234話 第二次天闇戦争・信頼
……みんな、ありがとう。本当に本当にありがとう。
「ノーチェ」
「大丈夫、大丈夫だから」
涙が止まらない。覚悟はしていたはずなのに、どうしても止まらないんだ。
バコンッ!!
「……」
「お前は!」
クイックが刀を抜こうとするとレリアが手を前に出して攻撃するのをやめるように伝えた。
「……レリア」
「ノーチェ・ミルキーウェイ」
レリアの声はなんだか悲しそうで辛そうだった。
「俺は世界を憎む者だ……そしてお前の敵だ。それに変わりは無い」
……
「だがその涙を前に俺は1度戦いを止めなければならない」
レリアがそう言ってハンカチを投げた。
「拭くといい」
俺はそのハンカチを拾って涙を拭った。
「すまない」
「気にするな……そしてノーチェ、お前……自分の行く末を知っているのだな」
レリアの発言に俺は沈黙で答えた。
「そうか……やはり覚悟していてもその道は辛いか」
「違う」
俺の言葉にレリアは一瞬だけ驚いた。
「ではなぜ……泣いている」
俺が泣いている理由。それは後悔でも仲間に会えなくなることでもない。
「仲間が俺の為に戦ってくれている。仲間が俺の事を助けてくれている。それがどれだけ嬉しいか……それがどれだけこの胸を熱くさせるか、この感動、この嬉しさが俺の涙の正体だ!」
レリアは少しだけ空を見てから口を開いた
「そうか……どうやら俺にお前を止める資格はないらしい。だかそれではゼロとの約束を果たせない。せめて部下2人は止めさせてもらう」
レリアが一瞬で弓を構える。しかし2人もレリアに負けない速度で剣を抜いた。
「妨害してこないなら結構だ……行ってこいノーチェ」
「待ってるからねノーチェ」
「……行ってくるよ2人とも」
俺は家に帰る時のように軽い足取りでレリアの隣を過ぎていった。
「本当に妨害しないんだな」
「あぁ……本当に俺はあいつを止める資格がないんだ。俺のように仲間に囚われた者ではなかったからな」
「……お前」
「同情は不要! お前たち2人を生かすつもりは無い!」
そういうとレリアが矢を放った。前回全く対応が出来ていなかった2人だが今度は矢を弾きレリアの後ろに回り込んだ。
「スラッシュ!」
「エアロ・ドーム!」
ガシャン!!
絶対勝てよなノーチェ!
ザッザッザッザッザッ
ここまで来るのに沢山寄り道をして、沢山遠回りをして、沢山道を間違えた。
ザッザッザッザッザッ
いや今も寄り道してるだけかもしれない。でも俺はこの道で一つだけわかったことがある。
ザッザッザッザッザッ
俺の道は……で出来ていた。
「来たか」
「あぁ」
真っ黒な服のゼロ、真っ白な服の俺、対照的な姿の俺たちは結晶を挟んで刀を抜いていた。
パラッ
「呪怨白打!」
後ろか
パシッ!
「お前の相手は私だよ!」
ペスラがカーティオの腕を掴み岩に叩きつける。受け身を取れなかったカーティオは血を吐きながらその場に倒れ込んだ。
「任せたぞ」
「大丈夫、今度こそは最後まで」
ペスラの力を込めた拳をチラリと見て直ぐにゼロの方を見た。
「終わりにしようゼロ」
「終わりか、俺だってできるなら早く終わりにしたいさ」
皮肉を聞かせた一言を吐きながらゼロが突っ込んでくる。俺はゼロの刀に自分の刀を少しだけ当てて軌道を逸らした。
「ッ!」
バランスを崩したゼロは地面に手をついて体制を立て直そうとした。そこを狙い腕目掛けて刀を振り下ろす。しかし俺の刀はゼロの腕を斬ることはなくそのまま空振ってしまった。
「さくらの力をコントロールしたか」
なにかに気がついたのかゼロが酷く低い声で聞いてきた。
「コントロールじゃない……ただ見てきただけだ」
さくらという女の子の物語を見てきただけだ……ただそれだけなんだ。
「そうか……まぁいい、何度でもお前を殺してやる」
ゼロの言葉に反応して刀を構える。しかしゼロは何かを思い出したのか刀を振り回しながら話し出した。
「そうだ……今回の戦い、お前の心を折るために3箇所に敵を送り込んだ」
3箇所……。
「ひとつはお前の国、もうひとつは人間の国、最後はハクゼツの国だ」
「お前」
