248話 夜桜戦争
さくらとノーチェが衝突する少し前。
ガチャン!!
「2対1でもこれかよ」
「いや、よく持ってる」
「嫌味にしか聞こえないねぇ」
早くノーチェの助けに行きたいのに!
「魔王ってのは本当にめんどくさいな!」
レリアのことを足止めしてるだけで十分な戦果ではあるがそれだけじゃ何も変えられない。俺はまだ……ノーチェが死ぬことを認められてない!
「……死ぬと決まっている者のためにそこまで命を掛けられるのか、本当に不思議で仕方ない。生きている者のために死ぬ気で戦うのはわかる。しかしどうしてこれから死ぬと分かりきっている者の為に命を使える」
「死ってのも色々あるからね……ノーチェはその死に方でこれからの世界を帰るらしい」
クイックがそういうとレリアは軽くため息をついてから弓を引いた。
「やっぱりお前達が理解できない」
「してほしいなんて言ってないよ」
バシュ!
放たれた矢は途中でバラバラになり飛んでくる。1本の矢を何本にも分けるなんてどんな魔法使ってるんだか!
「土波!」
だけどさっきから遠距離攻撃は全てクイックに弾かれてる。それでも攻撃を続ける理由はなんだ?
「……」
……試してみるか。
「ケルロス!?」
俺はレリアの矢を綺麗に避けていく。あっという間にレリアの近くまで行ってしまった。
「……」
「お前、その足」
動きが鈍いと思っていたら……こういうことか。
「……俺はこの戦争、正直どうでもいいと思っている。だからゼロの」
「そいつの為に魔力を」
ボロボロになった足を見て俺は剣を下ろす。しかしレリアは弓を構えた。
「同情は不要だ。それに俺はゼロに恩がある。こうなることも理解の上でこの戦いに出向いている。そしてこの距離まで近付き敵の弱点を見つけたなら即座に殺すべきだ。ノーチェやリーベじゃないんだ。お前ならそんな判断もできるだろ?」
「……ノーチェに聞いた話だとお前は静かで滅多に話さないと聞いていたが今回は随分と話すんだな」
それを聞いたレリアの顔が少し不機嫌そうになる。
「お前たちの狙いはなんだ? ここまでして人を蘇らせて何になる」
「俺達の狙いはハナという人物を生き返させるそしてその人物を蘇らせるのに必要なのがノーチェ・ミルキーウェイなんだ」
「ノーチェの腕さえあれば問題なかったんじゃないのか?」
「いいや、ハナの完全復活にはノーチェの体が必要らしい」
……少し話が違うな。ノーチェは腕さえあれば蘇らせることができるって言ってたのに。そしてゼロがノーチェを殺すのはあくまで邪魔な存在であるから。
「おかしい……話が噛み合わない」
「? 何を言ってる」
「依代はもうあるはずだろ? それに腕があればハナは蘇らせることが出来るはずじゃ」
「俺もそう聞いていた。しかしやはりあれでは足りなかったようだ」
なんだか、嫌な予感がするな。
「クイック! 少しだけレリアを抑えててくれ俺はノーチェに報告を!」
バコンッ!
「なるほど……お前たちの焦りの理由がわかったよ。あの化け物が生き返ったんだな」
落ち着いた様子のレリア、何故そんなに落ち着いて居られるのか疑問はあるけど今はそんなこと気にしてられない。
「遅かった! 早く何とかしないと!」
「……足掻く必要があるのか? どの道あの化け物には勝てない」
レリアが弓を捨ててゆっくりと座り込む。
「なんのつもりだ」
「言った通りだ。どうせあいつには勝てない。さぁ、早く俺を殺すなりなんなり好きにすればいい」
……絶望した目。いやこの目は前からだったな。
「死ぬなら勝手に死んでくれ。今はお前にトドメを刺す時間も勿体ない。まぁ……ノーチェならお前も助けたのかもしれないけどな」
作戦も何もかも意味が無い! これじゃあドル達の動きもどうすればいいのか。
「クイッ……ク」
なんだよあれ。
「いやぁ……本当に、最悪だね」
でかい龍……クレアシオンか。
「フィーとシャルの連絡は……」
「ないね……」
どうする、どっちの対応をすればいい。俺は……一体。
「任せたよ」
ノーチェ……
「俺たちはクレアシオンの対処に向かう! 作戦は予定通り決行!! ドルたちはノーチェの助けに向かう!」
「わかった!」
元気よく返事をしてくれたクイックはクレアシオンの方へと走っていった。
「……」
見えなくなりそうなクイックを横目に俺はレリアに短剣を渡した。
「好きにしろ」
そう一言だけ伝えて俺もクレアシオンの元へ走っていった。
「好きに……」
刀がぶつかり合い火花が散る。魔力で作られたはずなのに何故こうも硬いのか不思議だ。
「……」
「なんていうか……こう真正面から戦ってるあんたを見てると悲しくなるよ」
俺の言葉は届いていないのかさくらは全く躊躇せず刀を振るう。
「やっぱり……タイマンだと分が悪いな!」
そう言うと同時に刀を弾く。少しだけよろけた瞬間俺の後ろから槍が飛んできた。
「本来僕はハナの体にさくらを入れる為にハナの暴走を抑える役だったんだけど……ちょっと予定が変わったみたい?」
「あぁ、でもここまで温存させといて良かったよ!」
バキッ!!
