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転生先は蛇さんでした。  作者: 時雨並木
夜桜編
242/261

241話 第二次天闇戦争・涕泣

「これは」


こんな広範囲に魔法を……相当な消耗があったはず。でも……。

私はチラッとノーチェの方を見る。


「あそこだけ木々がない」


魔力の問題なのかノーチェたちの問題なのか……まぁ考えてても仕方ないか。今はとりあえず援護を。


「飛び風!!」


羽から放たれた風の斬撃はハレンに向かって真っ直ぐ進んでいく。しかしアルの作り出した木に当たった瞬間それはバラバラに散っていき森の中に溶けていった。


「な、なにが」


1度地面に降りてアルの方へと向かう。すると何かを聞きに来たことを察したのかアルはハレンを見たまま口を開いた。


「この森には魔力を吸収する力があります。いえ……正確には攻撃を魔力に変換する力があります。この森の中のありとあらゆる攻撃は全て無に帰す。……この森は不戦の森、エルフ同士が戦わないようにするための森です。


「なるほど……それであの時、でも他の戦地にもこの森が」

「安心してください。……この森の効果は俺を中心に広がっていきます。遠ければ遠いほどこの森の効果は……薄れる。その証拠にあっちの方には光が差し込んでいます」


確かに……遠い森は木も少ないしところどころ崩れてる。


「わかったわ。とにかく私は何をすればいい」

「ここは味方も敵も関係なくあらゆる攻撃が不可能になります。しかしこの森の真価は攻撃をさせないことだけではありません」


アルが木を触りながら続ける。


「この森は吸い取った魔力を保存している……その保存された魔力は魔法を発動した俺の力として戻ってくる」

「なるほどねぇ……それは凄い魔法だわ」


……さっきから攻撃をしているハレンも全てアルの力に変換されているってこと。


「まぁ魔法がある程度貯まるまではここでゆっくりしておいて貰っていいですよ」


アルは優しく微笑んでくれた。しかし私はそこでひとつの違和感に気がついた。


「……? アル……その手」


私が手に触れようとした時アルは慌てた様子で手を隠した。


「なんでもありません。とにかく今は魔力の回復を」


バッ!!


「この手は何?」

「……」


アルの手は……木のように茶色くなっていた。


「この魔法は戦いを辞めさせる魔法……この魔法を発動して攻撃に変換しようとした術者はその魔法により苦しめられて体が少しずつ森の1部として変わっていきます。……これは六王、自然の王になった時得ることの出来る魔法です」

「そんな……魔法を」


六王にも特定の魔法が与えられる? いやそんなことより


「今すぐ魔法を解いて……今ならまだ間に合うはずよ」

「いえ……あと二分は必要です」


アルがチラリと後ろを見る。そこではルルが全力で杖に魔法を込めていた。しかしルルの方も羽が少しずつ削れているような気がした。


「……けないで」

「エレナさ――」

「ふざけないで!!」


私の叫び声にアルがビクリと跳ねてルルは少しだけ視線を移した。


「どうしてそんなに自分を犠牲にできるのよ!! どうして死を恐れないの!! こんなことになってる自分の体を見て……怖いって! 当たり前の恐怖心は産まれないの!?」


私には分からない。ノーチェが命を掛けて仲間を助ける理由もこの2人が魔王を倒すために命を削っている理由も。……理屈はわかる。みんなを守るために全てを掛けて戦っている。でもなぜそれができるのかは分からない。私だってノーチェの為に命を掛けていいって心から思ってる……でもそれでもきっといざとなったら私は。


「……怖いよ」


私の怒りに答えたのはルルだった。


「とっても怖い。今すぐ逃げたい。こんな杖放り投げて国に帰って家のお布団で休みたい。さっきから羽も痛いし手も痛い。なんでこんなことに、どうしてここにって後悔も沢山してる」

「じゃあなんで……」

「私達が上に立つ存在だから」


ルルの言葉を聞いたアルが静かに頷いた。


「上に……」

「命を背負う責任、仲間を守る覚悟、他にも色々……沢山抱えて私達は今の地位にいる。ノーチェが命を掛けて戦っている理由も多分同じだと思う。ただ全てを守りたいだけ」

「そんなこと――」

「できない……って普通なら思うよ。だけど私達は王だからできないことを精一杯やらなきゃいけないの。それに……」


ルルが腐り落ちそうな手を見つめてから話を続ける。


「仲間を……国民を死ぬかもしれない戦場に送り出した張本人が何もしないで見てることなんて……できない」


バコンッ!!


