238話 第二次天闇戦争・不撓
「蝶……」
「あんなものまで……用意してたなんて」
ルルが酷く怖い顔をして呟いた。
「あれはなんだ……」
3本の棒を構えながらアルが聞く。ルルはしばらく黙った後にゆっくりと口を開いた。
「妖精は大きくわけて3種類いる。変化を嫌う通常種、変化を好む異変種、破滅を望む破綻種」
「破滅?」
「そう……何故か妖精には自分の種族を滅ぼそうとする破綻種が時折産まれるの、ノーチェの前……導く者も破綻種だったわ」
自分の種族を……破滅させる? 種の存続が生命のいみじゃないの?
「不思議に思うのも仕方ない。でもこの破綻種が産まれたのには理由がある」
「理由?」
「そう……理由だ」
そういうとルルは杖を地面に刺して答えた。
「それは妖精がこの世界に要らない存在だから」
その時のルルの顔はなんだかとても苦しそうだった。
パシュッ!!
「ッ!」
狙いが的確……さっきから岩とかに隠れて凌いでるけど攻撃出来ない。それに……。
ボウッ!
「あの感じ……矢は魔力で作ってる。となれば矢が切れるのも期待できない」
バコンッ!
「嘘!」
岩を砕かれた!? どんな威力してんの!
「ッ! 雷翔!」
「……」
稲妻魔法を風斬魔法で相殺した!? 魔法に差があるはずなのに……これがガロリアの本気ってわけ。
「……確かに強いね。でも……私だって色々背負って戦ってんだ!」
「……」
「天雷三式! 轟!!」
3本の矢による稲妻攻撃……この攻撃は3本の矢の間で雷を弾き続けることで威力が上がる。ぶつかる頃には自然の落雷以上の威力が発生する。
「……乱」
パチッ!
え? 何が起きた? 矢が全部切れて……
ブシュ!!
「いつの……間に」
「……」
傷が深い……肺にまで達してるなこれ。全くあんなに威張って戦っといてこれかよ。本当に私って主人公じゃないんだなぁ。……まぁそれもそっか、私はただのエルフの子供。ガロリアみたいな溢れる才能もなければフィーちゃんのような強さもない。クイックみたいに頭は良くないし……ノーチェみたいに覚悟もない。本当にただの子供。主人公の周りにいて特別な気分に浸ってた……ただの凡人。
「……」
ザッ
足音が遠ざかる……死んだと思われたのかな。このまま戦えばきっと死んでたよね。命は大切だもん。だいたいただのエルフである私が天才ガロリアに勝てる訳ないんだ。大丈夫、きっと誰かがガロリアを倒してくれる。だから私はこのまま……このまま。
「世界のために死ぬつもりなんてない。でも世界が滅びれば仲間だって無事では無い。だからこそ俺は世界を救うんだ」
……仲間の為になら死んでもいい。かやっぱりノーチェ貴女は
「歪んでるよ」
呟いた瞬間ガロリアが振り返った。目が合った時私は思った……これで本当に死ぬまで戦うことになったな。と
「……」
「来なさいよ……主人公」
私の言葉が通じたのかガロリアは矢を放つ。ギリギリ目で追うことの出来る速度だった為右に避けるが、避けるのを予測されていたのか避けてから撃ったのかもう一度矢が飛んできた。
「波風!」
止めなくていい、軌道をずらすだけ……魔力は温存しないと。
「……」
バシュッ! バババババババ!!
ここで連撃!? 魔力を使い果たさせる気か! どうする……今これを解いたら私は身体中穴だらけ、でも解かないと魔力切れの瞬間に射抜かれる。どっち選んでも同じじゃん!
「……」
余裕な面して! ガロリアなのにめちゃくちゃムカつく!……仕方ない、一瞬だけやるか。
「焼き尽くせ! 爆!!」
ドコンッ!!
「痛いなぁもう!!」
自分の手から爆発を生み出すので多少手にダメージが残るけどこれくらいならまだ弓を引ける。まだ……戦え――
バシュ!
「ぐっ!」
煙で周りは見えないはず……一体どうして!
肩に刺さった矢を抜いて確認する。見ただけでわかった。この矢には風魔法が付与されてる。
「風の流れと動きで私の場所を見つけたってこと? はは、ははは、本当にマジで……勘弁してよ」
ガシャン!!
