250話 夜桜戦争・恋慕
「ライトニング・アロー!!」
「鳥火炎!」
「ホワイト・スラッシュ!」
私たち3人の攻撃……はまぁ当たるはずもなく。クレアシオンに届く前に消えてしまった。
「煩わしい」
でもクレアシオンが高度を下げた。作戦通りだ。
「エリーナさん!」
「任せなさい!」
シャルがそう言うとエリーナは使っていた弓を起き、背中につけた新しい弓を取り出した。
「雷鳥の弓!」
エリーナがそう叫び魔力を込めると弓がバリバリと稲妻魔法を纏った。
「何それ隠し玉?」
「そう……隠し玉、これはもっと後で使うつもりだったんだけど……その予定も無くなったから、持ってきた!」
何に使うつもりだったのかはあえて聞かないようにしよう。
「さぁ降りてきなさいデカブツ!」
言葉は雑に聞こえるが近くにいる私たちはわかる。あの指1本1本に込められた魔力らとても丁寧で繊細だ。これが普通? 私はただの村娘? 笑わせるよ。
「……ロード」
「虎鳴!!」
ガルッ!!
エリーナの放った矢は飛ぶようにクレアシオンへと飛んで行った。
「ふふっ……ばぁん」
指鉄砲を作りそう言った瞬間クレアシオンの顔に攻撃が当たった。
「まぁ当たったところでそこまで威力ないんだけどね……という訳であとは頼んだよ〜」
「任せて!」
「あいさ!」
さっきの稲妻魔法は囮、本命はその更に上へと放った神聖魔法。
「シャルちゃん完璧だよ!」
「ありがとう!!」
クレアシオンの頭を取った!
「そうか……そこか」
「もう遅い!!」
この攻撃は絶対当てる!
「ホワイト・ラン!」
速度アップの魔法、ありがとうシャルちゃん!!
「牙黒炎!!」
黒い炎を纏った獣は全てを貫き燃やし尽くす!
ボウッ! バコンッ!!
「これしき!」
「まだまだぁぁ!!」
火力をあげる! この魔法は火力が高い代わりに速度が遅い。それに発動に時間がかかる。それをみんなが助けてくれた。時間はエリーナが稼いでくれた。速度はシャルが助けくれた。あと私ができることは一つだけ!
「お前を倒すことだけだぁぁぁ!!」
ボウッ! ボ……パァン!!
「あぁぁぁぁぁ!!」
「この程度の攻撃……今まで何度も喰らってきたわ!!」
尻尾が!
「レリクイア・ランス!」
シャル……
「フィーちゃん!!」
「わかった!」
前だけ見る! 倒すことだけ考える! クレアシオンはみんなが止めてくれる!
「邪魔しないでくれる? せっかくうちの若い2人が戦ってくれてるんだから」
「エレナ!?」
私が驚いているとエレナはウィンクをして笑ってくれた。
「応急処置してきたの! みんなが頑張ってるのに私だけ休んでるわけにいかないからね。そんでもって! エアロ・クロー!」
「私もいるけどね!」
エレナの後ろから現れたのはルルだった。もう既に満身創痍な感じがするけどルルは魔力を込めて攻撃を放った。
「幻百景!」
「そんな精神攻撃が!」
「わかってるって……同じ六王だもんね!」
大きな花が空から降ってきて……
「メテオ・バースト!」
溶岩魔法!? 幻想魔法で隠してたのか。
ジュウ! ジュジュジュ!!
「ッ! 貴様らぁぁ!!」
クレアシオンの弱点は図体のデカさ……たしかに大きいことは強さだ。1体1ならどうしようもないだろう。でもこれだけ人数がいればこの大きさは逆にハンデとなる。
「動くな! 安心しろって! しっかりトドメ刺してあげるから! という訳で総隊長さん! 頑張って!」
こっちに丸投げ!?
「わかったよ!!」
この戦いに一片の後悔も残さない! 全部ぶつけてやる!!
「煌閃龍!!」
赤と黄を纏った龍は衝突した全てを溶かす!!
「爆ぜろぉぉ!!」
私はこの攻撃に全部を捧げるだから勝ってよノーチェ!!
ギギ……ギギギギ! バコンッ!!
「今だ! 怨嗟王」
龍の向きを少しだけずらす! でも弱った防御魔法に全部ぶち込めば砕ける!
「落ちろクレアシオン!」
「黙れ獣人風情が!」
「獣人だけじゃないから!」
シャルちゃん!!