「ッ!? アル!!」

「あと30秒だ」


私がルルを見ている間にアルの体が木へと変化している。もう足が地面に。


「わかった! もういいから!! 私があと30秒稼いでみせるから……だから貴方は早くその魔法を!!」

「黙っててください!!」


温厚で静かなアルの怒鳴り声に私は声を止めてしまう。


「アル……」

「恩人の部下を危険な目に合わせられない!! そしてその恩人の大切な仲間を守らせて欲しい!! ただそれだけなんですよ」

「……なんで、どうして」


どうしてみんな……私を守るのよ。


「……エレナさん、ノーチェ様はきっと……」

「……え」


アルは泣いている私を見て少しだけ笑ってから前を見た。


「残り10秒……最後にこの技を送りましょう。ハレンさん!!」


アルの手がパキパキと音を立てながらハレンに向けられる。


「貴方の攻撃……お返しします。リバース・エレメント!!」


アルから放たれた魔法は4色の美しい色をしていて私はそれをただただ呆然と眺めることしか出来なかった。


……


バラバラ……バラバラ


「森が」


周りの森が崩れていく。しかしそこに残る1本の木……もうそれが生き物であったことすら、分からないほどの美しく残酷な木がそこには立っていた。


「……」

「……ありがとうアル、あとは任せて」


アルの攻撃を受けてもまだ生きているハレンのことを見てルルが杖を強く地面に叩きつける。


「ルル」


私は何とか絞り出すように声を出す。その声に気がついたルルはゆっくりと歩き出して私を通り越し、木を通り越し動きの鈍ったハレンとの距離を保ったところで歩みを止めた。


「エレナさん……貴女はとても強い人だ。ノーチェが貴女を近くに置いていた理由がよく分かる。人を思って涙を流せる貴女にはきっとこれから素晴らしい仲間や友が現れます。……いえもう現れていましたね。そしてこの辛い今を乗り越えるために……無駄に長く生きた先輩からの言葉をあげましょう」


ルルは杖をハレンに向けて迷いのない瞳をしながら叫んだ。


「自由でありなさい。何があっても辛いことでも楽しいことでもそれを表現するのに自由でありなさい。泣くも良し笑うも良し! ただ抑えないでひたすら自由に表現しなさい。それが出来れば大抵の事は越えられます!!」


ガチャ!


「さぁハレン!! 私も自由に貴女を殺しましょう!! 変化はここまで!! 私の全てはこれに乗せましょう!」


杖が光を集めて真っ白になり始める。そして限界値とでも言うべきか辺り全てが白くなったと思ったその時ルルが小さな声で呟いた。


「さよなら……私の友達」


ル……


「ホワイト・スター!!!」


地面を揺らす音、全てを包み込む白、私の意識はそれだけを感じ取って闇の中に消えていった。



……

……

……


「……今、何が」


意識が戻った私は辺りを見渡す。残っているのは土と綺麗な木だけ。


「そう……あなた達は」


木に触れて私は温かさを得ようとする。しかしその木はただの木で……動きもしなければ温かさもなかった。


「はは、あはははは……はははははははは」


もうどうしろって言うのよ……ノーチェは死ぬし私は最後までなんにもできなかったし。こんなんじゃ……


「こんなんでどうしろって言うのよ!! 何が黒翼大隊よ! 何が隊長よ!! 結局自分可愛さで何にもできない馬鹿な小娘じゃない!! ノーチェが死ぬってことで自分だけ被害者ズラして……自分だけノーチェのことをわかってる風になって!! なにも……何も出来なかった」


土埃が舞う中で声を上げて泣き続ける。木にしがみつきえんえんと声を上げて泣き続ける。そして声も出なくなって涙も枯れた頃……


「……」


いる……誰かいる。私の探知の中に誰かいる。

落ち着き始めた私は生体反応を発見した。


「近い」


10m、5m

近付いてる。これは……


ガバッ!!


「ッ!!」


バコンッ!!


「何よあんた! さっきまで声出して泣いてたじゃない!」

「ついさっき泣き止んだのよ」


魔王……ハレン・バーバット


「はぁ〜まぁいいや、邪魔な2人は死んでくれたみたいだし……とっととあんた殺して先に進むわ」

「……」

「……あらあらあらあらあら、怒んないの? さっきまで2人の為に泣いてたんでしょ? その2人を侮辱されて怒んないんだぁ〜……まぁあなたからすれば他人だし、結局のところ関係ないって訳〜?」

「……」

「ちっ、なんだよ……なんかあるなら言葉にしろよ、お前のその口は飾りか? 話すことすらできないのかよ」


無言な私に苛立ちを隠せないのか頭を雑にかいてハレンが怒鳴る。


「その目が気に食わねぇんだよ!! まだ折れてない奴の目が!! 怒りに身を任せるでもない、悲しみに打ちひしがれるでもないその目!! 私を見て戦って打ち勝とうとしているその目!! なんでそんな目ができる!! 無力に悲しみ、死に恐れ……自分の選択に後悔しろ!!」

「……私の道はね涙でできてるの」


私の一言を聞いたハレンは「はぁ?」と意味のわからなそうな顔をした。


「後悔して後悔して、諦めて諦めきれなくて……縋って、頼んで、醜く助けてもらって。だからもうねわかったのよ」

「何が!」



「自由でありなさい!」



「私に足りないのは……自分の証明だったてことによ!!」


バサッ!!


「覚悟しなさいハレン・バーバット! 貴女の目の前にいるのは魔王、ノーチェ・ミルキーウェイの部下! 黒翼大隊隊長、エレナ・ハーレルト! 空喰い……エレナ・ハーレルトよ!!」

「……はっ! 何を言ってるんだよ! お前の前にいるのは魔王本人だっての!!」


ハレンが笑いながら突っ込んでくる。しかし私はハレンの動きをゆっくりと観察して呟いた。


奴隷宣言(マリオネット)


ステータス

エレナ・ハーレルト【空喰い】

空帝黒翼Lv9

《耐性》

痛覚耐性Lv10、物理攻撃耐性Lv10、精神異常無効Lv10

《スキル》

選択する者、好感度変換(ラブパワー)奴隷宣言(マリオネット)

《魔法》

火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv10、火流魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv10、稲妻魔法Lv10

《七獄》

色欲

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