「それは知ってたよ!!」
ガロリアは弓しか使わないタイプじゃない、いつか近接戦をしてくると思っていたけど……この視界の悪さで詰めてくるとはね……完全に作戦ミスだった。
ガチャ! カチャン!!
どうする私……このままじゃ体力も魔力も尽きる。どうにかして一発逆転の一手を。
「って! 考える暇もくれないのね!」
カンッ!
短剣が!
ガロリアはここがチャンスだと思ったのか右腕で持った短剣を私の腹部に目掛けて突き刺してきた。
引いたらダメだ!
「っう! あぁ!!」
短剣は……腕、もう弓は引けないけどもういい! このまま終わらせる! 肺の傷も笑えないレベルだ少しでも早く!
ガチャンッ!!
「はっ!」
短剣が……いや受け止める! 手で!!
「……」
ザシュ!
「ッ!! らぁぁぁ!!」
「……!?」
グシャッ!!
入った!
私の拳はガロリアの顔面深くにめり込んだ。
「ここで!!」
一瞬怯んだガロリアの足を全力で蹴ってバランスを崩す。倒れ込んだガロリアの上に乗り全力を込めて拳を振り下ろす。
戦い方なんてこだわってられない! 絵面なんてかんがえてられない! 今ここで勝負を決めないと仲間を助けられない!!
ベチャ! バキッ! メキュ!
ガロリアの顔から出る音なのか私の手から出る音なのかもう分からないくらいに殴り続けた。ずっとずっと殴り続けた。
「はぁ……はぁ……はぁ」
「……」
動かなくなったガロリアを見下ろして私はゆっくりと立ち上がる。両手は自分とガロリアの手で真っ赤だ。服も顔も殴った衝撃で飛び散った血がベチャベチャにくっついている。
「みんなのところに……」
倒れそうな足を引きずって他の戦場に目をやる。エレナの方になんだか大きいモヤが見えるのを確認して弓を拾って向かおうとした時……
バタンッ
私はバランスが取れずにそのまま地面に激突した。
あれ? 疲れてるのかな……いきなり右に倒れて。どうしてだろ?
起き上がろうと手を地面につけて体に力を入れる。力を入れる度に胸にできた傷から血が溢れて肺の部分に激痛が走る。しかしそれを何とか耐えて無理やり起き上がった時私は倒れ込んだ理由を知った。
「……はは」
こんなのもう、笑うしかないや。
私の少し先に飛んでいる肉の塊……あれは私の右足だ。
グシュッ!!
「死んだフリ? そんな姑息なことガロリアはしなかったけどなぁ」
背中に刺さる短剣の感触を確認しながら呟く。それはもう諦めにも似たなにかだった。
1度倒されても起き上がって負けそうになっても諦めないで短剣を腕で受け止めて……覚悟と命を全部かけても天才には届かなかった。って仕方ないかだって私……モブだもん。
「……」
グチュ
バタッ!
あ〜死ぬ……これ死ぬわ。手足の感覚無くなってきた。あ〜マジで本当に、死んだらノーチェに恨み言のひとつでも言ってやろう。……あっけどノーチェは怒るかもしれないけど、これから一緒にいられるかもって思うと少し嬉しいかも。
条件を満たしました。
条件?
……が解放されました。
それってノーチェの……。はぁ、そんなに私と一緒は嫌だ? それともまだ来るなってこと?
「ははは……いいよ、よくわかった。私は主人公じゃないしモブでもなかった」
トドメを刺そうとガロリアが短剣を私の脳天目掛けて振り下ろす。
「私はノーチェの作った物語を見届ける傍観者だった!」
バリバリッ!!
「……?」
「融合」
怪我の部分に稲妻魔法、あと手足にも稲妻魔法を融合した。これでいくら体が痛くても魔力が切れない限り戦える。
「色々気になることはあるけど今はどうでもいい。とにかくガロリアを倒す!」
ステータス
エリーナ・クルジェンタ【一閃】
電乱姫Lv1
《耐性》
物理攻撃耐性Lv3、状態異常耐性Lv4
《スキル》
知り尽くす者、混沌監獄、研究部屋
《魔法》
火炎魔法Lv5、火斬魔法Lv6、火流魔法Lv3、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv10、稲妻魔法Lv10、回復魔法Lv1
《七獄》
強欲