244話 爆弾を愛した少女
私は小さな村に生まれたただの女の子だった。両親も普通、姉も普通。友達も居て生活もそこそこでまぁ……可もなく不可もなく幸せ? だったと思う。
でもまぁそんな幸せは簡単に壊された。盗賊が村を襲いに来たのだ。私達は必死に抵抗した。でも武器を持った屈強な男たちは村にある全てを壊して、踏み潰して、喰らい尽くしていった。育てた作物は全て燃やされ、金品は荷台に運ばれて……老人は全員殺し、若い男は捕え……女は全員。
まぁよくある……村ではよくある話だった。世界という本があってその日の出来事が書かれているとすればこの村が襲われたことなんて1行書かれるか、書かれないくらいの当たり前のこと。そう……ただ当たり前のことだった。
「……」
私は何も感じなかった。燃える村を見て、殺した友人を見て……泣き叫ぶ母を見ても……命乞いをする姉を見ても……絶望の涙を浮かべながら首を転がしている父を見ても、そういうことをされていても……なんだか臭いなぁとか顔が近いなぁくらいしか思わなかった。
「……」
だけど一つだけ気になる音があった。水の当たる音や何かがこぼれる音の中で唯一パチパチと綺麗な音が聞こえたんだ。それが気になりゆっくりと首を動かすと……そこにはいつもお菓子をくれるおじいさんやお野菜をくれるおばあさんが燃やされていた。それがとっても綺麗で……綺麗で……私はその時初めて。
「……気になって見てみたら、これは貴女がやったの?」
妖精さん?
「そう」
「……ふーん。あそこで死んでるのは家族よね? どうして殺したの?」
「……わかんない」
妖精さんは灰になった何かを確認して私の顔に近寄った。
「貴女は間違ってない、間違っていないわ」
「間違ってない?」
「そう……間違ってないわ」
私は間違ってない。そっか……間違ってないんだ。
「私は間違ってない!!」
バサッ!!
爆弾を大量に!!
「風鴉!!」
ボンッボンッボンッ!!
「正しい! 私が正しい!! これが普通! 世界の普通! 当たり前なの!! 私は間違ってない! だって妖精さんも言ってたもん!!」
怒りで我を忘れてる……でもそのせいで人形を、このままじゃいつか。
「弾けちゃえ!! ボム!!」
「ッ!?」
いつの間に!?
バコンッ!!
「はぁ……はぁ……」
私は間違ってない。私は正し……
「はぁ、いってぇ……でも何とか耐えたぜ」
「嘘」
あの爆発を至近距離で受けて……どうして立っていられるの?
「おかしい……おかしいよ! 私よりあんたの方がおかしいって!!」
「……あぁ、確かにおかしいのかもしれない。でも歪み方にも種類がある。お前の歪み方は……」
「ッ! うるさいうるさい!! 私の何がわかるってんだよ!! 金持ちクラスのボンボンが!! お前達が暖かい家で呑気に暮らしてる間私がどれだけ大変な思いで生きてきたと思ってるんだ!!」
チグリジアが人形を強く握りながら続ける。
「私にはこれしかないんだよ!! お前達みたいになんでもある訳じゃなんだよ!! もう……私にはこれしか」
「まだある!」
レオの声は曇っている空を晴らすほどはっきりと元気よく響いた。
「俺達がいる! 何があってもチグリジアを1人にしないし裏切らない! こっちに来いチグリジア! お前は爆発が好きなちょつとおかしい女の子だ!」
「……私は、私はぁ!」
「君はこっち側だよ……恨んで恨んで、ひたすらに恨んで……その中で唯一愛せるモノを見つけた。こっち側の化け物さ」
「私は……化け物で」
ボン!!
「チグ――」
「キャンディ・ロープ!!」
べチャ!!
「リリュク!?」
「あれはまずい!」
何が起きてる……黒い魔力がリリュクを取り込んで。
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「何が起きてるんだリリュク!!」
「詳しくは分からない。でも多分あの魔力はチグリジアのものじゃない。前に国を襲った魔王と同じ」
「クソ! そこまでやんのかよ魔王ってのは!」
俺は地面を殴り怒りを露わにする。
「怒っても仕方ないわ。あぁなったらどうにかしてチグリジアを助けるしかない。取り込まれた状況的にチグリジアの魔力を元に攻撃してるからまだ生きてるはず。とりあえず魔王の魔力を使い切らせればまだチャンス――」
「リリュク危ない!!」
バチン!!