魔力で作られた刀が割れた! これなら勝機も見えて――
シュッ! シュシュシュシュ!!
「……ごめんちょっとそれはきついわ」
さくらの周りには魔力で作られた刀が大量に現れた。
「あははは、世界を焼き尽くした化け物ねぇ……これは本物だわ」
余裕そうに見えるセナだがその頬には汗が伝っていた。
これを殺す……できるか俺に? いや、違うやるんだ。俺がこいつを倒さないとみんなが安心して暮らせないんだ。
「フローズン・ショット!!」
氷の粒を周りに作りぶつける技、威力はそこまでないが。当たった物体や魔力を凍らせる特殊な魔法だ。
「刀は俺が何とかする! セナは!」
「わかったぁ!!」
俺が全てを言う前にセナはさくらに突っ込んで行った。敵のセナは酷く恐ろしかったが、味方になるとここまで心強いものだとは思わなかったな。
「覇突流! 雨!!」
雨のような槍さばき、本気かどうかはさておいて魔王の中でも武闘派、タイマン最強はセナと言わしめるだけはあるな。
「アイス・ショット!」
さくらの左手に魔力がこもっているのを確認した。まぁ普段なら、こんなセリフ吐かないけど今はちょっとカッコつけたいから言わせてもらうよ。
「させないよ」
それを聞いたセナは少し嬉しそうに微笑んでからさらに攻撃を激しくした。
「覇突流! 嵐流舞!」
……てか俺と戦ってる時は本気じゃなかったなあれ、全く本当に戦闘狂なんだから。
「……」
あとは
「いつまでそうしてるつもりだゼロ」
「俺は……俺は」
さっきから後ろでぶつぶつと何かを言い続けている。ハナ復活を誰から聞いたか知らないがゼロに取ってかけがえのないもの存在を利用したんだ。こうなっても文句は言えない。そう、文句は言えない。ゼロが魔王じゃなければ。
「早く立てゼロ……お前はさくらが嫌いなんじゃないのか?」
「……さくら」
俺の一言、と言ってもさくらに反応しただけだな。
「ほら、目の前にちょうどさくらがいる。あいつを倒したいとは思わないのか」
「……」
黙ってしまうゼロ、しかし目はちゃんとさくらを見ていた。
「……思わないか」
「……」
そりゃそうか、だってゼロはさくらのことを恨んでないだろうからな。
「……」
みんなにゼロがさくらを恨んでいるから転生者の事を殺していると言ったのはまだ少しだけ確信を持っていなかったからだ。本当に恨まれてもおかしくないことはしているからな。でも今、ゼロの反応を見てわかった。こいつはさくらを俺の事を恨んではいない。
「知ってたんだろ……全部、ハナを殺したのがさくらじゃないこと、世界を燃やしたのもさくらじゃないってこと」
俯いたまま何も答えないゼロに俺は話を続ける。
「……お前は本当に昔からバカ真面目だな」
ようやくそれを聞いてゼロが俺を見た。
「こんなきつい役職、とっとと他のやつに任せればいいのに。何度も何度も俺の事殺してさ。本当に……キツかっただろ」
転生を繰り返したさくらを殺していたのはゼロだ。しかしその全てをゼロ自ら行っている。そこに理由があるのかどうかはわかんないけどゼロは今まで自分の大切な人が愛していた人を殺し続けたことになる。
「もうここまでだ。俺が終わらせる。お前は十分な傷付いた。お前は十分やりきった。もう……休んでいいはずだ」
その言葉を聞いたゼロは静かに剣を手放した。