「自分の国を守っているのは知っているが他二つは知らないだろ……大切なものを奪ったお前は大切なものを奪われる悲しみを知ってもらいたくてな」
……ハナの事か。
「昔の……俺ならその一言で罪悪感や心の底から悲しさを感じていたんだろう。だけど今の俺にそれは無い。だってハナを殺したのがさくらだったとしても……それは俺に関係の無い話だから」
それを聞いたゼロはつまらなそうな顔をした。だが俺はそれだけで話を止めなかった。
「それに……お前の思惑は上手くいかない。なぜならこっちには優秀な諜報部員がいるからだ」
「やはり情報通でしたね」
「さすがです……バール様、サク様」
「はっ」
「敵の本拠地は怖かったです〜」
フィデース信栄帝国を囲うように現れた10万の敵はテグ率いる自動人形とガンド達が開発した大砲で対処する事となった。そして……
シャンデラ国外れ
「来たな」
「えぇ……来たわね」
「あれ? まだ国についてないのになんで」
「先生から情報が送られてきたんだ、多分国にチグリジアが帰ってくるってな」
レオが手紙を見せながら言った。
「そっか……さすが先生、すごいね」
チグリジアは無邪気な笑みを浮かべながら人形を取り出した。
「やっぱり……国を滅ぼしに来たの?」
シュクラが悲しそうに聞く。
「そうだよ、それがとても楽しいことだから。それにシャンデラ国に来たのは私だけじゃない。他の兵士が既に」
「それなら安心せい」
空から声がする。チグリジアがその声を確認すると傘を持ちながら優雅に空を飛んでいるロキスクが居た。
「既に敵の兵士は優秀なギルドや警備が全力で対応している」
北門
「さぁ掛かって来なさい! この私王国最強の女騎士シリア・トルノゼルが相手をしてあげる!」
「国が変わっても王国最強なのね」
「いつまで立っても子供ままですね〜」
「うっさいわね!」
「いいですから早く戦いましょうよ」
南門
「敵は人間じゃねぇ! 無理はするな!」
「隊長! 今日はしっかりしてますね!」
「うるせぇなぁ! こんな時にまで飲んでられるかよ! そんなことより早く前線に出て死んでこいや!」
「はい! 喜んで!」
「ったく」
死なせるもんか……俺がいる間は絶対に国は落とさせねぇ。
「という訳」
「なるほど……こういう時って本当に人はしぶといですよね、仲間の力? そんなものあるなら苦労しないですけど」
チグリジアが呆れた様子で言った。
「仲間の力も案外バカにならんもんだ。なぜならチグリジア、お前はこれから仲間の力に負けるのだからな」
ロキスクはそう言って傘をしまい地面に降り立った。
「それじゃあ選手交代だ、私は国の対処に向かう! グレた友を真っ直ぐに戻す役目は任せたぞ」
「あぁ! 俺たちはそういう奴が集まってるからな! 直ぐに治してやる!」
「先生に殺し屋送り込んだたやつがよく言うわよ」
「ね〜」
「う、うるさい! てかその話はまじやめて……結構心にくる」
「一生後悔しなさい!」
ナツがウィラーのおでこを弾く。思ったよりも痛いのかウィラーはおでこを擦りながら涙目になっていた。
「とにかくここから先には行かせない……行くなら私たちを全員、殺していきなさい」
ヴィオレッタが小さな杖を取り出して叫ぶ。他の生徒もそれぞれ武器を取り出した。
「そう……昔の友人はなるべく優しく殺そうと思ってたけどこうなったらそれも無理そうだね。じゃあ仕方ない……無惨に殺して先生に見せてあげることにするよ」
ニヤリと笑ったチグリジアが人形を投げつける。昔の生徒達ならそれを弾くことすらできなかったかもしれないが今のみんなは昔とは比べ物にならないほどに強い。
カチャン
「レオ」
「いいだろこの刀、先生に頼んで貰ったんだ。俺の得意な魔法を込められる」
自慢げに刀を見せていたレオの顔が真剣なものになる。
「俺達が先生に教わったことは仲間を大切にすることだ。チグリジア……お前だって例外じゃない」
「貴女の色は好きなの、またお絵描きしたいから戻ってきて貰うから!」
チグリジアは大きなため息をついてから謎の空間から大量の人形を取り出した。取り出された人形は宙を浮いている。その数は数えるのが嫌になるほどだ。そしてチグリジアの表情はなんだか少しだけ嬉しそうだった。