243話 友達の話
「はぁ……はぁ」
「容赦……ないわね本当」
「元クラスメイトだろ? もう少し優しく戦ってくれよ」
「大丈夫大丈夫、友達だから優しく殺してあげるって!!」
バキッ!!
「……レオ」
「怖い顔すんなよ……そういうキャラじゃないだろお前」
予想よりチグリジアが強い……みんな頑張ってはいるが疲労が重なってるし魔力もそろそろ。
「考え事〜? 好きな子のことでも考えてたの?」
「そうだな、先生のこと考えてたよ!」
「年上好きなんだ〜、私と戦ってるんだから私の事だけ考えてよ!!」
ボンッ!!
「ッ! いきなり爆弾投げつけてくる彼女は嫌だね!」
ガシャン!!
「あははは! いいよレオ! 私に勝てたら付き合ってあげるよ!!」
「断らせてもらうよ!」
「残念……振られちゃった」
ボンッ!! ボンッボン!!
「キャンディ・ドーム!」
「……あら? あらあらあら、どうしたのリリュク? もしかして嫉妬してるの?」
チグリジアはニヤニヤとした顔で聞いている。
「別に……まぁでもレオに恋人は少し早いんじゃないかなって」
「保護者じゃん!」
バシュッ!
「ッ!?」
「何度も同じ手を食うかよ!」
「ウィグ!!」
さっき完全に倒したと思って油断してただろ。あれくらいの怪我なら回復魔法で治すことができる!
「サウンド・クラッシュ!!」
ボンッ!!
「耳を!」
「はいはい〜次はこれ! 怨天怒乱!」
カガリとキャネルの連携攻撃、上手く時間を稼げたみたいだな。
「調子……乗んなぁ!!」
パキッ!
何か……折った?
「爆ぜろ! ボマー!!」
この魔力反応!!
「全員ここから――」
バコンッ!!
……パラパラパラパラパラパラパラパラ
「この爆発で……よくまぁ」
「……はは、これでやっと……胸張れる……な」
「お前!」
「なんで……」
「ウィラー!!」
俺たちの目の前には謎のシールドを貼って立っているウィラーが居た。
ポタッ……ポタポタポタ
「二十章……二十四番六十八列」
「はは……ったく最後の禁忌魔法が防御系ってのはどういうことなんだよ」
バタッ!
「ッ!」
「ヴィオレッタ! ナツ!!」
回復魔法の使える2人だけど……これじゃあ。
「わかってる!!」
「はぁ……あぁ! まずいこの傷は」
「なんで自分に防御魔法使わなかったんだよ!!」
「そんな余裕……ないって、ごほっ!」
ボンッ!!
ウィラーに夢中になっていると後ろから爆発音と共にチグリジアが現れた。
「はいはい! そんなしんみりしてないで早く私と戦ってよ!」
「チグリジア……」
俺はウィラーから離れてチグリジアの方を見た。ヴィオレッタとナツ以外のみんなもチグリジアを見ている。
「はぁ〜ようやく、ようやく良い目になった。そうだよ……その目だよ。本気で相手を倒そうとするその瞳。これは子供の喧嘩じゃないんだ……未来を決める大きな戦いのひとつなんだよ」
「わかってるさ……ただチグリジアをなるべく痛めつけないで捕まえるってのは無理そうかもって思っただけだよ」
「えぇ〜? なになにさっきまでなるべく傷付けないように捕まえようとしてたの〜? というかまず捕まえることも無理に決まってるじゃん」
人形を手から離して俺たちに向けてばらまく。全員がバラバラになって避け、それぞれが攻撃する。しかし人形がその攻撃に合わせて爆発して全く当たらない。
「自動で? 一体どういうカラクリだよ!」
「さぁね……でも今はどうにかして、攻撃を!」
ウィグの弓もリリュクの魔法を通じてない。
「いやぁ、にしてもあの自分勝手なウィラーがみんなのことを守るとは思わなかったよ」
「それは一体いつのウィラーのことだ?」
チグリジアは少しだけ考えるような素振りを見せてから「覚えていない」と笑いながら言った。
「マジック・アロー!!」
「それはもう見た!」
ボンッ
「ウィグ!」
直撃した! この距離じゃ助けに――
バサッ!!
「大丈夫か?」
「すまんカガリ」
ギリギリでカガリが助けてくれたか……でもこのままじゃあジリ貧だ。
どうするレオ! 全く俺は今まで先生に何を教わってきたんだ……早くいい案を思いつけ!
「レオ!」
「ッ!?」
「スタンプ・ボム!!」
爆弾がこんな……
「キャンディ・ロープ!!」
バチャ!
