246話 友を選んだ少女
ガチャン! カチャン!!
早い……それに太刀筋が全く読めない。ある程度決まった流れってのがあるもんだが……こいつにはそれがない。
ガチャン!
「お前は……一体」
「……」
何も喋らない人型は剣を右手に添えて少し体勢を低くした。
何をするつもりだ?
バシュ! ……ブシャ!!
「ッ!?」
斬られたのか!? 全く見えなかった。魔力探知にも引っかからなかった。一体なんだ……何が起きた?
「レオ!」
「馬鹿野郎! こっちに来るな!!」
ザシュ!!
こちらに向かって歩いてくるリリュクに一瞬で追いつき人型はリリュクの体を貫いた。
「リリュク!!」
あの距離感を一瞬で!? まずい! こいつはさっきのデカブツよりやばい!
「戦えるやつは全員来い! こいつを倒すぞ!」
俺の声を聞いた友人達が人型を囲む形で集まった。それぞれ得意な距離感を保ちつつ動きを見ている。
「ッ!! ナツ! 右だ!!」
アゼルの叫び――
バンッ
「サンド・ウォール!!」
「あ、ありがとう」
「感謝してくれてるのは嬉しいけど……もう」
ギリギリで攻撃を防いだヴィオレッタだったが砂の壁は人型の剣によってバラバラに砕かれてしまった。
バッ!!
「キャンディ・ナイフ!」
べチャ!
人型の動きを止めた! 足に飴のナイフを刺したのか、しかもベタベタのせいで簡単には抜けない!
「ナイスよリリュク!」
ナツの弓に魔力が溜まっている。あれは相当な威力になるな。
「雷光百式!」
パリッ! バリバリバリ!!
当たる! 俺は心の底からそう思った。しかし戦いとは予想外の連続、思い通りになるとは限らない。
ピシャッ!!
人型はナツの攻撃を片手で簡単に弾いてしまったのだ。
「手……で」
「ナツ……逃げ! がふっ!!」
「アゼル!」
バコンッ!!
アゼルの吐血に気を取られていた瞬間……人が殴られたとは思えないような鈍い音が辺りに響いた。
「ナツ!!」
グジュ!!
人型に殴られたナツは地面を転がり血を吐いている。
「がっ!」
次はカガリかよ!!
人型は止まることなく次の標的を見つけて走り出す。
「サンド――」
魔法詠唱よりも早くチグリジアのことを!
バキッ!!
「ぐはっ……あ!」
人型はチグリジアのことを掴み俺の方へと投げつけてきた。
「ッ! おま――」
チグリジアのことを掴もうとした瞬間に俺の目の前は何かで覆われてしまった。
手が――
「レオ!!」
グシャ!
俺は人型に顔を掴まれそのまま地面に叩きつけられた。まともに受身を取れなかった影響で身体中が痛み、後頭部には今まで味わったことがないような激痛が襲う。
「かっ……あ」
やべぇ……体が動かねぇ。指1本すら……
まずい! レオがやられた! この中で1番の実力者であるレオが勝てないなんて……一体。ううん、今はそんなことを考えてる場合じゃない。早く2人を助けて体制を建て直さないと
「キャンディ・ボム!」
これで動きを――
「違う! 右だリリュク!」
アゼルの声が聞こえたと同時に右を見る。しかしもうその時には私の目の先に剣が向いていた。
「キャンディ・ガード!」
ザシュ!
「はぁ……はぁ」
「……」
やられた。
「リリュク……目が!」
「大丈夫、このくらいならまだ戦える」
右目を潰された。めちゃくちゃ痛いし、あぁこれからの生活大変だろうなぁ。
「まぁ……でもこれで貴方は動けないよね」
パキッ!!
「ッ!?」
「驚いた? 私の目を攻撃する瞬間ガードとは別で目に飴の膜を作ったの。相当魔力込めたから簡単には外れないと思うけど」
人型は必死になって腕を引き抜こうとする。しかし私の全力の魔法……そんな簡単には壊させない!
「ウィグ! キャネル!」
私の声に反応した2人が追撃をする。
「十速打!」
「カース・スカイ!」
当たった。タイミングも良かった。これで何とか。
ザッ!
人型は何事もなかったようにその場に立っ ていた。
「嘘……」
「無傷かよ」
「あははは……きっつ」
どうする……もう戦えるのはこの3人しかいない。逃げる? いやみんなを運ぶのには魔力も体力も足りない。理事長はどこにいるのかわかんないし……こいつを3人で。
「無理……」
無理……できない……諦める。私は今まで色々なことを諦めてきた。でも諦めない大切さと何とかなるかもしれない可能性を先生から教わった。だからまだ折れない。
「……2人とも、とっておきってある?」
2人は目を合わせたあと静かに頷いた。
「わかった……どうにかして私が動きを止めるから、全力で攻撃を叩き込んで」
「任せろ」
「わかった!」
元気な返事を聞いたあと私は先生から貰った杖を取り出し魔力を込めた。
「全部の魔力をこの杖に注ぐ! これが私の全力だ!!」
水色と赤、そして紫の魔力が杖に集まる。集まりきった魔力は色を白に変えて私の攻撃となる。
「飴波!」
飴による物量攻撃、これだけの飴があれば避けることも。
「……」
なっ! 剣を犠牲に足場を! あれじゃあ飴の波も意味が!