「……嘘」
リリュクがさっきまで立っていた地面は真っ二つに裂けて奥が見えている。シュクラが咄嗟に動かなければ今頃。
「ごめん……ちょっと無理かも」
リリュクの一言に……いや全員があの一撃を見た瞬間に感じ取った。勝てないというイメージ……確かにチグリジアを助けたいというのはある。それに関して俺たちは何でもする。だけどあれは……圧倒的すぎる。指1本動かすだけ、呼吸1つの間に奴は俺たちを全員殺すことが出来るだけの力を持っている。
「……どうするレオ」
シュクラが小さな声で聞いてくる。その声はあえて小さくしているのではなく恐怖で体が固まり声を上げるのすら難しいことを表していた。
「……」
逃げるか? いやそれすら許されないかもしれない。ならどうする? 理事長を待つ? それまであいつが何もしない保証は……
ポタッ……ポタッ
全員が汗を流しながら必死に考える。しかし俺たちはありとあらゆる行動を考えてもあの早い一撃を前に全てが無駄であるということを……
「やるぞお前ら」
「アゼ……」
「サポートなら任せろ……あいつの動きならわかる」
アゼルが黒い魔力をまとった固まりを見てから俺たちを見る。
「ちなみにそのサポートだが……戦うためのサポートと逃げるためのサポートどっちがいい? 個人的には後者をおすすめする」
アゼルは至って真面目だ。これは俺たちの命を……今後の全てを左右する大きな選択。この選択を間違えたら。ってわかってるけどさ。
ったく全員諦めてないって顔だ。
「はぁ〜……こんなクラスまとめてた先生って凄かったんだな」
「何言ってるの……あんたはそのクラス筆頭で、そのクラスまとめてるリーダーでしょ?」
「……そうだったな」
先生……俺は全てをかけて仲間を助けます。
「お前ら死ぬ気で……いや全員生きて学校に帰るぞ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」
叫び声をあげた瞬間に全員黒い塊を囲むように動く。その間にも黒い塊はさっきと変わらない速度で攻撃をしてくる。しかし……
「ナツ! 右下だ! カガリは上! レオも上! ガッシュは次攻撃だ! シュクラはガッシュのサポート!!」
完璧な指示出しだな!
「ッ!」
「こっちは気にしないでガッシュ!」
バキッ!!
「すまん! 岩石落とし!!」
ザシュ! パシュパシュパシュ!
「アゼルはどうして攻撃が分かるんだ?」
「そんなことどうでもいい! 手を動かせ!」
「魔力だ!」
「リリュク下!」
「ありがとう! キャンディ・ロード!!」
パリィ!!
「レオ! 今だ!!」
「あぁ! 最高な位置取りだ!!」
化け物の上! このまま下に降りる感じで!!
「チグリジアを返せ! 化け物がぁぁぁぁぁぁ!!」
「氷雪風!!」
ザシュ!!
斬った! 手応えは確実に!
「まだだレオ! 後ろ!」
「風乗り!」
まだ動くのかよ!
「あの攻撃を受けても余裕そうね」
「うるせぇ」
ナツが矢の本数を数えながら言った。
「次はどうするアゼル」
「あぁ……少しまっ――」
ポタッ……ポタポタ
「っあ」
「アゼル!?」
アゼルの鼻と目から血が。
「気にしないでくれ……力をこんな連続で使ったことがないから疲れただけだ」
「そんな感じじゃないよ!」
シュクラの言う通りだ……どちらかと言えばもう使ったダメな感じの。
「何言ってる……俺達はチグリジアを助けるんだろ?」
「そうだけ……でもアゼルが!」
ナツが近寄るとするとアゼルは立ち上がり叫んだ。
「俺が完璧なサポートしてやるって言ってるんだ!! 分かったら早く前を見ろ! 化け物は生きてんだぞ!」
「くっ!」
「アゼル……」
強がりやがって。
「お前ら……早く倒すぞ」
俺の小さくて強い言葉にクラスの全員が頷いた。