ。本当に世界って理不尽。
「最初からこうなるとわかっていて何故他の奴らに声をかけなかった」
カーティオの質問に私は髪を整えて答えた。
「たしかに……私も考えた。みんなを呼んで数の力であんたを圧倒しようと。でもそれは違うと思った。なぜなら私はあんたの異変に気付きながら知らないふりをしていたから。せめてあんたに真意を聞き出すなりノーチェに相談するなりすればよかった」
「要するにこうなったことに対する贖罪ってことか」
「……そうでしょうね」
私がもっと上手くやっていればこんなことにならなかった。私が逃げていなければノーチェは悲しまずに済んだかもしれない。私が強ければカーティオにこんな選択をさせなくて済んだかもしれない。
「私はね……国のみんなに本当に申し訳ないと思っているのもちろん……貴方にも」
それを聞いてカーティオは一瞬怪訝そうな顔をして言葉を返した。
「嘘だな」
「本当よ」
「陽動作戦か?」
「違うわ」
「俺は裏切り者だ」
「裏切らせたのは私よ」
一息置いてカーティオがまた口を開く。
「お前……頭がおかしいのか?」
「おかしくなかったら自分の主人を3000年も世界に縛らないから」
ガシャン!!
「この騒動の発端はゼロでもなければさくらでもない。この私の一言よ」
「……一言」
「さくら様と一緒にいたい」
この小さくて大きな一言がこの世界にさくらという存在を縛り続ける枷になってしまった。
「シック・アメーバ!」
「カース・レイン!」
雨で全部撃ち落とされた。やっぱり数だけの攻撃じゃ当たりもしないか。
「……俺は間違って居ないはずだ」
雨に濡れながらカーティオが言った。
「お前は主を無くしたくないから世界に閉じ込めた。俺は主と居たいから復活を願った。俺とお前の願いは一緒のはずだ。……俺はお前なら理解してくれると思っていたのに」
悲しそうな目……雨で分からないが泣いている気もする。
「……えぇ最初は思ったわ。でもね違うのよ……私が求めた、私達が求めたさくらって存在は3000年前にしか居ない。形を変えて縛っても……無理やり蘇らせても、それはさくらではない。さくらの形をした別の何かよ」
「違う! さくらは俺達の!」
「あれがさくらに見える?」
遠くでぶつかり合う魔力反応を見ながら言う。カーティオはそれを見て言葉を失っていた。
「あれは殺戮をすることしか出来ない獣……あんな状態でもあれはさくらだって胸張って言える?」
「うるさい! 俺は認めない! さくらは死んでない! 俺の……俺の目標は、俺の憧れは死なないんだ!!」
カーティオの叫び声が廃墟に響く。カーティオの魔力が一点に……そう、これで終わりにするのね。そして私たちは最後の魔法を用意した。
「……アース・インパクト!」
「ホーリー・セレスティアル!!」
大地をひっくり返すような衝撃に私は全てを薙ぎ倒す風魔法で勝負に出た。
パラ……パラパラ
「終わったか」
正直こっちもギリギリだった。威力的に少しでもこっちがしたなら腕だけじゃなくて体半分持ってかれてた。さすがはペスラ……だけど勝ったのは俺だ。さくらはこれから俺と一緒に。
バコッ!
地面に生体反応!?
「カーティオ!!」
「お前!」
右腕で攻撃を防ごうとするが魔力がほとんど残って居ないためか体がふらつき尻もちを着いてしまった。
「ッ!」
ザッ!!
「な……んで」
「……」
「どうして止めた!」
足に力を入れてペスラの胸ぐらを掴もうとする。しかし魔力も体力も限界に達していた俺の体は全く言うことを聞いてくれなかった。