「そこね! ガスト・バーン!」
風斬魔法と火炎魔法の合わせ技……さすが勇者。
「ありがとう!」
パキッ……パキパキ!!
「馬鹿な……たかが人間と獣人が、龍である俺を」
「そういうの本当に流行んないわよ」
「そうそう……だって私の国の王様は蛇さんだから!」
エレナの乗ったエリーナが微笑みながら言う。そして弓を引いて最後の攻撃をした。
「スパーク・サーペント!」
バリンッ!!
「砕けた! 行けぇぇぇ!!」
ジュッ! ボウッ! バチバチバチバチ!!
私たちの放った攻撃は見事クレアシオンに直撃した。クレアシオンは右の翼を折りながら地面に激突した。
「やった?」
「様子を見に行くわよ」
エレナに拾われた私達は地面に落ちたクレアシオンの様子を見に行くことにした。
「確か……この辺に」
「これじゃない?」
エリーナが指さす先には大きな穴が空いていた。
「うーん……奥は見えない」
「魔力反応は?」
「大丈夫そうだぞ〜」
これで……これでようやくあいつの事を
バコンッ!!
「なっ!」
「うっそ!」
魔力反応はなかった! なのになんで!?
「こいつ!」
あの魔力は偽物!? こいつ元々魔力が!
「俺は昔から魔力がねぇんだよ!!」
まずい……避けられない! 魔力も使い果たしてる……。直――
「すまん……準備に手間取った」
「ワシがいなかったらどうするつもりだったんじゃ」
「いや〜ごめんなさい」
カチッ!
「まさか、これを使うことになるとはね」
「これか!? これは魔弾砲! この部分に魔力を込めることでとんでもない爆発力を持つレーザーが充填される。その威力は一国を滅ぼすことすら!」
「封印で」
「さぁ! 魔弾砲発射じゃ!」
キュィィィィィィン!
「あばよ六王」
ケルロスの言葉と同時に国ひとつ滅ぼす砲弾がクレアシオンに向けて発射された。
バンッ!
魔弾砲は地面を抉り空気を切り裂き人の姿をしたクレアシオンに直撃した。しかしそこは六王と言うべきか防御魔法を貼りギリギリの所で耐えている。俺とケルロスはこの武器の魔力充填で動けない。フィー達も限界のはずだ。これで決めるしかない!
「終わりだ! もう終わりなんだよクレアシオン!」
「まだだ! 俺はまだ終われない! 俺はまだ終わらないんだよ!」
まだだ……俺はこんなところで終われない。俺は強く……賢くないとダメなんだ。俺は……俺は!
「魔力のない龍なんてどこにいんだよ!」
「シオンは欠陥品だな」
「お前なんて直ぐに死んじまうよ!」
いいや! 俺は生きてる! 俺は強い! 誰よりも強いんだ! ゼロよりもノーチェよりも!
「シオン……お前は戦うな」
「前に出ちゃダメよ」
「君はこのままでいいんだよ」
良くない! 誰よりも強く! 誰よりも頑張って俺は! 俺は! さくらの……さくらさんの隣に!
「また怪我してる」
「違うし! これはそこで転んだだけで」
「はいはい……強い男は言い訳しないもんだよ」
「うぅ……」
美しい女性が小さな龍の顔を拭く。
「汚れも酷い……シオンは綺麗な色の翼してるんだから大切にしないと」
「そんなこと……」
「褒め言葉は素直に受け取るの」
「……」
シオンは黙ったまま俯いている。しかし耳まで真っ赤だ。
「……ねぇシオン。なんで君はそんなに頑張るの?」
「それは!」
そこまで言いかけたシオンは何かを考えてから言うのを辞めた。
「それは?」
「……惚れた女を守るために」
「ん? なんて?」
「……ッ!! うるさい! 別になんだっていいだろ!」
顔を真っ赤にしながらシオンはそっぽを向いてしまった。そんなシオンに美しい女の人は顔をそっと手で触りながら言った。
「シオン、無理はしないでね。魔力がなくてもシオンはシオンなんだから。私はね……傷付くシオンを見ているととても」
悲しいよ。
「さくら……」
パキッ! バキンッ!!
「よし当たっ……」
あいつ……笑って。
「……そうか」
俺はさくらがいなくなったあの日から……終わっていたんだな。
「……」
体の半分以上……顔と足がくっ付いているのが不思議に思える程の怪我を負ったクレアシオンは倒れた状態で息絶えていた。しかし……その顔は少しだけ悔しそうで……少しだけ満足そうだった。