人型は勝ちを確信したような様子で私に迫る。でも私は色々な戦いで学んだ。……相手が勝ちを確信したその時こそが最も奇襲が決まりやすいって。
「キャンディ・ローズ」
「ッ!!」
「油断したわね……そう、あれは罠。本命はこっちだよ!」
私が説明を終えると共に2人が後ろから現れた。って2人とも本気出しすぎでしょ……ウィグはそのでかい弓何!? あとキャナルは赤黒い魔力を全身に纏いすぎ! でもこの感じ……いけるかも!!
「バーン・メテオ!!」
「呪い堕ちろ……腐り堕ちろ……呪式降伝! 白蓮華!!」
真っ赤な矢に真っ白な花が人型を襲う。動くことは出来ない。ただ攻撃を受けるしかあなたにはできない!
バコンッ!!
「凄い砂埃ね」
「あぁ……はぁ、はぁ、もう魔力が」
「私もすっからかんだわ」
2人ともよく頑張ってくれた。正直ここまで上手くいくとは思ってなかったし2人の攻撃がこんなに強いとも思っていなかった。でも……現実ってのはあんまりにも残酷だね。
「……リリュク、一応聞くけど策は?」
「そうね、命乞いでもしてみる?」
私の冗談を聞いた2人は軽く笑ってから武器を持った。
「みんなを連れて逃げて」
「お前の能力なら全員運べるだろ?」
武器を持った2人がそういうが私は後ろに下がることなく前に出た。
「ふざけないで……ここを突破するにはあいつを倒す以外ないわ」
「いいや無理だ……あれだけの攻撃を受けて無傷なんだ、時間稼ぎすら怪しい」
「待って! それじゃあ私に友人を見殺しにしろって言うの?」
「そうじゃないわ……救える命を救ってって言ってるの」
キャネルが落ち着いた口調で答える。
「断る……私は絶対みんなで」
「みんなで……ねぇ。そりゃまぁ随分と夢みたいな話だ」
私たちは声のする方を見た。そこにはボロボロになりながら笑っているチグリジアが立っていた。
「チグ……」
「気絶してたんじゃ」
「あんなに騒がれたら誰でも起きるよ」
右足を引きずりながらゆっくりとこちらに来る。それを見て私は手を差し出そうとしたが魔力の限界で腕すら上手く上がらなかった。
「無理しなくていいよ……どの道私はあなた達に手を取ってもらえるような人間じゃないから」
「そんなこと!」
「優しいのね……まぁその優しさは別の人に取っておきなさい」
優しい笑顔を浮かべたチグリジアは……その顔は私たちがよく知っている教室にいる……チグリジアだった。
「……さぁ化け物! 私の友達に手を挙げた罪は重いからね!!」
ボン! ボンボンボン!!
しかし戦いになると私たちにも見せて狂った笑顔を浮かべながら人形爆弾を投げていた。
「ブレイク・ボム!!」
ボンッボンッ!!
あぁ……何やってるんだろうな私。友達殺して国滅ぼすために戦いに来たのに、主に逆らって友達守るために戦ってる。もう自分でも訳わかんないよ。
ブシュ! ザシュ!
早い……しかも痛いし。
「チグリジア!!」
敵わないってこともわかってるのに、なんで戦ってるんだろう。意味無いってこともわかってるのに……本当になんで。
「トライアングル・ボム!」
パンッ! ボンボン!!
ザリッ!!
全部弾かれた……これは。
……はぁ、やっぱり無駄だったなぁ。
「キャンディ――」
サッ!
「あれは」
「……なんで、君が」
「何故か? それは友人だからだな」
ガッシュ……君
「あ〜痛ぇ」
「当たり前よ、頭割れてんだから」
レオにヴィオレッタ
「なんだよ……まだ休ませてくれないのか?」
「私だって骨折れてんだから手伝いなさい」
「もう未来は見えないからな」
ウィラー、ナツ、アゼル。
「どう……して」
「みんな、仲間だからだ」
「そうだな……私たちはラインザクセン学園、特殊クラスの生徒。そして魔王ノーチェ・ミルキーウェイの教え子だ。先生に教わったことは仲間を絶対に見捨てない強さ! 私たちは誰も見捨てない!! 諦めない!!」
カガリ……シュクラちゃん。
「最後だ、気合い入れろお前ら!!」
「さっきまで起き上がれもしなかった奴が偉そうに」
「うるさいぞヴィオレッタ!」
レオとヴィオレッタの漫才も程々に各自が敵に突っ込んでいく。しかし先程までの無駄の多い戦い方ではなく、相手を追い込む上手い連携をしている。そのせいか人型も反撃の機会を失っているようだ。
「本当に……馬鹿ばっかりなんだから」
私の事なんて諦めればいいのに。とっとと殺せばこんなことにならなかったのに。……あぁでも多分そんな人達だったから私は。
「あの日々を好きになれたんだろうなぁ」
魔力を集める。この人形に私の魔力を全部。……みんなを守るために。自分の居場所を見つけるために、この戦いを終わらせる!
「私が終わらせる! 援護して!!」
自分勝手だ……普通なら絶対に任せて貰えない。そう、普通ならね。
「わかった!!」
本当にみんな馬鹿なんだから!