「はぁ……はぁ……危ない、しっかりしてレオ!」
「……すまん」
このままやってても無駄、ならまだ魔力に余裕がある今のうちに。
「リリュク」
「何?」
「ちょっと……死ぬ気で行ってくる」
それを聞いたリリュクは俺の服を軽く引っ張った。
「何するつもり?」
「先生に教わった取っておきを使う」
「……ここまで取っといた理由は?」
リリュクの真剣な質問に俺は嘘をつかずに答えた。
「体への負担が多すぎる。下手すりゃそのまま死ぬ……てか先生に大人になるまでは使わないように言われてる」
「ならやめときなさい」
俺を軽く引っ張りリリュクが前に出る。
「まだ負けてるわけじゃない。確かにヴィオレッタとキャネルが回復してて人数は減ってるけどまだ戦えてる」
確かに……チグリジアの周りにはカガリやウィグ他にもアゼルやガッシュ、シュクラが連携して攻撃している。
「でもこのままじゃ魔力切れで全滅だ」
「……その時は理事長に任せるしかないでしょ」
先程まで理事長がいた方向を見ながらリリュクが言った。
「……確かに理事長は強い。俺たちがチグリジアの魔力を削って体力を減らせば勝ってくれるかもしれない……でもそれは」
それは多分……何か違う気がする。
「悪いなリリュク……俺は」
そこまで言うと服を掴んでいたリリュクが今度は手を掴み始めた。
「行かせないから」
「何をそこまで」
「何がなんでもダメだから……絶対行かせないから」
今まで見たこともないほど強い目をしたリリュクが俺に迫ってくる。
「……そうだとしても俺は行く。多分それが俺達が先生に教わったことだから」
「そんなの関係ない! 死ぬかもしれないんだよ? もう会えないかもしれないんだよ!? それでも行くのかって聞いてるの!」
「俺の命でチグリジアのことを――」
そこまで言うとリリュクは掴んでいた手を胸ぐらに変えて叫んだ。
「私だって死ぬのは怖くない! でも……レオが死ぬのは、怖いんだよ。初めてだった……ただの友達として気軽に話せたのは。私はまた友達を失いたくない! まだ私は貴方を信じられない! 死ぬかもしれない戦いに貴方を送れない!」
息を上げて呼吸を整えたリリュクが俺の事を見る。負担冷静なリリュクだからこそこの叫びに俺は驚いた。そしてどうすればいいのか分からなくなったので……。
「わかった……必ず戻る」
そう言って俺はリリュクを抱きしめた。何故そうしたのかは分からなかったけど……そうした方がいいんじゃないかとなんとなく思ったんだ。
「レ…」
ザリッ!!
俺はリリュクの言葉を聞かずにそのままチグリジアに向かって走っていった。
「乱! 乱乱乱!」
「シュクラ疲れないのかそれ」
「大丈夫!」
みんな!!」
「お?」
レオ? 走ってきて……何するつもりだ?
「少し離れててくれ」
レオの発言に軽く驚く。しかしそれは俺だけではなかったようだ。
「どういうつもりだレオ! 私はまだ戦えるぞ〜!」
「俺もだ!」
「まだ魔力は残ってる! 矢は引ける!」
「俺も飛べるぞ!」
まだ体力はある。ウィグを乗せた状態でももう少しなら。
「いや……少しやりたいことがある」
そう言ったレオの目はどこだったかで見たような目だった。
「……わかった」
「カガリ!?」
「とりあえず全員離れるぞ!」
俺はウィグを乗せたままその場を離れた。シュクラとガッシュも納得はしてない様子だったがその場から離れていった。
「離れている間に攻撃ても良かったんだぜ?」
「それじゃあ……つまらないもんね。それにその目、何か覚悟を決めたみたいだし。しっかり受け止めてあげようかなって」
チグリジアは無邪気な笑みを浮かべて人形を取り出した。
「それにしてもチグリジア……なんでお前はこんなことしてるんだ?」
「え? それは友達を沢山――」
「違う……どうしてその道を選んだのかってことだ」
俺の質問にチグリジアは黙る。
「……」
「一体何があった」
答えないか……まぁ想定通りではあるが。
「この道を歩いている理由は分からない。でもただ一つだけ、人の肉が焦げる音と匂いは最高」
「……そうか」
思っていた反応と違ったことで驚いたのかチグリジアが再度話し出す。
「おかしいとか思わないの? というか……どうしてこんな狂った私に手を差し伸べようとするの? どうして私を殺そうとしないの?」
チグリジア……お前は
「私はみんなを裏切った敵だよ? 今まで何人も殺してきたし……というか魔王側だし。それでも君たちは私を助けようとするの? こんなおかしい私のことを」
「お前は……正して欲しかったんだな」
その言葉を聞いた時……チグリジアは人形をひとつ落とした。